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ザ・ビートルズ「Revolution」解説:1968年という背景と“3通り”あった楽曲ができるまで
「“Revolutionには3通りある」
1971年にジョン・レノンがこう述べている。
「ふたつは歌もの、もうひとつの抽象作品で、あれを世間がなんて呼ぶかはわからない。…音楽の具現化、ループ……とにかく革命を表現したものだ」
この楽曲はいったいどうして生まれ、その生まれた年にはどういった意味があるのか?
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楽曲ができた年、1968年の意味
2度にわたる世界大戦は例外として、20世紀で1968年ほど世界が一触即発で分裂した年はなかった。1968年が始まると、“サマー・オブ・ラヴ”は不平・不満の冬へと移り変わっていった。世界中で革命の機運が高まったのである。
1968年に行われた五月革命こと、パリでの学生デモはフランスを陥落させた。経済活動は止まり、ド・ゴール大統領は一時的に国から退避し、内戦を恐れて軍部の将軍に意見を仰いだ。チェコスロバキアの市民運動は国家を動揺させ、ソ連はプラハの街に戦車を送った。ロンドンではベトナム戦争への反対運動のデモ隊がグロヴナー・スクエアで機動隊と衝突。86人が負傷する事態になった。
マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとロバート・ケネディの暗殺という大事件が起こったアメリカでは、全土で反戦運動や公民権運動のデモ隊と警察隊が度々衝突。シカゴの民主党大会での5日間の抗議運動で緊張は最高潮に達した。
前後して、さらに女性解放運動も興り、多くの政治運動が地下組織や西側諸国の大学で巻き起こった。1968年には、自尊心のある学生の部屋の壁には必ずチェ・ゲバラのポスターがあったものだ。
ジョン・レノンはそうした情勢を次のザ・ビートルズのシングルで歌う使命感を感じていた。ジョンは、世界の他の地域での喧騒から離れたインドで「Revolution」を書いた。同曲でジョンは、良い未来が待っていると歌っている。権力に抗うより心を解き放つ方がいいはずだと伝えているのだ。
「”神が我々を救う”という想いをそこにも込めている。なんとかなるさとね」
だがジョンの社会評論は一見するよりも実は複雑で、どちらの味方に付くか決めかねる彼の混乱が読み取れる。ジョンは「Don’t you know that you can count me out/in ([暴力革命から]、俺を外しても、頭数に入れてもいい)」と歌う。実力行使をするか、非暴力的な方法で変革を求めるか彼が迷っていることがわかる。
10分半に及ぶ長尺の実験的演奏
このころには、既にいつものパターンになっていたが、ザ・ビートルズは新作の制作をジョンの曲から始めた。今回の場合は「Revolution」だ。
制作が始まったのはパリの街が約50万人のデモ隊に埋め尽くされていた5月30日だった。その日最後のテイクとなったテイク18は、10分半に及ぶ長尺の実験的演奏になった。後半の約6分はサウンド・エフェクトのテープや叫び声、即興の歌唱がないまぜになった混沌の音世界である。
ジョンはこれをシングルにしたいと考えていたため、後半の6分は削られた。その削除された部分は『The Beatles (White Album)』の最後から2番目の楽曲で、最も物議を醸した楽曲になったジョンのサウンド・コラージュ「Revolution #9」のベースになった。
それから数日のうちに、テイク18を基にして「Revolution #1」が制作された。ジョンは変わったサウンドにするために仰向けになってヴォーカル・パートを録ったという。ドゥーワップ調のバック・コーラスやさまざまなテープ・ループ、その他の楽器も追加された。6月21日、ジョン、ジョージ・ハリスン、ジョージ・マーティンの3人は同曲の制作に戻った。マーティンのアレンジによるブラス・セクションとハリスンのリード・ギターを加え、レコーディングは完了した。
しかしポールとジョージは、完成した楽曲 (アルバム・ヴァージョン) がシングルとしてはテンポが遅すぎると判断。そこで7月9日になって、テンポの速いヴァージョンが録音された。目一杯歪ませたギターの音色と力強いドラミングを加えることで、こちらはぐっとヘヴィな仕上がりになっている。「Hey Jude」とのカップリングでシングル・カットされたのは、このヴァージョンである。1971年の前半にジョンは以下のように語っている。
「シングルとしてリリースしたヴァージョンは、よりコマーシャルな仕上がりにした……”count me out/in”ってフレーズも外した。俺は臆病だからね。殺されたくなかったんだよ」
“Revolution #9”とは革命の音で描いた絵画
「Revolution #1」が完成した後、ジョンはビートルズ史上最も長い楽曲の制作に乗り出した。それが「Revolution #9」だ。
「あれは革命の音で描いた絵画だ。殺人や殺戮、人びとの叫び声や子供たちの嘆き。そんなものを表現したかった」
そしてジョンは1974年にニューヨークのDJ、デニス・エルサスの取材でこんな風に語っている。
「ループはたくさん使った。テープ・ループ、ただの輪状のテープだよ。同じ音を何度も繰り返すんだ。別々のモノラルのレコーディング・マシンに10個くらいのテープをつけて、全部同時に回すんだ。鉛筆や何かを支えに使ってね。“Revolution #1”の終わりの方の音源をベースにして、それを何度も何度も繰り返した。そしてその場で別のテープに吹き込みながら、DJのようにフェーダーで音を入れていった。偶然の産物だよ。確か2度やって、たしか2度目に録った方をを採用した」
「Revolution #9」は「Revolution #1」が完成する前日の6月20日、ジョンとジョージ・ハリスン、ジョージ・マーティン、オノ・ヨーコによってミキシングされた。セッションは込み入ったものになり、長い時間を要した。そしてそれはそのまま、『The Beatles (White Album) 』のレコーディングの様相を決定付けることにる。
Written By Paul McGuinness
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