アンドレア・ボチェッリ、新作『Believe~愛だけを信じて』について語る最新インタビュー

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MARCO FUMAGALLI

現代最高峰のテノール歌手、アンドレア・ボチェッリが11月、2年振りとなる待望のニュー・アルバム『Believe~愛だけを信じて』をリリースした。グラミー賞27回受賞のレジェンド、アリソン・クラウスや世界的なメゾ・ソプラノ歌手であるチェチーリア・バルトリとの共演に加えて、エンニオ・モリコーネの未発表曲や名曲「ハレルヤ」などバラエティに富んだ楽曲を収録した意欲作だ。今回、そんな彼の最新インタビューが到着。新作の制作について、聴きどころなどを聞いた。



クラシックとポピュラー・ミュージックの両ジャンルに跨がって幅広い層のファンを獲得している、世界で最も有名なイタリア人テノール歌手、アンドレア・ボチェッリ。昨年は、自身の体験を「アモス」という名の主人公の少年に投影した、自伝的小説を原作とする映画《アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール》が日本でも公開されて話題に。

2020年は4月12日(日本時間13日午前2時)のイースター・サンデーに、コロナ禍で都市封鎖中のミラノの歴史的建造物・大聖堂ドゥオーモにて、無観客コンサート「MUSIC FOR HOPE(希望の音楽)」を開催。〈アメイジング・グレイス〉など5曲を披露し、その模様は世界中に生配信され、音楽パフォーマンスとしては史上最多、クラシックもののライヴ配信としてもYouTube史上最多の同時視聴者数を記録。アーカイブは放送開始後24時間以内で2800万回以上再生されるなど大きな反響を呼んだ。

その後、自らも新型コロナウイルスに感染していたと明らかにし、既に回復して治療研究用に自分の血漿(けっしょう)を病院に提供したと報道陣に語ったのも記憶に新しい。そんなボチェッリからニュー・アルバム『Believe~愛だけを信じて』が届けられた。

「アルバムのアイデアはロックダウン中に思いつきました。レパートリーや選曲などについては、その期間中に私たちがみな経験した心境が反映されています。収録曲は宗教歌、または少なくとも人々の魂の理性とリンクしている歌ばかりです。魂の理性を思い起こさせる精神的、神秘的なものを、私たちはいまだかつてないほどに必要としているからです」

ライナーノーツによると本作のコンセプトは「信仰」と「希望」そして「慈愛」。各国で大勢が苦しい状況に置かれている現在において、音楽を通じて人々に安らぎを与えたいという想いが込められている。アルバムのタイトルに「BELIEVE」という言葉を選んだことについて、熱心なカトリック信者でもある彼は以下のようにコメントしている。

「信仰、希望、そして慈愛という3つの言葉には支えが必要で、それが無ければ存在し得ない。そしてその支えというのは、信じる(believe)という言葉に集約されます。つまり、私たちは自らが行い、考え、追い求めているものを信じる必要があるということです。

他人を思いやりたいと感じるなら、その行いに深い信念をもって行う必要があります。希望を持ちたいと願うなら、より良い未来を信じる必要があります。そして信仰というのは非常に優れた信条でもあるのです」

アルバムはミュージカル《回転木馬》から生まれ、後に勇気と団結を鼓舞する応援歌としてサッカー・クラブなどのアンセムにもなった〈ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン〉で幕開け。単なるラヴ・ソングのような類いの楽曲はなく、全体的に敬虔な雰囲気に包まれている。クラシックの作曲家による宗教作品にまじって、ラテン語の典礼文にボチェリが曲を書いたオリジナルの〈アヴェ・マリア〉があるのも聴き所。

「ロックダウンの間、私はよくピアノを弾いていましたが、そんなことは久しぶりでした。ある日一つのアイデアが浮かび、それを基に〈アヴェ・マリア〉の旋律が生まれ、そこからアルバムのコンセプトを思いついたのです。

カナダの生んだ偉大な詩人でシンガー・ソングライターであるレナード・コーエンの〈ハレルヤ〉から〈アルビノーニのアダージョ〉やフォーレの〈ラシーヌ讃歌〉、そして私が子どもの頃に大人たちが手にキャンドルを持ちよく歌っていた伝統的な歌まで、多様なジャンルから選曲されたアルバムだと言えるでしょう。

なかには南イタリアで守護聖人の日に歌われる聖歌〈ミラ・イル・トゥオ・ポポロ〉のように非常に美しく、一見シンプルに見えるが音楽的にも良く構築されていて深遠な曲もあります。このようにとても幅広い内容ですが、魂という共通したテーマは貫かれています」

アッシジの聖フランチェスコの半生を描いた、フランコ・ゼフィレッリ監督《ブラザー・サン シスター・ムーン》(1972年)からの曲や、1917年にポルトガルで起きた「ファティマの聖母」の奇跡を描いた、マルコ・ポンテコルヴォ監督《FATIMA》(2020年 ※日本未公開)のエンドクレジット・ソング〈グラティナ・プレナ〉など、信仰がテーマの映画からの楽曲も収録。また、今年の7月6日に91歳でこの世を去った、イタリアが生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの未発表曲も聴き逃せない。

「これはとても興味深いことだと思いますが、この曲はマエストロ・モリコーネが亡くなる1か月ほど前に作曲されたものだということを聞かされました。この世を去る一月前に祈りとなり得る曲をマエストロが書いたという事実は非常に意味のあることだと思いますし、個人的な意見ではありますが、全くの偶然では無いと考えています」

そして、ボチェッリといえば音楽ファンの間で周知なのが“デュエットの達人”ということ。前作の『Sì~君に捧げる愛の歌』(2019年)でも息子で歌手のマッテオ・ボチェッリから、エリー・ゴールディングやエド・シーラン、デュア・リパなどポップス・シーンの大スターに、女優のジェニファー・ガーナーまで、多彩なアーティストたちとの豪華コラボで魅了してくれたが、今回もアメリカのカントリー・ブルーグラス界のトップ・シンガーであるアリソン・クラウスと名曲〈アメイジング・グレイス〉での共演が実現。

また、現代最高峰のメゾ・ソプラノDIVAチェチーリア・バルトリとのデュエットが2曲も収録されていることに世界中のオペラ・ファンが驚喜していることだろう。特に以前、英国が誇る人気歌手キャサリン・ジェンキンスとのデュエットでもヒットした〈アイ・ビリーヴ〉を再録音しているのも嬉しいサプライズのはずだ。

「チェチーリアとは長い間お互いを尊敬し合ってきた間柄です。今回の〈アイ・ビリーヴ〉という曲は、実はこの曲が20年以上前にチョン・ミョンフンとサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団により録音(※アルバム『アヴェ・マリア 地球讃歌2』にボチェッリの単独歌唱で収録)されて以降、彼女とのデュエット曲として候補にあがっていたものです。

その時は実現しなかったのですが、理由は思い出せません。私たちが求めるレベルまでにクオリティを高める時間が無かったからかもしれません。それから長い時を経て、この美しいデュエットが誕生したというわけです」

プロデュースを手掛けたのはスティーヴン・メルクリオやハイドン・ベンダル。メルクリオは殆どの楽曲のオーケストレーションなども担当している。

「これまでにたくさんの時間を共にしてきたスティーヴとの作業は、とても喜ばしいものでした。彼とは多くのオペラを録音してきました。特に『イル・トロヴァトーレ』、『カヴァレリア・ルスティカーナ』、『道化師』はよく覚えています。レコーディングだけではなくマディソン・スクエア・ガーデンなどの数々のコンサートも共に創り上げてきました。

暫くはお互いの道を進み共演することはありませんでしたが、今回こうして再び仕事を共にし、親密な時間を過ごせたことをとても嬉しく思っています。コロナ禍という状況下にあっても、アルバム制作の作業はとてもポジティヴなものでしたし、私自身にとっても非常に感動的なものでもありました」

日本時間の12月13日(日)18:00には配信コンサート「Believe in Christmas」を予定。シルク・ド・ソレイユを大成功に導いたことで知られる世界的演出家フランコ・ドラゴーヌによるディレクションでパルマ王立劇場から数々のスペシャル・ゲストを交え、クリスマスにふさわしいゴージャスなイベントになりそうだが、やはりファンとしては来日コンサートが待たれるところだろう。

「私の歌、そして音楽を届けるために日本をぜひ訪れたいという気持ちはこれまで以上に強いものとなっています。ツアーが出来るということはこの状況が改善され、日常に戻れるということでもあるので、一日も早くそれが実現できると良いと思っています。日本の皆さんが健康であること、そして皆さんにお会いできることを楽しみにしています」

Interviewed & Written By 東端哲也


■コンサート情報

配信コンサート「Believe in Christmas」
日本時間12月13日(日)18:00開催
チケットはコチラ
※アーカイヴ配信は予定されておりません。


■リリース情報

アンドレア・ボチェッリ『Believe~愛だけを信じて』
2020年11月18日(水)発売
CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

収録曲:
1. ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン
2. ブラザー・サン、シスター・ムーン
3. ハレルヤ
4. ピアニッシモ (w/ チェチーリア・バルトリ)
5. アメイジング・グレイス (w/ アリソン・クラウス)
6. 祈り (トスティ)
7. グラティア・プレナ (映画『FATIMA』より)
8. ラシーヌ讃歌 (フォーレ)
9. インノ・スッスラート ※エンニオ・モリコーネの未発表曲
10. アルビノーニのアダージョ
11. アイ・ビリーヴ (w/ チェチーリア・バルトリ)
12. アヴェ・マリア
13. 神の天使 (プッチーニ)
14. 神の仔羊
15. 夜も昼も ※ボーナス・トラック
16. ミラ・イル・トゥオ・ポポロ ※ボーナス・トラック
17. アメイジング・グレイス (ソロ・バージョン) ※「Music for Hope」より ※ボーナス・トラック



 

 

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