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バート・バカラックの魅力とは:過去100年のポップス界において最高峰のソングライターの一人
アルバム『Anyone Who Had A Heart – The Art Of The Songwriter』は、バート・バカラックの60年にわたるキャリアの集大成ともいえる作品だ。
過去100年のポピュラー・ミュージック界において、まぎれもなく最高峰のソングライターの1人に数えられるバート・バカラック。現代では、彼の功績と肩を並べるソングライターは、ごく僅かだ。また、彼はパフォーマーとしてスポットライトを浴びたごく少ないソングライターの1人でもある。
バート・バカラックの楽曲は、ディオンヌ・ワーウィック、ダスティ・スプリングフィールド、エルヴィス・コステロ、カーペンターズ、オアシスのノエル・ギャラガー、トム・ジョーンズ、セルジオ・メンデス等、多彩なアーティストにレコーディングされ、その幅の広さではバート・バカラックの右に出るものはいないだろう。
彼の名前は、美しく、時に風変わりなメロディの代名詞とも言える。そのメロディは、ポピュラー・ミュージックの中でも特にロマンティックなバラードの音風景を作り出した。また、彼の楽曲は、ポップ・ヒットであれ、映画音楽であれ、ブロードウェイの音楽であれ、聴けばすぐに彼の楽曲だと分かる。彼のトレードマークともいえるコード進行、シンコペーションのリズム・パターン、独特のフレージングが入っているためである。
彼は、最も才能に恵まれ、尊敬されているソングライターの1人だ。彼のようなソングライターは、おそらくもう登場しないだろう。“天才”という言葉は、現代世界では乱用されているが、彼こそは“天才”と呼ばれるにふさわしい。バート・バカラックは天才なのだ。
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初期とディオンヌ・ワーウィック
ミズーリ州カンザスシティで生まれたバート・バカラックは、ニューヨークのフォレスト・ヒルズ地域で育った。高校卒業後はマギル大学で音楽を専攻、その後アメリカ陸軍に入隊した。除隊後はヴィック・ダモーンやスティーヴ・ローレンスといった歌手のピアニストとして働き、その後マレーネ・ディートリヒの音楽監督となる。
1957年、バート・バカラックは作詞家のハル・デイヴィッドと曲を書き始めた(ハル・デイヴィッドは、バート・バカラックにとって最も縁の深い作詞家となる)。マーティ・ロビンスやペリー・コモにヒットを書いた後、ディオンヌ・ワーウィックと仕事を始めると、ディオンヌ・ワーウィックはバート・バカラックの楽曲を歌うシンガーとして、最もよく知られた存在となった。
それから間もなくして、ハート・バカラックはダスティ・スプリングフィールドと仕事をすると、彼女は映画『007/カジノ・ロワイヤル』のサウンドトラック用に「The Look Of Love(恋の面影)」をレコーディングした。
同楽曲は多くのシンガーに歌われたが、ダスティ・スプリングフィールドのヴァージョンは決定版だと多くの人々に考えられている。彼女はまた、ディオンヌ・ワーウィックの「Wishin’ And Hopin’」も見事にカヴァーした。
トム・ジョーンズやカーペンターズ
トム・ジョーンズも1965年、『何かいいことないか子猫チャン』のサウンドトラックに参加し、バート・バカラックのペンによる映画のタイトル・ソング「What’s New,Pussycat?」をレコーディングした。トム・ジョーンズはその他にも「What’s The World Needs Now Is Love」「Any Day Now」「Promise Her Anything」等のバート・バカラック楽曲をカヴァーしている。
「(They Long To Be) Close To You」は、カーペンターズが最初にレコーディングしたと考えている人が多いだろう。しかし実際のところ、同曲が最初にレコーディングされたのは、カーペンターズの7年前、1963年のことである。1960年代にドクター・キルデアとしてテレビ番組『ドクター・キルデア』で人気を博していた俳優、リチャード・チェンバレンが同曲を歌っていたのだ。
そんなカーペンターズはそのキャリアの中で、バート・バカラックの楽曲を数多くレコーディングした。アルバム『Made In America』に収録された美しい「Somebody’s Been Lyin’」もそのうちの1曲だ。
1,000人以上のアーティストが、彼の楽曲をカヴァーしていることからも、バート・バカラックの卓越した才能が分かるだろう。その中でも「The Look Of Love」は200近くのヴァージョンが存在しており、中でも特に印象的な(また、ダスティ・スプリングフィールド のヴァージョンとは大きく異なる)ヴァージョンは、ブラジルのリズムと情熱に溢れたセルジオ・メンデスによるものである。
バート・バカラック とハル・デイヴィッドが書いた「Make It Easy On Yourself」は、1962年にジェリー・バトラーのレコーディングで全米チャートのトップ40に入るヒットとなった。それから3年後、同曲はウォーカー・ブラザーズ(カリフォルニア出身の彼らは、カーナビー・ストリートに代表されるスウィンギング・ロンドン時代、ロンドンに住んでいた)によってカヴァーされると、バート・バカラックにとって初の英国ナンバーワンを獲得した。
ジャスミュージシャンによるカバー
興味深いテンポの変化とクレヴァーなメロディを持つバート・バカラックの楽曲は、 多くのジャズ・アーティストにも受け入れられ、スタン・ゲッツやピアノの名匠マッコイ・タイナーは、バート・バカラックの楽曲だけを収録したアルバムをレコーディングした。
また、ビル・エヴァンス、ウェス・モンゴメリー、ジョージ・ベンソン等もバート・バカラックの楽曲を数多くレコーディングしている。バート・バカラックも自身の曲をフィーチャーしたアルバムを数多くリリースしているが、これらのアルバムは、楽曲を書いた本人が同曲を解釈しているかが分かる素晴らしい作品だ。
コステロとのコラボ
そんなバート・バカラックは、同年代にデビューしたソングライターの大半よりもパワフルで息の長い活動を続けている。エルヴィス・コステロは1998年にリリースしたアルバム『Painted From Memory』で、バート・バカラックとコラボしている。
同アルバムには、エルヴィス・コステロが激しく情熱的に歌い上げた名曲「God Give Me Strength」の他、「The House Is Empty Now」、「In The Darkest Place」、そしてアルバムのタイトル・トラック等、全12曲が収録されている。『Painted From Memory』は、誰もがレコード・コレクションに入れるべきアルバムである。
ポピュラー・ミュージックは、世界で最も喜ばれているアート・フォームだ。そして、バート・バカラックは、ソングライターというアートを絵に描いたような人物だ――そして彼は、そのアートを過去60年にわたって発表し続けていたのだ。
Written By Richard Havers
バート・バカラック『Anyone Who Had A Heart – The Art Of The Songwriter』
2013年6月10日発売
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エルヴィス・コステロ&バート・バカラック『The Songs of Bacharach & Costello』
2023年3月3日発売
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