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R&Bの反逆児ジェシー・レイエズが世界的スターダムの入口に立つまでの8つのステップ
ジェシー・レイエズ(Jessie Reyez)は、その場を満たしながら静寂させることができる魅力的な声の持ち主である。その独特の抑揚を放つ歌声と、毅然たる歌詞で多くのファンを獲得してきた彼女は、今まさに世界的なスターダムへの入口に立ったばかりなのだ。
彼女はポップ・スターダムへと続く道のあらゆるチェックボックスをクリアしてきた。ソールドアウトの公演? イエス。深夜のTV番組出演で主役をさらうほどの話題性? 勿論。グラミー賞のノミネーション? 当然。
デビューEP『Kiddo』から、ブレイクのきっかけとなったブルージーで小粋なR&Bに乗せて失恋ストーリーを歌ったヒット曲「Figures」をリリースしたのは4年前のことだったが、彼女はそこから瞬く間に成功を手にしていく。高い評価を得た数作のEPと数本のフェス出演、ジュノー賞受賞にグラミー賞ノミネーションを経て、このコロンビア系カナダ人の女性シンガーはいよいよ世界征服へと乗り出す構えだ。
FMLYとアイランド・レコードというメジャー・レーベルから2020年3月27日にリリースされたジェシー・レイエズのデビュー・アルバム『Before Love Came To Kill Us』を記念して、我々は彼女が辿ったポップ・スターダムへの道を8つのステップで分析してみた。
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R&Bの反逆児ジェシー・レイエズが世界的スターダムの入口に立つまでの8つのステップ
1. 長期戦を制す
2020年はジェシー・レイエズの年になるはずなのだが、彼女のスターダムへのこれまで道のりは決して短いものではなかった。ひとつの曲が一夜にして世界中に拡散するこの時代にあって、彼女の活動ぶりはむしろその流れに逆行していた。自ら客の呼び込みをしたり、ミックステープを手売りしたり、トロントの街角で路上演奏をしたりしながら、虎視眈々とチャンスを窺っていたのである。
そんな人生の束の間の時をマイアミで過ごした後、ジェシー・レイエズは故郷トロントで実施されていた、低所得家庭出身のクリエイティヴな才能を持つ若者たちを支援する非営利アート育成プロジェクト“ザ・リミックス・プロジェクト”に参加することになった。
そこでの指導者のひとりだったシカゴ出身のラッパー、キング・ルイがジェシー・レイエズに大いなる可能性を身い出し、2014年に彼女をギターとバッキング・ヴォーカルでフィーチャーしたコラボレーション曲「Living In The Sky」をレコーディングする。この共演によってトロントの外でも話題を集めた若きシンガー・ソングライターはすぐにパーティーネクストドアによる『Infinity World』ツアーのオープニング・アクトに抜擢され、世界各国を廻った後、自ら立ち上げたFMLYレーベルからEP『Kiddo』をリリースした。
それからちょうど一年後、彼女はアイランド・レコードとの契約に漕ぎ着ける。かくして『Kiddo』(2017年)と『Being Human In Public』(2018年) という2枚のEPの実績を手にしたジェシー・レイエズは、いよいよ大々的なメジャー・デビューのための舞台を戦略的に整えるに至ったのだった。
2. 自分に賭ける
ジェシー・レイエズの書く歌詞は驚くほど無防備でありながら、彼女は自己疑念に無駄な時間を費やすような人間ではない。彼女は強烈に野心的であり、彼女の歌詞に極限状態をテーマにしたものが多いように感じられるのは、本人がまるで一日一日命を燃やし尽くすようにして生きている故だろう。
「私は毎日死について考えてる/そんなのちょっとおかしいって言われてきた/だけど私は昔からずっとちょっと普通じゃなかった気がしてる/それも私がバカみたいに一生懸命働く理由/顔に化粧を施して歩き回る」
と、彼女は「Saint Nobody」で歌う。また、ジェシー・レイエズは「Great One」の中でもこれに似た感情を表現し、こう歌っている。
「億万長者になりたい/それをうちのパパに持っていって/こう言って、“パパ、あんたが欲しがってたやつだよ”って」
言うなれば移民第一世代のメンタリティ、あるいは不断の労働に対する美学と呼べないこともないが、彼女が「伝説として死にたい」と口にする時、それは本気なのだ。
3. 常に自分のルーツを偽らない
コロンビア人の両親の下、トロントで生まれたジェシー・レイエズは、ラテン文化の中で育ち、彼女の作品の多くは多文化における経験を明確に示唆している。また彼女の家庭は音楽が溢れており、父親はトリオ・ロス・パンチョスの「Bésame Mucho」のようなトラディショナルなボレロ曲を演奏し、母親には親族の集まるパーティーでクンビアを踊るよう教えられた。さらに彼女は自分の生い立ちから、家族を最優先するようになったと言い、それは彼女の星が上昇を続ける間も少しもブレることはなかった。
彼女は自身の作品の中で、一貫して自らのルーツへの敬意を示している。『Kiddo』 には「Colombian King And Queen」と題された短いインタールードがフィーチャーされているが、この音源は娘の成功を願う彼女の両親からの心温まるヴォイス・メールだ。続くEP『Being Human In Public』には美しいアコースティックの子守歌「Sola」が収められており、さらにアカデミー賞にノミネートされたアルフォンソ・キュアロン監督映画『ローマ』のために彼女は「Con El Viento」を書き下ろしている。
だが、ジェシー・レイエズがひとつのムーヴメントを象徴する存在となったのは、2019年のトラック「Far Away」がきっかけである。元々は遠距離恋愛をテーマに書かれた曲だったが、彼女はこの曲のミュージック・ビデオの中で、それを移民問題の危機的状況に置き換え、 集団強制移送が数え切れないほどの家族を崩壊へと追い込んでいることを訴えたのだ。
4. 本物であることのこだわり
ジェシー・レイエズが時間をかけて表向きのペルソナを思い描いたりすることは一切ない。アートと実生活、そしてソーシャル・メディアを隔てる線がこれだけ曖昧になっている昨今、周囲のノイズを切り裂いてファンと繋がるひとつの大きな武器は、彼女の明確な自我である。今年28歳になるシンガー・ソングライターは、まるで喋る延長のように歌う。どこか粗削りな部分はあるが、それは会話調で、恐ろしくパーソナルなのだ。「Dear Yessie」や「Ankles」のようなトラックでは言葉を濁さない。
「歌を歌うことは、あえて言うなら、治そうとしてる傷があるのに繰り返しそのカサブタをはがして生傷に戻してしまうような作業です」と彼女はNPRのインタビューの中で語っている。だが、そんな彼女が言うところの「悲しい歌」にこそ、ファンは深い共感を覚えているのだ。
彼女が自らのインスピレーションとして、エイミー・ワインハウスを挙げているのも納得だろう。かの夭折した英国スターもまた、自身の歌の中で、濃密なソウルとダークなユーモアのセンスを融合させていたことは周知の事実である。加えて彼女はカントリーの名曲、パッツィ・クラインの「Crazy」をカヴァーするのに適した、喉の奥で涙をぐっと堪えるような歌い方もできる。
5. 妥協しない
重要な社会問題について自分の意見を明確に口にするアーティストが増えつつあるが、ジェシー・レイエズは政治的な活動家を自負しているわけではなく、ただ自らの胸の内を率直に口にする人間であるというだけだ。彼女の音楽は性別や権力、特権にまつわる差別をテーマに取り上げている。ダブル・スタンダードについて歌うフェミニスト向けのアンセム 「Body Count」のミュージック・ビデオでは、彼女自身がセーラムの魔女裁判で迫害を受けた魔女役を演じている。その弾むようなギター演奏と遊び心に溢れた歌に込められているのは、性差別に対する痛烈な批判だ。
業界においてますます注目を集めているジェシー・レイエズは、とりわけ権力を持つ側に対して立ち向かっていくことで、その先に待ち受けているであろう様々な障害も心得ている。彼女の2017年のシングル「Gatekeeper」は、彼女のキャリアを有利に進めるために自分と寝ることを強要しようとした音楽プロデューサーとの実体験を元に書かれたものだ。彼女はその一件について公の場で明らかにし、音楽業界にも「#MeToo」 ムーヴメントを巻き起こした。身の毛もよだつようなこのシングルに合わせて、彼女に深い傷を残したこの痛ましい出来事を振り返る12分間のショート・フィルムをリリースした彼女は、業界にはびこる搾取行為を赤裸々に暴き出した。
6. 最高のスタッフと仕事をする
キング・ルイとのコラボレーション以降も、カルヴィン・ハリスによる錚々たるスターたちとの競演作『Funk Wav Bounces Vol.1』から、サム・スミスとの「Promises」、そして自身の「Imported」のリミックスでもコラボした6LACK、「Rush」でのルイス・キャパルディまで、ジェシー・レイエズは実に多様なジャンルのコラボレーターたちとジャンルを超えた仕事を続けており、アルバム『The Lion King: The Gift』のためにレコーディングした「Scar」では、ビヨンセからも手放しで絶賛された。
さらにエミネムとは、彼が2018年に予告なしにサプライズでリリースしたアルバム『Kamikaze』に収録の「Good Guy」と「Nice Guy」いう2つヒット・シングルで共演を果たしている。
ライヴのステージでは全身全霊を注ぎ込むだけでなく、自らのソングライティングの才能を他アーティストに快く貸している彼女は、マシン・ガン・ケリーの「Go For Broke」やカルヴィン・ハリスとデュア・リパによる 2018年のスマッシュ・ヒット 「One Kiss」を手掛けている。
7. 物語をコントロールする
現代ポップのスターダムを独自に切り開いている新進気鋭のアーティストたちのおかげで、2000年代半ばにチャートを賑わせていた画一的なポップ・ミュージックからは距離が生まれつつある。ミュージック・ビデオのコンセプトの構築からステージ・デザイン、そしてソングライティングに至るまで、ジェシー・レイエズはその全てに関わる創造力の源なのだ。
彼女がGalore誌に語っていた言葉を借りれば、ことソングライティングにおいては、「政治など関係なく、大きなコンセプトも、目標とする数字もない。ただ魂が赴くままに書くだけ」だと言う。彼女が詩のようなものを書き始めたのは中学生の時で、大きな失恋をしたことをきっかけとなり、ソングライターを志すようになった。愛は破壊的であり、一方で救いでもあるという両極端の考え方を受け入れる彼女は、自らの闇を追求することを恐れず、「Love In The Dark」でも分かる通り、めくるめく恋愛について書くこともできるのだ。
8. 他者を勇気づける
音楽業界において自らの地位を勝ち取っていったジェシー・レイエズは、すぐさま他のアーティストたちの擁護を買って出るようになる。彼女は業界きっての非営利団体“Women In Music”を支持し、音楽業界に身を置く他の女性アーティストたちのために チャンスを増やそうと働きかけている。
また「Far Away」のビデオの中では、移民や難民たちの権利を保護する非営利団体“ACLU(アメリカ自由人権協会)”をはじめ、ドキュメンタリー映画『Al Otro Lado』や“The Florence Project”との関わりを示し、「自らが立ち上がって問題解決に協力しましょう」とファンに呼びかけている。行く行くは両親の出身地であるコロンビアで孤児院を開くことも目論んでいる彼女だが、世界を救う前に、まずはポップミュージックへの信頼を取り戻す準備ができている。
Written By Laura Stavropoulos
ジェシー・レイエズ『Before Love Came to Kill Us』
2020年3月27日発売
iTunes / Apple Music / Spotify
- ジェシー・レイエズ アーティスト・ページ
- ビリー・アイリッシュ世界ツアーのサポート・アクトに選ばれたジェシー・レイエズとは?
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