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復興した21世紀のモータウン:ヒップホップを取り入れた現代のヤング・アメリカのサウンド

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ポップ・ミュージックの世界をリードしてきたレーベル、モータウンは、今もなお「サウンド・オブ・ヤング・アメリカ」を定義づけている。それを担うのは、チャートで活躍する新世代のアーティストである。


1959年1月12日、ベリー・ゴーディデトロイトでモータウン・レーベルを設立し、音楽史に新たな1ページを加えた。それから60年のあいだに何度か移転を繰り返したこの会社は途方もない商業的成功を収め、評論家からも絶賛されてきた。現在もモータウンは、新たなアーティストたちをたくさん輩出し、モダン・ポップ・ミュージックを席巻し続けている。たとえばミーゴス、シティ・ガールズ、BJ・ザ・シカゴ・キッドといった具合に。彼らは、モダンなR&Bやヒップホップのサウンドを新世代の音楽ファンに向けて作り出している。

歴史上、最も成功した超優良R&Bレーベルであるモータウンは、アフリカ系アメリカ人ミュージシャンをアメリカのポップ・ミュージックの最前線にたくさん送り込んできた。このレーベルには桁外れの才能を持つミュージシャンが集まったが、彼らとゴーディが抱く野心も同じように桁外れだった。設立以来、モータウンは不朽の名声を獲得した伝説の名歌手たちの本拠地となってきた。スモーキー・ロビンソンスティーヴィー・ワンダーダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン、マーヴィン・ゲイ……名前を挙げていけばきりがない。このレーベルの衝撃は前代未聞だった。モータウンは、アメリカの音楽界だけでなく、社会全体に大きな影響を与えたのである。

設立から30年に亘って文化的に大きな役割を果たしたあと、モータウンは停滞期に入った。1990年代、このレーベルはR&Bのルーツにこだわり、ネオ・ソウルの旗手としてエリカ・バドゥインディア・アリーといったアーティストと契約。その一方で、ボーイズⅡメンブライアン・マックナイトがヒットを積み重ねていった。またニーヨも多作なシンガーソングライターとして頭角を現した。しかし2000年代も間近になると、モータウンはアイデンティティを幾分見失ってしまった。企業買収やリストラが繰り返されたあと、モータウンは新たなアーティストたちと共に「ヤング・アメリカのサウンド」というかつての称号を取り戻そうとしたのだ。

 

モダン・モータウン: ヒップホップのスタンダード

1960年代のポップ・ミュージックの最前線に躍り出てからというもの、モータウンは新しいトレンドや好みに対する適応能力を自ら証明し続けてきた。1970年代に入ると、このレーベルはクリエイティブな面での再出発を図り、作風はよりラディカルで政治的な色彩を帯びた。それと同時に、アルバムというフォーマットも存分に活用して行った。

しかし21世紀に入って音楽界が混沌とした状況になってくると、時代に合わせた進化がかつてないほどに重要性を持つことになった。モータウンは、「アフリカ系アメリカ人がオーナーを務める会社の先駆け」という地位をずっと誇りとしてきた。そして現代のモータウンは、新たな顔ぶれの歌手、ラッパー、ジャンルの越境者を土台として事業を進めている。さらに、アトランタを本拠地とするレーベル、クオリティ・コントロール・ミュージックとも提携関係を結んだ(このレーベルの名前は、1960年代にモータウンのデトロイト本社でベリー・ゴーディが毎朝開いていた“品質管理 / クオリティ・コントロール”会議を思い起こさせるものだった)。この提携により、モータウンはヒップホップの本拠地としても生まれ変わった。モータウンの名前に受け継がれてきた名誉と歴史がヒップホップにも注入されたのである。

サザン・ヒップホップを受け入れたモータウンは、SoundCloudのアンダーグラウンド・スターたちを誰もが知る有名人に変身させた。現在のチャートを見ると、そこはモータウンのアーティストたちに占領されている。その例としては、リル・ヨッティやマット・オックスが挙げられる。このふたりは、SoundCloud 世代のラップの最先端をひた走るアーティストだ。またミーゴスもヒットを出し続けているし、シティ・ガールズは、2018年を代表する大ヒット曲のひとつ、ドレイクの「In My Feelings」 でフィーチャーされている。

Drake – In My Feelings

 

リル・ヨッティは、ヒップホップのSoundCloud世代の代表格だ。彼の活躍はそれだけに留まらない。ファッション・ショーに出演し、「Broccoli」のような曲では他のラッパーをスターにする手助けもしている。ヨッティが登場してきたとき、ストリーミングはまだ音楽界の中でも未開拓の分野だった。しかしクロスオーバー・ヒットがなくても、彼はひとつのスタイルの象徴となり、ブランドの伝道師となり、とびぬけてエキサイティングなモータウン・アーティストのひとりとなった。

DRAM – Broccoli feat. Lil Yachty (Official Music Video)

 

ストリート・カルチャーの特命大使

昔からモータウンは、ヒットを量産するレコード会社というだけに留まらなかった。モータウンはひとつの生き方でもあった。シュープリームステンプテーションズミラクルズ、こうしたグループはどれも魅惑的でクールな雰囲気を醸し出していた。それは当時の若者の憧れとなっていた。

一方、リル・ベイビーやガンナといった現代のモータウン・アーティストは、ストリート・カルチャーの特命大使となっている。このふたりは2016~2017年にヤング・サグの後継者として活動したあと、2018年に人気を爆発させ、比類のない影響力を誇るようになっている。

リル・ベイビー&ガンナが2018年に発表したミックステープ『Drip Harder』は、ナンバー・ワン・ヒットを連発したこの年のふたりのコラボレーションを締めくくる作品だった。ふたりは、「ドリップ」をヒップホップで一番人気の流行語にすることに成功した。これは「スワッグ」を新たに解釈し直した言葉にすぎないと片付けることは簡単だ。しかしこの「ドリップ」という新しい言葉が、音楽業界やカルチャー全体に及ぼした影響はそう簡単には否定できない。成功を収めるヒップホップ・グループがどんどん減りつつあるこの時代、ベイビーの抜け目のなさとガンナの無頓着さはお互いを補う完璧な組み合わせとなっている。

Lil Baby x Gunna – "Drip Too Hard" (Official Music Video)

 

 

ミーゴスの活躍

ネットでは、「ドレイク・スティミュラス(刺激)・パッケージ / the Drake stimulus package」という言葉が流行っている。ドレイクは、活気あふれる曲に更なる魅力を付け加えて曲をレベルアップさせ、「審美眼のあるヒットメーカー」という地位を確固たるものにしている。時にはそれが極めて素晴らしい結果を生み出す場合もある。ミーゴスとのコラボレーションもそのひとつ。「Versace」のリミックスは「スティミュラス(刺激)」の最初期の例となった。もし「Versace」が不発に終わっていたら、このフレーズも今のような流行にはなっていなかったかもしれない。

2013年の「Versace」のあと、ミーゴスは2016年に「Bad And Boujee」を発表。これは米ビルボード誌のさまざまなチャートで首位を獲得した。このヒットでトラップ・ヒップホップの盛り上がりは最高潮に達し、ヒップホップの世界にも大きな変化が起きていることがあらわになった。そして、現代のモータウン・アーティストたちも有名人の仲間入りをすることになった。

モータウンは1970年代に活動拠点をロサンゼルスに移転したが、それと同じように、現在では新たなモータウン・アーティストがアトランタを拠点としてヒット作を連発している。ここは昔から音楽業界の心臓とも言える街だった。こうしてモータウンは、音楽業界の最先端に返り咲いた。ミーゴスによって、トラップはクロスオーバー・ヒットを放ち、メインストリームの側もアトランタとモータウンに以前より熱い視線を送り始めた。

Migos – Versace (Official Video)

 

決して忘れられることのないソウル・ルーツ

ミーゴスの成功に続き、クオリティ・コントロールからはさらにホットなグループが登場した。マイアミ出身のダイナミックな女性デュオ、シティ・ガールズである。このふたりの曲は、かつてのブーム・バップ時代の曲のようにも聞こえるが、それは決して懐古趣味ではなく、モダンなサウンドに仕上がっている。シティ・ガールズは、カーディ・Bの助けを借りた「Twerk」で米ビルボード誌のエマージング・アーティスト・チャートの首位を獲得。2018年には優れたアルバムを2枚発表している。そしてドレイクの「In My Feelings」のレコーディングとプロモ・ビデオの撮影に参加し、この曲のヒットに一役買っている。

City Girls – Twerk ft. Cardi B (Official Music Video)

 

しかしモータウンはソウルのルーツを忘れたわけではなく、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ケヴィン・ロス、JAMES DAVIS、ニョムザ(Njomza)といった才能あるアーティストたちを輩出し続けている。モータウンと2012年に契約して以来、BJ・ザ・シカゴ・キッドはグラミー賞に4回ノミネートされ、ケンドリック・ラマー、スクールボーイ・Q、メアリー・J・ブライジカニエ・ウェストといったさまざまな顔ぶれと共演している。BJ・ザ・シカゴ・キッドはモータウンと実に相性が良く、過去にはアッシャー、ジル・スコット、スティーヴィー・ワンダーのバック・コーラスを歌うことで経験を積んできた。スティーヴィーとBJ・ザ・シカゴ・キッドの繋がりは、モータウンの最初期の成功と現在の成功が直接つながっていることを示している。皆さんは、BJ・ザ・シカゴ・キッドというの名前を知る以前から彼の声を耳にしていたに違いない。

BJ the Chicago Kid – Turnin Me Up (Official Video)

 

25歳のアルバニア系シンガーソングライターのニョムザもやはりシカゴ出身。今は亡きマック・ミラーに発見された彼女は、現在モータウンに所属しているアーティストの中でも特に話題になっているひとりで、2019年を代表する大ヒット曲2曲、アリアナ・グランデの「7 rings」と「thank u, next」に関わっていた。他の多くの仲間たちと同じように、ニョムザもポップ、R&B、ソウル、EDMの垣根を飛び越えた存在だ。とはいえ、最新のシングル「Me & You」はかなり1990年代R&Bテイストが濃厚になっている。

Njomza – Me & You

 

現在のモータウンは最も影響力が強く、ブランド力が高いレーベルかもしれない。ここに所属するアーティストたちは生意気で、雑多な顔ぶれ。決して自分の非を認めようとせず、不適切な振る舞いをする。今のモータウンには、特に有力なラップ・グループがいくつも所属している。リル・ベイビーとガンナは、彼らの世代を代表するスーパースターだ。リル・ヤッティはレブロン・ジェームズとコマーシャルで共演。シティ・ガールズは、カーディ・Bやステフロン・ドンと共に現在のヒップホップ界でフェミニスト・ブームの先頭に立っている。そしてモータウンならではの品質管理は、いまだに衰えるところを知らない。このレーベルからは、これからも素晴らしい作品が生み出されていくことだろう。

つまるところ、やはりモータウンは「サウンド・オブ・ヤング・アメリカ」を形作っているのである。

Written By Patrick Bierut


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