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『ブルーノート80ガイドブック』刊行記念トーク・イベント・レポート:「ジャズはB面1曲目がたまらない」
1939年1月6日で創立80年を迎えたジャズの名門レーベル、ブルーノート・レコード。このレーベルの記念すべき80周年を祝うリリースやイベントが世界各地で開催されているが、今回は2018年11月に四谷のジャズ喫茶「いーぐる」で行われた書籍『ブルーノート80ガイドブック』刊行記念トークショーをご紹介。ガイドブックを監修した原田和典さん、執筆者のひとりで「いーぐる」店主の後藤雅洋さん、司会進行約としてユニバーサル ミュージックのジャズ担当斉藤嘉久を迎えた模様を掲載します。
斉藤嘉久:本日は「もうすぐ80年! ブルーノート特集」ということで、ブルーノート・レーベルについていろいろとお話していきたいと思います。
ブルーノートは1939年の1月に誕生しまして、来年1月に80周年を迎えます。それに先駆けて、11月7日に書籍『ブルーノート80ガイドブック』がユニバーサル ミュージックから発売されました。本日は元「ジャズ批評」編集長の原田和典さん、ガイドブックにて「BN MASTERPIECES (モダン・ジャズ黄金期の名盤10選)」の原稿を村井康司さんと共にご執筆いただいた「いーぐる」の後藤雅洋さんを迎えてお送りします。
原田さんには、「ブルーノートを初めて知る方にもわかりやすく、いままでブルーノートを聴いてきた方にも楽しんでもらえるような内容にしたい」というコンセプトで監修をお願いしました。
原田:ユニバーサル ミュージックは、書店に置かずにレコード店とウェブで販売する100ページで大判の“アーティストブック”を何冊か出しています。いままではJ-POPのアーティスト中心で、好評であるとは聞いていたのですが、そのシリーズにブルーノート・レーベルが仲間入りしました。僕は「ジャズ批評」誌に在籍していた頃に『決定版ブルーノート・ブック』という約600ページの、ものすごく文字の多い本を編集したことがあります。今回はその倍ぐらいの版型があるし、ブルーノートはレコーディングに撮影された写真や素晴らしいジャケット・デザインなど、とにかく見せる要素に恵まれている。セッション写真が多く残っていること、これはプレスティッジやリヴァーサイドといった往年のジャズ・レーベルだけではなく、古今東西のジャズ・レーベル一般にあまりみられない大きな特徴だと思います。そこを生かして、いかに見てもらい、読んでもらうか、斉藤さんやデザイナーの方と話し合い、ブルーノート本社の協力もいただいて紙面づくりを考えました。
斉藤:本の中では、ブルーノートの魅力をいろんな項目で紹介しています。巻末ではラズウェル細木さんによるマンガで、大まかなブルーノートの歴史をまとめています。創設者アルフレッド・ライオンと共にブルーノートを支えたフランシス・ウルフが撮影した数多くの写真も掲載されていますし、ブルーノート契約アーティストであるホセ・ジェイムズやドクター・ロニー・スミス、現社長ドン・ウォズの最新インタビューも掲載されています。
では、さっそく曲をご紹介しながら進めて行きたいと思います。まずは本の中の「BN MASTERPIECES (モダン・ジャズ黄金期の名盤10選)」にて掲載した10枚の名盤の中から、お二人のおすすめする“隠れた名曲”をご紹介いただけますでしょうか?
原田:ハービー・ハンコックの『Maiden Voyage(処女航海)』に入っているB面1曲目「Survival Of The Fittest」をお願いします。このアルバムは名曲ぞろいで「Maiden Voyage」「The Eye Of The Hurricane」「Dolphin Dance」はハービー本人も何度も再演していますし、いろんなミュージシャンが採りあげてきました。「Little One」はマイルス・デイヴィスの『ESP』にも入っています。でもこの「Survival Of The Fittest」は、あまりにも顧みられていないような気がします。ものすごくアグレッシヴで、もうこの当時からテーマ→アドリブ→テーマではなくて、今回の本のためにいろいろブルーノートの作品を聴き直した中でも、最も強く“再評価だな”と思った一曲がこれです。
斉藤:1枚のアルバムの中にキャッチーな曲があり、こういう冒険的な曲もある。それもブルーノートの魅力でしょうね。
後藤:「ブルーノートは、アルバムを制作するときに、A面1曲目にプロデューサー狙いのキャッチーな曲を入れて、B面1曲目にミュージシャンのやりたいものを入れる」ということが言われてきましたね。どこまで本当かわからないですが、少なくともA面の1曲目に関してはその通りなんじゃないでしょうか。
斉藤:後藤さんがお持ちなのはキャノンボール・アダレイの『Somethin’ Else』ですね。
後藤:そうです。キャノンボール・アダレイがリーダーで、サイドでマイルス・デイヴィスが入っている。なんといっても「Autumn Leaves(枯葉)」が有名なんですけど、ジャズ喫茶で「枯葉」はかけにくいんですよ。「またか」ってなっちゃう。いい曲だし名演に違いないけど、圧倒的に曲の力に寄りかかっているし、その曲をマイルスが非常に自分に都合よく使っているわけです。おいしいメロディを全部自分が吹いて、よく聴いてみると、マイルスのところとキャノンボールのところがすごいチグハグです。
ジャズ喫茶で何が好まれるかというと、ハード・バップなんです。ハード・バップは形式美みたいものがある決まりきったスタイルで、マイルス・デイヴィスはハード・バップの創始者のひとりでもあるんだけど、マイルスが演奏するハード・バップはマイルス色が強くなりすぎて、マイルスの音楽になってしまう。そのマイルスが珍しくハード・バップっぽく演奏しているのがこの曲、まさにB面1曲目です。
原田:ジャズはB面1曲目がたまらないんですよ。
後藤:『Somethin’ Else』の「Somethin’ Else」。アルバム・タイトル曲ですね。ここ「いーぐる」ではB面しかかけません。A面は黙っていてもリクエストがありますから。B面をかけるとお客さんが何のレコードだろうとジャケットを見に来るんですよ。「なんだ、”枯葉”の入っている『Somethin’ Else』じゃないか」といいつつもメモしているんですよね。
斉藤:恥ずかしながら、この曲をちゃんと聴いたのは私も久しぶりです。
後藤:気楽にやっているようで緻密ですよ。ハード・バップというのはチームプレーがポイントなんですけど、チームプレーとしても、曲の構成感・密度感も圧倒的にこちらのほうが「枯葉」より質が高いと思います。マイルスが自分のペースで吹いていて、しかもキャノンボールと楽しげにハード・バップをやっている。マイルスのソロとキャノンボールのソロの気分が完全に一致しているんです。
*この後の模様は、ブルー・ノート・クラブに掲載中(第2回、第3回、第4回、第5回)
- ブルーノート創立80周年を記念した壮大なアニバーサリー計画
- 映画『Blue Note Records: Beyond The Notes』をドン・ウォズが語る
- ブルーノートのドキュメンタリー映画の監督独占インタビュー
- ドキュメンタリー映画『Beyond The Notes』の予告編が公開
- 最高のブルーノート・アルバム50枚
- 1939年以降のジャズ最高峰レーベルの歴史をたどる
- 若きブルーノート・オールスターズの『Point Of View』
- 最もサンプリングで使われたブルー・ノートの楽曲たち