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グレイト・アメリカン・ソングブック第3巻:カントリーのトップ11
グレイト・アメリカン・ソングブック(訳注:アメリカで影響力をもち、重要なトラディショナル・ポップ、ジャズのスタンダードなど定番となっている楽曲の総称)の作品は無数にあり、そのどれもがロマンティックな魅力を持っている為、ブルースからソウルやジャズまで、さまざまなスタイルの音楽に取り入れることが出来る。しかし意外かも知れないが、この20世紀の最高傑作たちは常にカントリー・ミュージックのスターにとってはなかなかチャレンジングな対象だった。
ケニー・ロジャースやリンダ・ロンシュタット等のアーティストは、キャリア確立後に通常のサウンドから離れ、オーケストラの伴奏を取り入れ、グレイト・アメリカン・ソングブック時代のこの上ない輝きを追体験した。しかしこの時代を超越した作品群と自分達のナッシュヴィルのインストゥルメンテーション(楽器法)の要素に取り組むカントリーのヒットメーカーは比較的稀だ。と言いつつも、我々はここにそのベストなものを集めてみた。
1:ウィリー・ネルソン:「Stardust」(1978年、『Stardust』より)
最高位に君臨するのは、偉大な祖先達に対する感謝の意を常々強調してきた、卓越したソングライター、ウィリー・ネルソンだ。1978年、そのソロ作品及びアウトローズ・カルテットのメンバーとして、より幅広いオーディエンスに歩み寄ったウィリー・ネルソンは、物語を持つグレイト・アメリカン・ソングブックに全てを捧げたアルバム『Stardust』で、ジョージとアイラ・ガーシュウィンやアーヴィング・バーリン等を取り上げた。
その結果は驚くものだった。アルバムはカントリー・チャートの頂点に11週間留まり、10年以上そのチャートに居続け、アメリカだけで500万枚の売上げを記録した。その楽曲リストから我々は、ホーギー・カーマイケル=ミッチェル・パリッシュ作のタイトル・トラックで、チャーミングなウィリー・ネルソンによるカヴァーを選んだ。カントリー・ウィリーと曲達との恋愛関係は、この後も色々な解釈を通して続く。
2:ホーマー&ジェスロ Withジューン・カーター: 「Baby, It’s Cold Outside」(1949年、シングルAサイド)
我々の次なる選択は、最も知られていないものかも知れない、グレイト・アメリカン・ソングブック時代末からの素晴らしい1曲。1949年、コメディ・デュオのホーマー&ジェスロは、神聖なカーター・ファミリーのメンバーで、この約20年後にジョニー・キャッシュの妻となる、当時20歳のジューン・カーターと手を組んだ。フランク・レッサーの1944年の代表作「Baby, It’s Cold Outside」の愉快なヴァ―ジョンは、全米カントリー・チャートで第9位を記録し、水中スポーツの永遠の花エスター・ウィリアムズ主演映画『水着の女王(原題:Neptune’s Daughter)』でフィーチャーされた。
3:レイ・チャールズ:「Georgia On My Mind(邦題:我が心のジョージア)」(1960年、『The Genius Hits The Road』より)
ソウルのあるカントリー(そして時にはその逆)の代表格と言ったら、現在も変わらずレイ・チャールズだろう。しかしそんな彼もまたグレイト・アメリカン・ソングブックの作品に取り組むことだってある。それは、「Georgia On My Mind(邦題:我が心のジョージア)」だ。無敵の1960年のヴァージョンがオリジナルだと、多くの人が思い込んでいるくらい完璧に。しかし実際のところ、これが初めてレコーディングされたのはこのちょうど30年前、スチュアート・ゴレルと共に曲を書いたホーギー・カーマイケルによってだった。このグレイト・アメリカン・ソングブックの名作には膨大な数のヴァージョンが誕生している。
4:ジェリー・リー・ルイス:「Over The Rainbow(邦題:虹の彼方に)」(1980年、『Killer Country』より)
ジェリー・リー・ルイスもまた、良く知られた曲を取り上げては、その他のヴァージョンを殆ど忘れさせてしまうことの出来るアーティストだ。例えばハロルド・アーレン=エドガー・イップ・ハーバーグ作「Over The Rainbow(邦題:虹の彼方に)」の陽気なヴァージョンのように。1939年の『オズの魔法使い(原題:The Wizard Of Oz)』の為に書かれた曲を、41年後に別の目的の為に作り変え、カントリー・トップ10入りさせてしまえるのは、“ザ・キラー”以外にはいないだろう。
5:アスリープ・アット・ザ・ホイール:「Chattanooga Choo Choo」(1988年、『Western Standard Time』より)
ウェストヴァージニア州ポーポー出身のウェスタン・スウィング・バンド、アスリープ・アット・ザ・ホイールは何十年にも渡り、作曲家、そして独自に解釈&演奏する者として、優れた職人たちだった。1988年、彼等はまるごと1枚をグレイト・アメリカン・ソングブックとそれ以降のヴィンテージ・ナンバーに捧げ、『Western Standard Time』と名づけた。グラミー賞を受賞した同作のオープニングを飾るのが、1941年にグレン・ミラー・オーケストラが初めてレコーディングした、マック・ゴードン=ハリー・ウォーレン作「Chattanooga Choo Choo」のカヴァーだ。このアップデート・ヴァ―ジョンのリード・ヴォーカルは他でもないウィリー・ネルソン。
6:アン・マレー:「All Of Me」(2004年、『I`ll Be Seeing You』より)
カナダ人カントリー歌姫アン・マレーは、どんな種類の音楽にも合うスタイルを持つ、滑らかな歌声のヴォーカリストだ。2004年のグレイト・アメリカン・ソングブック・コレクション『I’ll Be Seeing You』で、彼女はジェラルド・マークスとシーモア・シモンズの1931年作品「All Of Me」を見事に自分のものにしている。
7:ラウル・マロ、パット・フリン、ロブ・アイクス:「(I Love You) For Sentimental Reasons」(2008年、『Nashville Acoustic Sessions』)
ザ・マーヴェリックスのラウル・マロは、グレイト・アメリカン・ソングブック時代のヴィンテージ・ナンバーを聴き分けるセンスをしばし駆使し、愛情のこもった歌声で人々の心を溶かしながら、そのキャリアを築いてきた。2008年、バンドの活動休止中に、お薦めアルバム『Nashville Acoustic Sessions』を制作する為に、セッション・ギタリスト兼ソングライターのパット・フリンと組んだ。アルバム最後を飾るのは、アブナー・シルヴァー、アル・シャーマン、エドワード・ヘイマン作品「For Sentimental Reasons」のトリオによるステキなリヴァイヴァル。
8:ジム・リーヴズ:「It’s Only A Paper Moon」(1964年、『Moonlight And Roses』より)
ハロルド・アーレン、エドガー・イップ・ハーバーグ、そしてビリー・ローズ作「It’s Only A Paper Moon」は、元々「If You Believed In Me」というタイトルで30年代にブロードウェイの失敗作『The Great Magoo』の為に書かれた曲だが、こちらの方は舞台よりもずっと息の長いものになった。ジム・リーヴズが1964年のセカンド・アルバム『Moonlight And Roses』で紳士的な印象を与える以前に、フランク・シナトラ、ペリー・コモ、ザ・キング・コール・トリオ等々、既に3ダース以上のカヴァーが発表されている。この作品は、飛行機事故により40歳で無惨な死を遂げたジム・リーヴズの最後のアルバムとなった。
9:ナンシー・グリフィス:「In The Wee Small Hours Of The Morning」(2006年、『Ruby’s Torch』より)
カントリー界を代表するテキサス出身シンガー・ソングライターのナンシー・グリフィスが、グレイト・アメリカン・ソングブックのオーケストラル・ブランドをリメイクした作品。彼女の高く評価されているカタログには、自らが生み出した逸品が数多く含まれているが、2006年の『Ruby’s Torch』では、デイヴィッド・マン=ボブ・ヒリアード作のとてもロマンティックな「In The Wee Small Hours Of The Morning」等、失恋を歌ったトーチ・ソングへの愛を率直に表している。
10:シェルビー・リン:「Don’t Get Around Much Anymore」(1991年、『Tough All Over』より)
ヴァージニア州出身のエネルギッシュな女性シェルビー・リンは、カントリー・チャート初登場から12年以上も後、2000年のグラミー賞最優秀新人賞受賞でキャリアの最高潮を迎える。シェルビー・リンのエピック・レーベル初期の時代から、我々はボブ・ラッセルのペンによるエレガントな歌詞が印象的なデューク・エリントンの「Don’t Get Around Much Anymore」を選曲。
11:パッツィー・クライン:「Always」(1968年、シングルA面)
我々のセレクションの最後を飾るのは、忘れることの出来ないパッツィー・クライン、この人しかいない。アーヴィング・バーリンの黄金のソングライティング全盛期初期の頃のナンバー、1925年の「Always」のパッツィー・クラインによるヴァージョンは、彼女のカントリーへの想いに溢れている。タイトルもぴったり。つまり、グレイト・アメリカン・ソングブックに含まれるものを、この偉大なカントリー・スター達が披露する作品等を、我々は“いつも…(Always)”プレイし続けるだろう。
♪パッツィー・クラインやウィリー・ネルソンに加え、ハンク・ウィリアムス、ジョージ・ジョーンズ等々によるカントリーの名作が数多くフィーチャーされたプレイリスト『カントリーを好きになっても良いんだよ』をフォロー:Spotify
(*本記事およびリストは本国uDiscovermusicの翻訳記事です)
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