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音楽雑誌の歴史:栄枯盛衰とオンライン化
過去に掲載した“Know Your Writes”の記事(日本版uDiscoverでは現在未翻訳化)では、世界的なロック雑誌の歴史と、アメリカやヨーロッパでは多岐にわたる素晴らしい音楽雑誌があることで、ライターが育成され、彼らの情熱や才能と知識が、今日の私たちがいかにして音楽を吸収するかに大きく影響してきたことを検証した。
今も生き抜いている音楽雑誌は音楽ニュースやレヴュー、インタヴューを掲載し続けているが、現在では商業的な意味で大きな役割を果たすことは少なくなっている。実際、業界でも最も尊敬される紙メディアでまだ存続しているものは、直接メインストリームのジャンルやアーティストと関わることでその人気を獲得(そして維持)し、一番人気の曲をチャートに反映したり、人気曲の歌詞を掲載、または常に成長を続けるコレクター市場に訴えるコンテンツを提供してきた。
現在も人気上昇中のアーティストにとって、Billboard誌の表紙を飾ることは名声あることだ。間違いなく現存する最大の音楽誌であるBillboard誌は1894年にシンシナティで創刊され、蓄音機やレコード・プレイヤー、無線ラジオなどに関する記事を発行し、1907年から映画業界についても取り上げるようになった。1920年代から音楽に関する内容をより多く取り上げ、1939年1月には‘レコード購買ガイド’を、そして1940年には現在のシングル・チャートの前身として当時のベスト・セラーを記録する‘Chart Line’を紹介した。
Billboard誌の最も長きにわたるポップ史への貢献は、音楽セールスとラジオの放映時間を考慮し、その時代の最も人気のある曲を決めるBillboardチャートと言えるであろう。最初のBillboardホット100(全米シングル・チャート)は1958年8月に紹介され(リッキー・ネルソンの「Poor Little Fool」が1位を獲得)、同誌の最初のベスト・セリング・アルバム・チャートは1956年に設けられた。現在知られるBillboard 200チャート(全米アルバムチャート)は1967年5月に初登場したが、当時はシンプルに“Top LP”と名付けられていた。
しかし、初めてチャートを発行した雑誌はBillboard誌ではなく、名声あるアメリカのジャズ雑誌、メトロノーム誌(もともと1881年に創刊され、マーチング・バンドをターゲットにしていた)であり、1939年に読者の投票により年間ジャズのトップ・インストゥルメンタリストを選定していた。1942年にはカナダの週刊キャッシュボックス誌も自身のヴァージョンのヒット・パレードを発行したが、Billboard誌と異なり、初期のチャートは混乱を招き、曲の現存するすべてのヴァージョンをひとつにまとめており、各ヴァージョンのアーティストとレーベルの情報を加え、レーベルのアルファベット順に並べて表記した。1950年以降、キャッシュボックス誌はもっと短いジュークボックス・チャートも発行し、詳細なアーティスト情報も掲載した。50年代後半にはカントリーやR&Bなど、ジャンルごとにチャートを発行するようになった。
ジュークボックス業界は1930年代も北米の大恐慌の間でも引き続き成長していた。そして、その期間に北米大陸で最も長寿の雑誌のひとつであるエスクワイア誌が創刊された。ファッションと政治を主に題材にしながらも、1959年1月からの名作オール・ジャズの版は高く評価され、またノーマン・メイラーやトム・ウルフなど未来の大物ライターを育てたことでも称えられている。
ノーマン・メイラーは、最初の都会のタブロイド型新聞で、のちにアメリカで“オルタナティヴ・ウィークリー”として知られるザ・ヴィレッジ・ヴォイス紙の立役者として活躍した。1955年の10月にニューヨークのグレニッチ・ヴィレッジの2ベッドルームのアパートから始まり、非常に尊敬され、ピューリッツァー賞も受賞した同紙は地政、国政といった政治を扱い、音楽からダンス、演劇までを含む文化的な内容も取り上げた。さらにヘンリー・ミラー、アレン・ギンスバーグ、ジェイムス・ボールドウィンまで影響ある作家の数々の作品も掲載している。中でも最も主張の強く、自称”アメリカ・ロック批評界の長老”ことロバート・クリストガウは、ヴィレッジ・ヴォイスが毎年行うアルバム・リリースの投票によってつくられる“Pazz & Jop”を1971年に考案し、最初のチャートではザ・フーの名作でハード・ロックな『Who’s Next』が首位の座についた。
ザ・ヴィレッジ・ヴォイスのような独自の路線を進む出版物は、のちにインターナショナル・タイムスやオズなど、ともに物議を醸した60年代のアンダーグラウンドの音楽雑誌に影響を及ぼした。1966年10月に初めてロンドンのラウンドハウスで行われたピンク・フロイドのライヴで発行したインターナショナル・タイムスはDJジョン・ピールやフェミニスト批評家ジャーメイン・グリアなど著名な人々が貢献していたが、反体制的な方針の雑誌を苦々しく思った警察当局によってロンドンの事務所には頻繁に捜査が入り、最終的に1973年10月にはオリジナルの形式での出版を廃止した。
オーストラリアのシドニーで創刊されたオズは、サイケデリアやヒッピー・ムーヴメントに強く賛同し、のちに1967年から73年までロンドンで出版された。しかしエロティックな内容が常にその存在を脅かし、わいせつとして訴訟を2件起こされた。両方の訴訟は雑誌の編集者が有罪となり厳しい実刑を強いられたが、ともに控訴した結果無罪となった。
70年代と80年代には、音楽雑誌は急速に成長していたあらゆるフォーマットや音楽関連の記念品を含むコレクター市場に着目した。1974年にミシガンで創刊されたゴールドマイン誌は現在でも、過去のアーティストから現代のアーティストを対象にレヴューや懐古的な特集を組んでいる(アーティストのディスコグラフィーも含む)。また、現在でも続いているのはイギリスを拠点にしたレコード・コレクター誌で、1980年に創刊したこの雑誌は同じような機能を果たし、懐古的な特集、コレクタブルのリリース、独占取材や総合的なレヴューを掲載している。
これらの雑誌は、時代とともに変化していくことの必要性を理解し、現在では電子版も提供している。この考え方はジャズワイズなどの新しい出版物も取り入れている。1997年に創刊され、ジョン・ニューイ(元サウンズ誌)の編集によるジャズワイズは、長い間イギリスで最も売上を誇る月刊ジャズ誌であり、継続してインターンの制度を駆使して若いジャズ・ライターを育成していくだけでなく、iTunesのニューススタンドで提供される初のジャズ誌となった。
新しい時代におけるデジタル改革により、我々の多くはオンラインを最先端の情報源として求め、昔の音楽も現代の音楽も手に入れるための様々なオプションが提供されている。Rock’s Backpagesなどのアーカイヴのサイトは、昔の音楽を好む読者を対象にしており、ピッチフォークやスピンなどは現在の音楽批評を対象にしている。そしてuDiscoverでは最新のニュースから、過去の物語、厳選されたプレイリスト、ビデオやポッドキャストも提供している。勇敢な新しい世界に飛び込むわけだが、それでも急速に進化していく21世紀において、当記事で取り上げた画期的な出版物のうち、存続していくためにオンラインへのアップグレードを余儀なくされたとしても、少なくとも6誌は現存しているというのは心強い事実である。
Written by Tim Peacock