Stories
カイザー・チーフス『Stay Together』:新しいことに挑戦した6作目
カイザー・チーフスは、常に矛盾を孕んだグループだ。2004年にデビュー・シングル 「Oh My God」でチャート入りを果たした彼らは、ブラーの後継者として賞賛され、イギリスの大衆の日常をつぶさに観察したその作品で人気を集めてきた。しかし、フロントマンのリッキー・ウィルソンは、当時を振り返り、そのころのヒット・チャートで上位にランクインするというのは、張り合う相手がインディ系のバンドではなかったということだと回想してこう言っている。「事故と言うか偶然と言うか、僕たちのライバルはガールズ・アラウドだったのさ」。
そんなはずはないだろうと思うかもしれないが、両者に関連性があることに気づいていた者が少なくとも1人いた。カイザー・チーフスが6枚目のアルバム『Stay Together』用の楽曲を準備していた時期のことだ。ガールズ・アラウドのプロデューサーであるブライアン・ヒギンズが、バンドにアプローチをかけてきたのだ。「彼らが備えているニュー・ウェーブ的なアティチュードに踊れる要素を加えて、グループのサウンドにグルーヴ感を加えることの有効性を確かめるために、2日間試させてほしい」それがその際のプロデューサー側からの要望だった。
そして完成したアルバムは、20年に及ぶカイザー・チーフスの歴史にあって、決して珍しいことではなかったが、矛盾の産物ともいうべき1枚で、相反する要素が混在した内容になっていた。ヒギンズは (ニッキー・ミナージュやビヨンセに楽曲を提供をしているソングライターたちやゼノマニア一派の才人たちと同様に)ダンスフロア向けのポップな要素を持ち込みはしたが、『Stay Together』は100時間にも匹敵する生演奏のジャムから生まれたアルバムでもあったからだ。ベーシストのサイモン・リックスが述べている。「プロデュースという意味ではこれまでで最もしっかりとプロデュースされたアルバムに違いないけれども、その中心になっているのはこれまでのアルバムの中で最もライヴ感に富んでいるってことじゃないかな」。
思いを素直に打ち明ける表現が顕著なリッキー・ウィルソンの新しい作詞スタイル(意識の流れのままに、心情を正直に打ち明けるというパターンが少なからず見受けられる)もあり、このアルバムのテーマはそのタイトルが示す通り、サウンドと同様にダイレクトなものだ。先行シングルの「Parachute」や続く「Hole In My Soul」は、本物の感情は「ポップスの歌詞として無敵だ」というウィルソンの強い主張もあって既にライヴではシームレスな形で演奏されている。さらに『Stay Together』について彼はこうも言っている。「どんな風に考えようと構わないが、このアルバムを一つにまとめているのは、言ってみれば一夫一婦制みたいな感覚なんだ」。
そのことはアルバムのタイトルからも明らかに感じられるし、グループにとってのモットーであるのかもしれない。20年前、カイザー・チーフスはインディー・バンドながらあっさりとヒット・チャートのトップにランクインして束の間の成功に酔いしれ、そしてワンパターンを繰り返して人気を落としていった。しかし、現在の彼らがあるのは、新しいことを試すことに対する彼らの熱意があったからこそなのだ。リッキーの言うように、もし『Education, Education, Education & War』でのイギリスでのナンバー・ワンが彼らにとっての新しい方向を指し示すものだったとしたら、『Stay Together』は彼らが新境地に向けて再び船出したことをはっきりと示す作品だと言える。もちろんその航海のバックグランド・ミュージックはデッキ上で大騒ぎの乗員たちの声だ。
Written By Sam Armstrong
カイザー・チーフス『Stay Together』