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サウンドガーデン『Badmotorfinger』解説:『Nevermind』や『Ten』と同時期の大躍進作
シアトルのグランジ・シーンを眺め返すと、サウンドガーデンが世界的な注目を浴びたのは彼らの3作目のアルバム『Badmotorfinger』が、ニルヴァーナの『Nevermind』やパール・ジャムの『Ten』の発売された1ヶ月以内(1991年10月8日)に発売されたからだと示唆していることが多い。
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シアトル出身の4人組サウンドガーデンが、地元の街が1991年にロック音楽のメッカとなったお陰で有利なスタートを切ったことは誰も反論しないだろうが、後から振り返って考えると、クリス・コーネルとメンバーたちがそういった流行りには関係なくメインストリームでの成功に向かっていたことは明らかである。
高評価を受けたデビュー・アルバム『Ultramega OK』から忠実なファンベースを築き上げた後に、A&Mレコードから発売された2作目『Louder Than Love』で大きく躍進。遅かれ早かれサウンドガーデンは世界に認められる未来へと向かっていたのだ。
彼らの株が上がっていくだけではなく、『Badmotorfinger』が発売される前にオリジナル・メンバーだったヒロ・ヤマモトの一時的な代理としてジェーソン・エヴァーマン(短期間ニルヴァーナに在籍)が脱退すると、ベン・シェパードが後任ベーシストとして正式加入したことで彼らの自信は高まった。長らくサウンドガーデンのファンだったベン・シェパードは、非常に熟練したミュージシャンだったが、曲作りにも熱意を持っていたことで、他のメンバーたちに大きなインパクトを与えたのだ。ギタリストのキム・セイルは2015年にローリング・ストーン誌にこう語っている。
「新しいベーシストが加入したことをメンバーたちはみんな喜んでいたよ。ベンはジョイ・ディヴィジョン、ワイヤー、ブラック・フラッグ、ミート・パペッツの大ファンだったから彼が曲作りをするとその要素が出てくる。彼と一緒にジャムしていると、彼の驚くような新鮮なアイデアに目が覚めた気持ちになったよ。僕たちの暗いサイケデリアと奇抜さは、『Louder Than Love』で感情的な重さに変わってしまったんだけど、『Badmotorfinger』ではそれが再び戻ってきた」
ベン・シェパードが加わったことによりメンバー全員が新しい楽曲を提供し、そうやって『Badmotorfinger』が完成した。最初のデモから既に特別な作品になるという手応えを感じ、『Louder Than Love』のプロデュースを手掛けたテリー・デイトを再び迎え、サウンドガーデンは単純に野心的というだけでなく、大胆不敵かつ多様性に溢れた大ヒット・アルバムを完成させた。
速くて眠りを誘う、クラウトロック調のグルーヴとブラック・サバスの様な豪快さを併せもった『Badmotorfinger』の印象的なオープニング・トラック「Rusty Cage」は、その後のハードルを高く設定し、同時にメンバーたちは圧倒的な演奏の中に、オルタナティブ・ロックやパンク、そしてメタルの要素を取り入れた「Room A Thousand Years Wide」や「Jesus Christ Pose」に加え、キム・セイルの破壊的なギターの心を引き裂くようなグルーヴに乗せて、コーネルは神々しいスーパースターらしく被害妄想をその歌詞に込めている。
他の楽曲ではメンバーたちのさらなる大胆さが発揮されている。「Searching With My Good Eye Closed」ではその高まるサイケデリアを楽しみ、ビーフハート調の「Mind Riot」ではその奇抜さを自由に開放している。クリス・コーネルは素晴らしく自虐的なリリック(“見た目はカリフォルニア、でも気分はミネソタ”)をアルバムの最もアンセミックなトラック「Outshined」で歌っているなどユーモアも決して忘れていない。この楽曲はキム・セイルの最も一枚岩の様なリフに支えられながらも、柔軟でファンキーな雰囲気を生み出している。
サウンドガーデンにとって『Badmotorfinger』は創造的クーデター的な大作となったが、やはりどんなにその内容が素晴らしかったにせよ、その評判は世界的なグランジ人気の爆発によって高められたことは間違いない。シアトルが突然“クール”の発祥地となり、『Badmotorfinger』からの3つのヒット曲「Jesus Christ Pose」「Outshined」、そして「Rusty Cage」はオルタナティヴ・ロック・ラジオ局で相当な回数オンエアされ、「Outshined」と話題となった『American II: Unchained』に収録されたジョニー・キャッシュによるカヴァーでも知られる「Rusty Cage」のミュージック・ビデオもMTVでヘビーローテションとなり、「Jesus Christ Pose」はUKトップ40チャートで最高30位にランクインした。
1991年10月8日にA&Mレコードから初めてリリースされた『Badmotorfinger』は、当時手強いライバル『Ten』や『Nevermind』との競争に直面したのだったが、立派にそれを潜り抜け、クリス・コーネルとメンバーは欧米でトップ40入りを果たし、1992年のグラミー賞では最高メタル・パフォーマンス賞に初めてノミネートされた。ダブル・プラチナ・ディスクを獲得したサウンドガーデンのキャリアは右肩上がりとなり、その成功のお陰で1994年に発売された独創性に溢れる作品『Superunknown』の制作中は落ち着いた精神状態で取り組むことができた。
Written By Tim Peacock
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