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トゥパック伝記映画公開記念 映画を見る前の基礎知識(中編)

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トゥパックの伝記映画「オール・アイズ・オン・ミー」12月29日からの日本公開を記念して、連載「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第6回は、この映画を見る前に知っておくとより映画が楽しめる、または、映画を見た後に知るともう一度映画を見に行きたくなるようなトゥパックの基礎知識を語っていただきました。前編に続いて中編を公開。

*丸屋九兵衛コラムの過去回はこちら

こちらのトークの書き起こしは以下


トゥパックが所属したデジタル・アンダーグラウンドとは?

──話を戻しますが、トゥパックが所属することになるデジタル・アンダーグラウンドとはどういうグループだったんですか?

丸屋  90年前後というのは、ヒップホップの一つの爆発期にあたるんですけど、まだみんなが”西対東”とか考えてない時期。N.W.A.が売れて、西のものも売れるんだなってレコード業界の人が動いていたぐらいで。

──それまで東のものしか売れてなかったところで、西もあるんやで、と。

丸屋  そういうのがわかってきた時期ではあるんですが、まだ対立構造ってのが明確になってなかった時期で、あと当時は半ばバンドみたいなグループがちょぼちょぼいて。

──半ばバンドというのは楽器をプレイするってことですか?

丸屋  そう、楽器をプレイするということ。ステッツァソニックとかブーヤー・トライブとか、あとはデジタル・アンダーグラウンドですね。デジタル・アンダーグラウンドが凄く面白かったのは、異常にPファンク的やったってことですね。当時ジョージ・クリントンが言ったセリフで、正確には覚えてないんですが、「Pファンクの音楽をサンプリングしたグループはこれまでにもたくさんいたが、Pファンクのキャラクターをサンプリングしたのはデジタル・アンダーグラウンドだけだった」。

──格好ってことですか?

丸屋  いえ、ストーリーですね。

──なるほど!

丸屋  決して宇宙絵巻みたいになるわけじゃないんだけど、コミカルなストーリーがあって、そのコミカルの中に社会風刺などを織り交ぜつつ、なおかつリーダーがなんだか知らないけど一人何役もやっていて、っていうパターンですね。

──元々デジタル・アンダーグラウンドは人気があるグループで、そこからトゥパックは「加入してくれないか?」と言われたわけですか?

丸屋  まあそうです。トゥパックも段々ラッパーとして芽が出てきた段階で、既にデジタル・アンダーグラウンドはファースト・アルバムの『Sex Packets』というのを出していて人気もあった。そのアルバムには素晴らしいホラ話がついてまして。宇宙ステーションなどでとても長い時間過ごす宇宙飛行士のために性欲を解消できる薬をNASAが開発したが、それがストリートに漏れてしまい、それを巡って戦いが起きる、みたいな話です。これがファースト・アルバムのストーリー。

──(笑)。

丸屋  それを開発した博士がギャングに誘拐される!

── (笑)。よくそういうグループにシェイクスピアをやっていた人間が入ろうと思いましたね。

丸屋  その当時のデジタル・アンダーグラウンドの影響力を考えたら、声をかけられたら入るだろう、というのがひとつありますが、デジタル・アンダーグラウンドって元々とはもっとブラック・パンサーっぽいグループだったんですよ。ミリタント(過激)で、硬派で、シリアスで、コンシャス(意識的)なグループだったんだけど、パブリック・エネミーが成功しちゃったので、違う路線に。これ、普通だったら「よし俺たちも同じようなことを」と思うんだけど。

──二匹目のドジョウを狙ってですね。

丸屋  黒人音楽っていうのは二匹目、三匹目を狙う業界なんだけど、デジタル・アンダーグラウンドのリーダーのショック・Gが偉かったのが、じゃあ全然違うことをやろう!と。

──なるほど。

丸屋  で、お笑いだ!お笑いの中にストーリーと社会風刺!って考えてデジタル・アンダーグラウンドをそういう路線に振り替えたんですね。もとはといえば、グループの本拠地はオークランドですし、オークランドといえばブラック・パンサーが結成された都市ですし、そういう素地があったんですが、お笑いに引っ張っていったんです。

──それは成功したんですか?

丸屋  かなり成功しましたね。トゥパックは彼らの元々のところと相通じることがあったのかもしれませんね。

──でも辞めて、ソロになると?

丸屋  いえ、『Me Against The World』(1995年)までデジタル・アンダーグラウンドとからんでますね。

──たしかに、たしかに、フィーチャリングとかですね。

丸屋  あと、ショック・Gがプロデュースしてたりとか。そうそう、ショック・Gっていうのは、グレッグ・ジェイコブスって人物で、人間として存在しているのはグレッグ・ジェイコブスだけなんです。キャラクターとしてリーダーのショック・Gがいてこの人は普通の声してるんです。あとは水中専用ラッパーがいて。

──スイチュウセンヨウラッパー?水の水中ですか?

丸屋  水のなかだけでしかラップしないんです。

──(笑)。

丸屋  なぜなら「Underwater Rimes」という曲があるからだ!そしてこういう曲だから、パーラメントの「Aqua Boogie」の上でラップしますと……素晴らしい!尚且つ、異生物感を出すためにハービー・ハンコックの「Chameleon」が(トラックに)敷かれてます。

──(笑)。

丸屋  サンプリングとはこういうもんですよ!

──ちゃんとわかってるってことですね。

丸屋  そう、ちゃんと元のネタのことを考えようよ!そうそう、スティーヴィー・ワンダーの凄くコンシャスな「Living For The City」を使ってセクシャルな「Lil Freak」を作ったアッシャーは如何なものかと思ったりするわけですね。

──音だけ使うんやないでと。

丸屋  話を元に戻すと、水中専用のMCのブロウフィッシュってのもいたりするんですが、あとショック・Gより人気があるかもしれない鼻声系ラッパーとしてハンプティ・ハンプっていうのがいて。これが映画「オール・アイズ・オン・ミー」でフィーチャーされるんですね、ステージの風景で。「♪Stop What You Doing」、これだけは私もマネできる。ジミ・ヘンドリックスとハンプティ・ハンプだけは真似できるんです。

──ではちょっとジミヘンお願いしていいですか?

丸屋 「♪Purple Haze」

── (笑)。

丸屋  一瞬でしたねー。ジミヘンはこの声で「Kiss The Sky」って言ってるのを聞いてオジー・オズボーンは「あー“Kiss This Guy”なんや」って思ってオジーはずっとジミヘンをゲイだと思っていたという素晴らしい逸話もあったりします。話を戻すと、デジタル・アンダーグラウンドはそんな面白いグループだったっていうことですね。

──トゥパックはデジタル・アンダーグラウンドで何をしていたんですか?

丸屋  まずは鞄持ち&ダンサー、ステージ盛り上げ役的な感じですね。

──いわゆるサイドキックっていうやつですかね。

丸屋  サイドキック以下かもしれない。なぜなら既にメンバーが多かったから。当時はヒップホップのひとつのネクスト黎明期みたいな感じだったから、結構ツアーもして。当時クイーン・ラティファとデジタル・アンダーグラウンドとブーヤー・トライブでツアーしてたみたいですね。その時、クイーン・ラティファのとこの鞄持ちだったのがノーティー・バイ・ネーチャーで、ノーティー・バイ・ネーチャーのトレッチとトゥパックが凄く仲がいいのは、それがあったからです。

── 一緒に廻ってたからだと。

丸屋  それで一本しかないマリファナを二人で分けたとかいう話も。

── 一杯のかけ蕎麦みたいな(笑)。

丸屋  トゥパックが死んだあとにドキュメンタリー映像ってボコボコ出たんですが、その中で涙ボロボロこぼしながらトレッチが「あの頃二人で一本のマリファナを分けた」みたいな話をしてて。トレッチってたしかどこかにトゥパックのタトゥー入ってますよね。あとブーヤー・トライブの曲でトレッチがゲストで出てるのがあるのも当時の影響ですね。


(トレッチがタトゥーを見せる2015年に撮られた動画)

──トゥパックは日本にも来ましたよね?

丸屋  デジタル・アンダーグラウンドとしてきましたね。当時ソニーに勤めてた人だとデジタル・アンダーグラウンドと一緒に撮った写真を持っているという……羨ましいですね。

──トゥパックはそれが唯一の来日ですよね?

丸屋  そうですね。

 

トゥパックのデビュー・アルバム『2Pacalypse Now』

「2Pacalypse Now」の画像検索結果

──そんな彼ですが、なぜソロ・アルバムを作ったんでしょうか?

丸屋  やっぱり元々シリアス&コンシャス&ミリタントで、そこかしこにその要素が見えるとはいえデジタル・アンダーグラウンドは基本的にお笑い、パーティー、風刺路線だったのでやっぱり自分の路線をやってみたいと思ったんでしょうね。トゥパックのファースト・アルバムの『2Pacalypse Now』って、ダジャレもいいとこなんですけど。

── (笑)。「Apocalypse Now」ですね。

丸屋  映画『地獄の黙示録』の原題ですね。これ邦題つけるとしたら何だったんでしょうね。

──当時は邦題ついてなかったですよね?

丸屋  ないです、ないです。

──無理やりつけるとしたら?

丸屋  『地獄のパック示録』とかになっちゃうのかなぁ。

── (笑)。

丸屋  『2Pacalypse Now』は相当コンシャスなリリックが多いアルバムで、だってデビュー・シングル「Brenda’s Got A Baby」だよ

──サビもコーラスもないような

丸屋  あんな陰惨な話をですよ。映画「オール・アイズ・オン・ミー」で描かれてますが、「こんな曲売れるわけないだろ!だからどのレコード会社も契約しないんだよ!」って言われるんだけど、「まぁまぁまぁまぁまぁ」って言って。いわゆるクライヴ・デイヴィス・メソッドですね。相手が納得するまで同じ曲をかけるっていう。

──(笑)。

丸屋  クライヴ・デイヴィス師匠は毎週月曜日の午前中会議で、そこにいるみんなが納得するまで好きな曲をかけるらしくすっごい迷惑ですけどね(笑)

──トゥパックは最初から成功したんでしょうか?

丸屋  「Brenda’s Got A Baby」はある程度売れましたね。ファースト・アルバムも割と早い時点でゴールドディスク、50万枚セールス認定されましたし。たぶんチャートアクション自体はめちゃくちゃ跳ねてはいないですけど、「Brenda’s Got A Baby」とか「Trapped」とかシングルはいくつか出てて。アルバムを聴くと、もうむっちゃブラック・パンサーみたいなのがあって、「Words of Wisdom」っていう曲なんですが、ジャジーなトラックの上でラップというよりポエトリー・リーディングなんですけど。その中で、「America America Amerik-k-k-k」と言っててってあーKKKねっていう。「俺はアメリカによって作られたメイトメア。お前らが黒人にたいして何をしたかを見せるためにやってきた」とかね。基本的にパブリック・エネミーと変わらないです、そういう意味では。

──社会的な感じですね。

丸屋 戦闘的な感じならパブリック・エネミー以上かもしれない、だからその意味で西海岸のパリスというラッパーに通じる部分があるかもしれないですね。かつて「Bush Killa」という曲を出した人ですよ。でも今思うと……その時「Bush Killa」の標的にされたのは父ブッシュなんですけど、あーブッシュ親子大統領はいい大統領だったんだなぁーって。

──今ではそう思うと(笑)。

丸屋 2017年では、子ブッシュですら、ドナルドに比べれば100倍ましだったと思います。

──そんなトゥパックの当時の日本での受け取られ方はどうだったんですか? 同時代的に入ってきたんでしょうか?

丸屋 デジタル・アンダーグラウンドがそこそこ人気あったということで、デジタル・アンダーグラウンドは当時ソニーですけど、ソニーから出た日本盤にはちゃんと漫画も翻訳されてましたから。これって本家パーラメントは一回もやってもらったことがなくて、まぁ漫画を訳してなんぼのもんじゃって話もあるんですけど、だいたいアメコミの訳って難しいですからね。トゥパックがほんとに同時代的に評価されるのって、『All Eyez On Me』、いえ、そんなことないな『Me Against The World』からですね。

 

『Me Against The World』の大ヒットとトゥパックの魅力

「Me Against The World」の画像検索結果

──3枚目ですね。そこでアメリカでも本当の意味で大ブレイク。

丸屋 そうですね、それで『All Eyez On Me』だと超絶ブレイクですね。

──彼の魅力、他のラッパーとの違いや、なぜそんなに売れたかなど理由はありますか?

丸屋 誰しも成功する人間はこれを欠いていたら成功しないんですけど、「チャーム」ですね。とにかく何かカリスマとチャームがあって私は彼に会ったことはないですけど、でも映像を見ててもチャームがあるあと『Me Against The World』の中に、曲名思い出せない、ちょっと待って……「Can You Get Away」っていう曲があって、それは彼氏がいる女性を口説こうとするんですけど、その途中に「彼がいるのはわかってるけど、出てこいよ」っていって「Pleeeeeeease」って言うんですよ。それがねぇ、男もノックアウトされると思う、特に私はノックアウトされやすいからね。あのチャームっていうのはたぶん努力しても得られない天性のものなんですけど、それが凄くあったなぁと。それとこれはトクパックが死んだあとに良く使われるんですけど、死後に作られた曲って「ヌハハハ」って独特の笑い声が貼ってあるんですね。あのチャームなんですよ。

──いわゆるラッパーとして強面ラッパーとかが持ちえないものですね。

丸屋 彼はアグレッシブな曲もいくらでもやってるんだけど、どこかに必ずチャームがあって、なおかつシェイクスピアとポエトリー・リーディングで鍛えられた不思議なリリシズムがあり。で、あと面があれでしょ。

──イケメンですよね。

丸屋 そういうわかり易い言葉で済ませたくないような。素晴らしい体つきもしていたし。

──女性人気はあったんですか?

丸屋 圧倒的でしょ、そりゃ。

──それまでのラッパーはここまで女性人気はなかったんですか?

丸屋 そんなことなくて、ビッグ・ダディ・ケインのようなモテ系の人っていうのはいましたよ。だってビッグ・ダディ・ケインって「Taste Of Chocolate」って曲を出していて、「俺は美味しいぜ」ってことですからね。そういう人はいたんだけど、何かが違うんですよ。やっぱりトゥパックは複雑な出自もあって。

──あとはフェミニズム的というか

丸屋 そっか、そっか、そっか。セカンド・アルバムに入っている「Keep Ya Head Up」は私もこうやって何年もたったあとで気づいたんですが、黒人女性に捧げるメッセージを持ったラップは実はあれが初めてだったんじゃないかなっていう。R&Bとかファンクとかの世界だと80年代前半にリック・ジェームスfeat.スモーキー・ロビンソンという物凄いメンツによる「Ebony Eyes」っていうのがあって、黒人女性に捧げた曲なんだけど、ちょっと言い訳めいた部分があって。なぜならリック・ジェームスは白人女性と付き合うことで知られていた、だから「君たちのことを忘れているわけじゃない」って歌ってるんです。成功した黒人男性が白人男性とくっつくことをトゥパックは凄く糾弾したんですね。O.J.シンプソンもそうだし、コービー・ブライアントもそうだし、でもその糾弾の対象となった最も有名な人物がクインシー・ジョーンズだったんです。これは映画「オール・アイズ・オン・ミー」にも出てくるんですけど、酷いんですよ。映画の字幕だと文字数の制限もありますし、そこまで酷い表現にはなっていませんが、実際には「クインシー・ジョーンズがやることといえば、白人のビッチにディックを突っ込んでファックト・アップなキッズを作ることだけ」って……そーんなこと言わなくても(笑)。そんなこと言っちゃったんですけど、キダダ・ジョーンズ、クインシーの何人目かの子供か忘れましたが、確かキダダの妹がラシダだった気がする。そのキダダと出会い惚れてしまい、で、謝り倒してデートすることになったんですね。そこまではよかったんです、ただある日デートしていたら、トゥパックの肩をガチって掴む手があったんですって。

──(笑)。どこかを歩いてたら?

丸屋 いや、どっかで食事してたんですって。肩を掴まれて振り向いたらそこに怒りに燃えたクインシーがいたという。

──(笑)。

丸屋 「トゥパック、ちょっと顔かしてもらおか」って。そのレストランの離れた席に連れて行かれて。「連れて行かれた」と言っても、暴れたらトゥパックが勝つんでしょうけど、クインシーの人格力も相当なもんだと思うんですね、そう簡単に逆らえないし。そんで連れて行かれて長いこと話しこんで、ヤキモキしていたキダーダのところに帰ってきたときには、二人は親友になっていたという。

──凄いですね!(笑)。

丸屋 それを含めてトゥパックのチャームなんだと思うんです。それでさっき言ったトレッチがボロボロ泣きながら二人で一本のマリファナを吸った話も素晴らしかったんだけど、トゥパックが死んだあとにでてきたコメントのなかで、本当に心打たれたのは、クインシーが残したセリフで、「もし25才で死んでいたら、マルコムXはストリート・ハスラー、ドラッグ・ディーラーに過ぎなかっただろう」。実際にマルコムXはもともと悪い人で、本当は白人女性専門の黒人売春夫集団に入ろうとしたんだけど、色が白すぎてだめだねって言われたらしいんです。マルコムはハードなドラッグもソフトなドラッグも両方扱っていたっぽいので、おそらくクインシーも世話になってマリファナ買ってると思うんです。クインシーは、「当時、みんながデトロイト・レッドを待っていた」って言ってる。デトロイト・レッドっていうのは、マルコムの当時の名前ですね。

で、「マルコムは25才で死んでいたら、ドラッグ・ディーラーに終わっていただろう」。そして「マーティン・ルーサー・キングは25才で死んでいたら、単なる田舎の牧師さんだった」と。「私、クインシー・ジョーンズが25才で死んでいたら、作曲家志望のトランペッターにすぎなかった」。

──なるほど。

丸屋 なのに「25歳であそこまでやりとげた男はいない」、と。その行間を読むと「もっと長生きしていたら」っていう無念の思いですね。かつて、ものすごい悪口を言った相手に、そこまで思わせるトゥパックの魅力って凄いと思うんです。それと凄くいいのは、確かトゥパックが死んでからの曲ですけど、「Thug Nature」っていうのがあって、マイケル・ジャクソンの「Human Nature」のサンプリングなんですね。しかも「Thug Nature」のプロデューサーはクインシーの息子のQDIII(クインシー・ジョーンズ3世)なんですよ。

──へー!

丸屋 父親がプロデュースしたマイケル・ジャクソンの曲をサンプリングしたものを息子がトゥパックのためにプロデュースする、っていう美しいリサイクルじゃないですか。

 

塀の中のラッパー、そしてマキャベリへの改名の真意とは?

──そのトゥパックなんですが、3枚目『Me Against The World』、4枚目『All Eyez On Me』を出したあとにもう1枚アルバムを出すんですけど、名前がトゥパックからマキャベリに変わって出していますよね。それはなぜだったんでしょうか?

丸屋 あれは一時的なのか、未来永劫変える予定だったのかはわからないんだけど、私が良く思うのは刑務所っていうのは図書館なんだということです。

──と、いいますと?

丸屋 だってマルコムXだって、明らかに頭はよくて、勉強もちゃんとできて、高校の時に弁護士になりたいと言ったら、白人の教師に「お前、ニグロが弁護士になれるわけないやろ。お前手先器用やから大工やれ」って言われてグレたんですね。だけど刑務所の中で本を読みまくって、それで目が悪くなったんですけど、

──へー。

丸屋 消灯時間が終わっても本を読んでたら、目が悪くなってそれで眼鏡を買ったら、たまたま眼鏡がむっちゃ似合って喋ったらあれだけ弁が立つわけじゃないですか。だからネイション・オブ・イスラムのスポークスマンとして世に出た時に、白人メディアは「この人は相当有名な大学出てらっしゃるんでしょうね」と思ったが、実際には刑務所という名前の大学やったと。

──アメリカの刑務所はある程度自由があるんですね。

丸屋 同様にトゥパックも、普通あれだけ多作な人が刑務所に入ったらガンガン詩を書きまくると思いきや、リリックは殆ど書けなかったらしく、ということは刑務所を出てからあっという間にあれらを書いたということですが。実際、マキャベリ名義のアルバムって3日で作ったんですよ。しかもあれに全曲は入ってないんですが(アルバムは12曲入り)、21曲作ったらしくて、1日7曲レコーディングできるやつどこにいます?

──他の曲も、当時は盤にならなかったけど、未発表曲としていっぱいレコーディングしていて。

丸屋 ビヨンセに頼まれて1時間で自分のパートを録り終わったリル・ウェインですらそこまでのスピードは出せない。話を戻すと……トゥパックが刑務所の中の図書館で色々本を読んで、その中で読んだのがマキャベリの『君主論』とニーチェだったという。

──ニーチェも読んでたんですね。

丸屋 面白いのは大先輩であるマルコムXが、「カント、ニーチェ、ショーペン・ハウエル全て読んだが、全く尊敬できない」って言ってて。いいセリフだなぁ、これ言ってみたいよね。

──(笑)。

丸屋 トゥパックはマキャベリを読んで心を打たれたらしく、そこで改名するんですよね。面白い話なんですけど、東洋経済、週刊ダイヤモンドらへんで、戦略家の戦略がビジネスにつながるっていう。

──よくある「孔子のビジネス論」とかってやつですね。

丸屋 マキャベリという名前は、トゥパックが使ったでしょ。同じぐらいにボーン・サグズン・ハーモニーの『The Art Of War』っていうアルバムが出てまして、これって「孫子の兵法」なんですね。

──「孫子の兵法」をアルバムにしましたと?

丸屋 孫子vsマキャベリという異次元スター対決ですよ。東西の両横綱が対決という。ただボーン・サグズン・ハーモニーって「死の天使」って呼ばれていて、共演した人は死ぬっていう話が。イージー・Eに始まり、トゥパックがあり、「Notorious Thugs」っていう曲でノトーリアス・B.I.G.と共演してますし。そんな話もあるんですけど、とにかくトゥパックは、冷徹なまでに戦略を駆使して敵を殲滅する、というマキャヴェリの発想に打たれて、なおかつそこに持前のブラック・パンサー・イズムを合体せたらしく。仲間グループ「アウトロウズ」というのを作るんですけど、そこのメンバーの名前が凄くて。フセインとカダフィがいる時点でノックアウトなんですけど……フセインとカダフィでしょ。おまけにステップ・ファーザーであるムトゥル・シャクールの連れ子、だからステップ・ブラザーですね、モプリームっていうんですが、モプリーム・シャクールは、そのアウトロウズのメンバーとしてはホメイニですから。

──(笑)。

丸屋 フセイン、カダフィ、ホメイニ、カストロ、そしてアミン。アミンってあのウガンダの食人大統領と呼ばれた人で、ほんとに食人してたかどうかは知りませんが、そこにムッソリーニ、ナポレオン、そしてマキャベリっていう。

──独裁者だらけ。

丸屋 独裁者なんだけど……ナポレオンとマキャベリはアメリカ帝国主義の時代には存在しないんですが、基本的に左翼用語でいうところの”米帝”アメリカン・インペリアリズムからむっちゃ嫌われそうな人ばっかり並べたっていう。

──これは全部トゥパックが「お前、今日からムッソリーニな」ってやってるですよね?

丸屋 やったんでしょうね。ムッソリーニは本来ビッグ・サイクって名前だったはずなんだけどね。モプリームにも「兄ちゃんも今日からホメイニね」っていう(笑)。アウトロウズの面々の名前を暗唱して思うのは、三つ子の魂百までってことですかね。お母さんの教育凄かったなぁ。

次回へ続く



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