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マーク・ノップラーの2ndソロ作『Sailing To Philadelphia』:表題曲はトマス・ピンチョンの小説「メイスン&ディクスン」がテーマ
元ダイアー・ストレイツのフロントマン、マーク・ノップラーのソロ・アルバムにはイギリスとアメリカのルーツ・ミュージックを独自につなぎ合わせて優美に作られた曲のみが入っている。そしてマーク・ノップラーのファンの殆どは、2000年9月26日にリリースした彼のセカンド・ソロ・アルバム『Sailing To Philadelphia』の出来に対して、マークがその二つをうまくつなぎ合わせた成功作を創り上げたということに同意するだろう。
2000年に発売された『Sailing To Philadelphia』以来、マーク・ノップラーの生産ペースは早まりつづけた。通常、アーティストのキャリアの長さと新譜の発売ペースは比例していくが、彼は全く逆だった。その後の15年のうち、2015年にリリースしたいつも通りに素晴らしいアルバム『Tracker』を含み自身のソロ・アルバムを6枚制作。それだけではなく、サントラ制作やゲスト参加、広範囲に及ぶツアーなど数々の他の活動も並行して行っている。
セカンド・ソロ・アルバム『Sailing To Philadelphia』は、マーク・ノップラーのソロ名義としてはデビュー作『Golden Heart』から4年間後に発売。その4年の間もマークは『Golden Heart』のプロモーションや映画『メトロランド』と『ワグ・ザ・ドッグ – ウワサの真相』のサントラの制作そしてツアーも行っていた。
話を『Sailing To Philadelphia』に戻そう。
アート、特に文学からイスピレーションを得ることにオープンだったマークだが、チャールズ・メイスンとジェレマイア・ディクソンの人生をベースに書かれたトマス・ピンチョンの小説「メイスン&ディクスン」を読み終えるといたく感動し、これをテーマにした楽曲の制作を決意。この小説「メイスン&ディクスン」は、アメリカ南北戦争が起こる約100年前に、天文学者のチャールズ・メイスンと測量技師のジェレマイア・ディクソンが作った「メイスン=ディクソン線」が登場する話で、この線は後にアメリカ合衆国の北部と南部を分ける線、自由の身と奴隷州を分けた象徴的な境界線となった。
アルバムのタイトル・トラック「Sailing To Philadelphia」では、「メイスン&ディクスン」の主人公の二人を登場させ自叙伝のスタイルをとった。マークがディクソンの役を演じることは決めていたが相手であるメイスン役を歌う歌手を探す必要があった。そこでマークはその相手役をジェイムス・テイラーにお願いすることになった。
「ジェイムスから、いつか自分をプロデュースしてくれないか、って依頼されてたことを思い出したんだ」とマーク・ノップラーは当時語っている。「何度か話をしているうちに、チャールズ・メイスンの役はジェイムスが演じるのが理想的だと感じたんだ。ジェイムスのフォークのバックグラウンドなら上手く演じられるとね」。
アルバムはヨーロッパ中でTop5を記録した。ドイツ、イタリア、ノルウェー、スイスでは首位を獲得、イギリス、アメリカ、オーストラリアではゴールドに輝き、幾つかの小さな国ではプラチナムにまでなった。アルバムに収録された他の曲で注目なのは、マーク・ノップラーが尊敬するもう一人の有名なアーティスト、ヴァン・モリソンが「The Last Laugh」がゲスト参加していることだろう。
「僕が大学生だったころから、彼は僕の人生の一部だった」とヴァン・モリソンの参加についてマーク・ノップラーは語っている。「自分が書いた曲を彼が歌うんだよ。それを聞くのは興奮したね。長年にわたってヴァンの音楽は僕にとって意味のあるものだったからね」。
他に注目すべきところは彼の旧友だったスクイーズのグレン・ティルブルックとクリス・ディフォードが参加した「Silvertown Blues」、シングル曲の「What It Is」、そしてマーク・ノップラーのギターパフォーマンスが特に光る2曲「Speedway At Nazareth」と「Baloney Again」だ。
Written by Paul Sexton
*マーク・ノップラーの公式YouTubeチャンネルでは『Sailing To Philadelphia』を振り返り、当時影響を与えられた人や場所を訪れるドキュメンタリーが公開中。
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