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音楽界のマスター・ジェダイ、ジョン・ウィリアムズ作曲『スター・ウォーズ エピソード4』のスコアが持つ革新性

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映画史上最大の影響力を誇るフィルム・スコア/サウンドトラックについて、一体どこから話を始めればいいのか? 必ずしも『スター・ウォーズ』以前のジョン・ウィリアムズの長くエピソード満載のキャリアの物語からである必要はないだろう。では、まずはジョージ・ルーカスから始めるとしよう。彼こそは『スター・ウォーズ』を生み出した創造の源泉であり、その泉はこれからもきっと当分涸れることはなさそうだ。そして、映画製作者が作曲者に課す最も大いなる試練から話を始めるとしよう。「交響楽の歴史に残る最も偉大な名曲たちに勝るとも劣らない作品を書いてくれ」。

ジョージ・ルーカスがごくシンプルに『スター・ウォーズ』と題した映画(後に『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』と改題された)を製作した当初、彼はベートーヴェンやバッハ、チャイコフスキー等々のお馴染みの名曲をふんだんに使っていた。その後、彼はその映画のパイロット版をジョン・ウィリアムズに手渡した。彼がこの仕事を得たのはスティーヴン・スピルバーグの推薦があったからで、ジョン・ウィリアムズはスピルバーグの出世作『ジョーズ』のために、『サイコ』以来の出色のホラー映画音楽と評されたスコアを提供していた。ルーカスはそのパイロット版を手渡す時に、一言こう言った。「こんな感じで。でもこれより良いやつね」。

壮麗なシンフォニー『スター・ウォーズ 』のメイン・テーマは、ジョン・ウィリアムズの作品の中でも最も知られている1曲だが、スコアに含まれているその他の曲も、ひとつひとつじっくり聴いてみれば同じくらい野心的で、スタイルの上でも実に多様な楽曲たちは、とても全部ひとりの人物が書いたとは思えないほどだ。『スター・ウォーズ』は視覚映像的な意味で時代を先取りしていたが、それもあの映画の代名詞とも言えるスコアなしでは、きっと全く違うものになっていたに違いない。

あなたはこれまで一度でも、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の最初の方の、ダース・ベイダーがレイア姫の船に乗っているシーンを音楽なしで観たことがあるだろうか? 何というか……凄い違和感なのだ。あのいかにもゴツくて重そうなヘルメットと、上から下までレザー製の例の衣装にがっちり全身を包まれた男が、ぎこちない動きでスクリーンに登場すると、歩く度にまとわりつくマントによく引っかからずに歩けるものだと思ってしまう。要するに不自然な箇所がやたらに目立つのである。だが、同じ映像にあの音楽をつけると、途端にベイダー卿がまるで見違えるから不思議なものだ。その瞬間、彼はあの恐怖と威圧感で支配するところの、オーディエンスにとってはいまや愛さずにはいられない、極悪な怪物へと変貌するのである。

*セリフや効果音はそのままで、実際に音楽のみを決したオープニングシーン↓ 是非音ありのオープニングと比べてみてください。

Opening Scene – Star Wars (WITHOUT MUSIC)

ジョン・ウィリアムズによる予想外の真に天才的なひらめきのひとつは、かの有名なギャラクティック・バーでのシーンにおける決断だ。是非目を閉じて、宇宙の果てにあるジンまみれの安酒場に流れている音楽はどんなものか、何が聴こえるかを想像してみてもらえないだろうか? ジョン・ウィリアムズが『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のために書き上げたのは、70年代当時数多く作られた、空想上の未来を描いた映画の多くを飾るシンセぎんぎんのディスコ系サウンドではなく、アップテンポなジャジー・チューンだった。簡潔に「Cantina Band」と題された曲は、ジャズ・ピアニストから映画音楽コンポーザーへと転身した彼らしいチョイスである。

John Williams: The Cantina band [Star Wars]

伝えられるところによれば、ジョン・ウィリアムズがこの曲を書いたのは、ジョージ・ルーカスに「未来世紀の生き物が大勢で、30年代のベニー・グッドマンのスウィング・バンド的な音楽を、タイムカプセルだかどっかの岩の下で聴いてるところを想像してみてくれ……彼らがそれをどんな風に解釈すると思う?」と言われた後だったそうだ。

ディスコと言えば、音楽プロデューサーのミーコ( Meco)は『スター・ウォーズ』の音楽に憑りつかれるあまり、カサブランカ・スタジオでこのフィルム・スコアのディスコ・ヴァージョンをレコーディングすることを提案した。その結果完成した、 2曲をディスコ・アレンジでマッシュアップしたトラック「Star Wars Theme/Cantina Band」は、『Mercury Inspired By Star Wars And Other Galactic Funk』に収録されており、このアルバムはプラチナ・ディスクを獲得している。(*これを日本でカバーしたのが子門真人)

Medley: Star Wars (12" Version)

先程の実践例と同様、酒場のシーンを音楽抜きで観てみると、この映画史に残る名作の一場面は単なる低俗なバカ騒ぎのハロウィーン・パーティのようにしか見えない。ジョージ・ルーカスが自らの会社ILMでコンピュータ・グラフィックによるSFX技術をマスターした上で、オリジナルの3部作に“修正”を加えることにした最大の理由がこのシーンだったのである。だがその中で、指一本触れる必要のなかった唯一の部分がスコアだった。

もしも『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に限らず、全『スター・ウォーズ』映画から強いて1曲お気に入りのピースを選べと言われたら、「Luke’s Theme」を外すことは難しいだろう。実はこれは元々サウンドトラックにはフィーチャーされていない曲だった。タトゥイーンの双子の太陽が沈んで行くのを、まだあどけなさ残る思案顔で眺めるマーク・ハミルのバックにかかる、やや大げさな音楽である。後に「Luke’s Theme」として知られるようになったこの曲は、当初 「Binary Sunset」という仮題がついており、後に 「The Skywalker Theme」と呼ばれるようになった。

このスコアの寂しげだが美しく印象的なセクションは、さながら台風の目の中の静寂を思わせる。それはサウンドトラックそのものの中だけではなく、映画のストーリーの中で、銀河の中で、そして『スター・ウォーズ』における冒険の中においてもだ。オーディエンスはそこで――スクリーンに広がる黄金色がかった日没の光、俳優の顔の表情、そして卓越したコンポーザーによる芸術的なタッチ――思わず感嘆のため息をついて、じっと画面に見入るのである。

John Williams – Binary Sunset (Star Wars a new hope O.S.T.)

 

そして、映画『海賊ブラッド』で見せたタイツ姿のエロール・フリン以来、最も颯爽とスクリーンに現れた海賊、ハン・ソロのために、観客はまた別の種類のため息をつくことになる。その向こう見ずさと物語の中で負っている重要性、映画終盤の語り草となる大暴れのシーンに反して、この愛すべき登場人物には自身のテーマ曲が存在しない。

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望,』にも、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』でも、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』でも、そして『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でもだ。あえてそうすることがジョン・ウィリアムズのセンスの真骨頂なのである。辛うじてハン・ソロのテーマ らしきものが流れたのは、彼がレイア姫と恋に落ち、人間らしさとほんの僅かばかりの謙虚さを垣間見せた時だった。だが、それも『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』になって初めてのことである。『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』において唯一、ハン・ソロを象徴する曲が流れるのは、彼が危険に直面した場面と、敵を打ち負かして快哉を叫ぶ時だけだ。

Han Solo And The Princess

ジョン・ウィリアムズによる『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のスコアは、現代アメリカ映画のフィルム・スコアの出発点である。その後も彼は『インディ・ジョーンズ』シリーズや、オリジナルという意味ではいまだ無敵の『スーパーマン』シリーズ、『ハリー・ポッター』フランチャイズ、もっと小規模の『やさしい本泥棒』や『偶然の旅行者』、更にスティーヴン・スピルバーグの全作品と、我々の大好きな映画を‘耳から’理解させるような音楽を提供し続けてきたのみならず、 他の多くの映画音楽作家たちにも絶大なる影響を及ぼしていることは否定のしようがない。

どこのスクリーンで映画が上映されようと、彼のレガシーは物語のひそかな牽引役となり、感情的な深みをより豊かにしてくれる。もし、音楽界のマスター・ジェダイなどというものが存在するならば、そのマントとライトセーバーを身に着けるのに、彼以上にふさわしい人物はどこにもいないだろう。

John Williams – Fanfare and Prologue (From "Star Wars: The Rise of Skywalker"/Audio Only)

Written By Jason Zumwalt



ジョン・ウィリアムズ
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け (オリジナル・サウンドトラック)』
2019年12月20日発売
CD / iTunes /Apple Music / Spotify





 

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