ベートーヴェンの超定番30曲解説【上級編】:生誕250周年ベートーヴェンを聴こう
生誕250周年という記念すべき年を迎えたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。時代を超えて最も影響力のある、重要な作曲家の1人であることは言うまでもない。耐え難い肉体的、精神的苦痛の中で(40歳で完全に聴力を失っている)作曲された彼の音楽は、残酷なまでの現実に相対した人間の精神力を示す一つの証となっている。
生誕250周年の今年、ベートーヴェンが残した傑作に改めて触れていただきたく、ベートーヴェンの超定番曲を30曲をセレクト。初級編・中級編・上級編に分けて、音楽ジャーナリスト、寺西肇さんの解説でご紹介する。今回は上級編10曲をご紹介。
【上級編】
ピアノ協奏曲第4番
36歳の誕生日前後、1806末頃に完成した。幻想的な第1楽章に、剛柔の楽想が好対照を成す第2楽章、喜びに満ちたロンドの終楽章で構成。特にソロとオーケストラの対話は緻密さを増し、より交響楽的な響きを紡ぎ出す。約30年後にメンデルスゾーンが披露して以降、当曲の人気は飛躍的に上がった。
ミサ・ソレムニス~キリエ
「私にとって、最良の作品」。1823年春に完成した自作《ミサ・ソレムニス》を、楽聖はこう評したという。カトリックのミサ通常文に基づきつつ、人類に共通した祈りとして昇華した傑作。その第1曲〈キリエ〉は、管弦楽と合唱が力強く、中間部では合唱とソリストがしみじみと、神への賛美を交わす。
管楽器とピアノのための五重奏曲
ウィーンへ移住して約5年、聴衆の人気を得るため、サロンで奏する娯楽作品も手掛けた20代後半の楽聖。その一環で生まれた当作は、同じ調性・編成のモーツァルトの作品を手本としつつも、魅力的な楽想が次々に現れ、意表を突く転調を伴うなど、「管を含む室内楽作品の中で、最も野心的」と評される。
弦楽四重奏曲第9番《ラズモフスキー第3番》
楽聖は1806年、ロシア特命大使のラズモフスキー伯爵からの依頼で、3つの弦楽四重奏曲を作曲。その「第3番」は剛柔の要素を併せ持ち、特に第3楽章メヌエットでは、親しみ易い雰囲気に、強弱とリズムで諧謔の妙も。また、終楽章では息詰まるフーガをソナタ形式へ落とし込む、熟達した作曲技巧で魅せる。
ヘンデルのオラトリオ《ユダス・マカベウス》の〈見よ、勇者の帰還〉による12の変奏曲
3曲あるチェロとピアノのための変奏曲は、人気声楽作品の名旋律に材を取り、特にピアノ・パートの名人芸が前面に。当曲は1796年の作と推定され、24小節の主題は、表彰式の音楽として知られる、ヘンデルのオラトリオ《ユダス・マカベウス》第3部の合唱曲に基づく。これに、変幻自在な12の変奏が続く。
ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》~第3楽章
「シェイクスピアの『テンペスト』を読みなさい」。31歳の作曲家は、当作の意図を尋ねた弟子に、こう応えたという。「これからは、全く別の道を行く」と“宣言”したばかり。幻想と構築感が好対照の第1楽章、厳粛な雰囲気を湛えた第2楽章、憧れを追い続ける終楽章が、絶妙の均衡を成す意欲作だ。
歌劇《フィデリオ》~良い妻を娶った者は
16世紀スペインを舞台に、無実の罪で投獄された夫を救うため、「フィデリオ」という名の男性に身をやつして監獄へ潜入、遂には夫を取り戻す妻レオノーレの、不屈の精神と深い愛情を描く歌劇。大団円で、人々が勇敢な妻を讃える合唱曲には、心ならずも生涯を独身で終える楽聖の、羨望の思いもこもるよう。
チェロ・ソナタ第3番
《運命》《田園》交響曲を生み、“傑作の森”と称される1808年に作曲。予定した協奏曲の献呈ができず、その代償として親友へ贈った、との説も。チェロの魅力を最大限に引き出す一方、緻密さと大胆さを併せ持つピアノの充実した書法にも恵まれて、古今のチェロ・ソナタ中でも、特に愛されている傑作だ。
アデライーデ
「アデライーデ! 君の面影は、星の世界で瞬いている…」。野を逍遙しながら、伸びやかに謳われる、恋人への一途な想い。まだ20代半ばだった気鋭の青年作曲家が、同時代の詩人マティソンの作品に曲を付けたリート(歌曲)は、どこまでも瑞々しい。かたや、絶妙の転調が、奥深い滋味と余韻をもたらす。
ピアノ三重奏曲第7番《大公》
滔々と流れる大河のような第1楽章をはじめ、40歳の楽聖が創造した全4楽章は、「ピアノ三重奏」という枠組みを超越し、雄大で協奏的。かたや、美しい旋律や和声にも彩られ、古今の室内楽作品の中で“最高傑作”のひとつとも。愛称は、楽聖の最大の後援者、ルドルフ大公に献呈されたことに由来する。
Written by 寺西肇(音楽ジャーナリスト)
■プレイリスト
『生誕250周年 ベートーヴェンを聴こう!』
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