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1960年代の終わりにイギリスが生んだ傑作アルバム、ジャック・ブルース『Songs For A Tailor』
クリームのどの作品のクレジットを見てもそこにクラシック・ブルースが含まれていることに気付くだろう。そして同時にジャック・ブルースとして知られるジョン・サイモン・アッシャー・ブルースの曲作りの才能もわかるだろう。彼が手掛けた作品として「N.S.U」「Sunshine Of Your Love」「SWALBR」「Politician」、そして忘れてはならない(バタード・オーナメンツの)ピート・ブラウンと共作した「White Room」などが挙げられる。
1969年のソロ・アルバム『Songs For A Tailor』に収録されている曲はすべてジャック・ブルースとピート・ブラウンが作曲をした。そのクオリティは保証されている。1968年8月29日にリリースされたアルバムは、ジャック・ブルースにとってクリーム解散後初のソロ作品となる。実際には1968年にジョン・マクラフリン、ディック・ヘクストール=スミス、そしてジョン・ハイズマンと共にアコースティック・フリー・ジャズ・アルバムをレコーディングしており、それはジャック・ブルースにとっての2枚目ソロ・アルバムとして1970年に発売された。
『Songs For A Tailor』は多くを約束し提供しているが、時間の流れと共にその良さに人は気付き始めている。発売された当時は、あのクリームのサウンドはどこへいった?と多くのリスナーが困惑した。
ブルースとジャズに夢中になっていたジャック・ブルースは、彼自身が偉大なるロック・トリオのメンバーというだけではなく、また違う感受性と繊細さを持ったミュージシャンでもあり、この作品が正に彼のその部分を反映している。オープニング・トラック「Never Tell Your Mother She’s Out Of Tune」のテンポや刺さるようなジャズ・ブラスを聴けば、この作品が全く違うサウンドであることはすぐに分かるだろう。サックス奏者のディック・ヘクストール=スミスとドラマーのジョン・ハイズマンの演奏はいつも通りに巧みで、サックス奏者のアート・シーメンと、トランペット奏者のハリー・ベケットとヘンリー・ロウザーが加わると、その世代を代表する若きイギリス人ジャズ・ミュージシャンたちが揃う。
しかしそれでもクリームのファンたちは、ジャック・ブルースのトレードマークである上昇するヴォーカルを含む「White Room」に似た素晴らしいトラック「Theme From An Imaginary Western」に一時的に満足した。そしてクリームの大ファンであるマウンテンは、デビュー・アルバムで効果的にその曲をカヴァーした。
「Tickets To Water Falls」もまた素晴らしいトラックで、その複雑さと情熱は際立つトラック「Weird Of Hermiston」へと繋がっていく。19世紀のロバート・ルイス・バルフォア・スティーヴンソンの未完成小説『ハーミストンのウエア(原題:Weir of Hermiston)』のタイトルでセンス良く言葉遊びをしている。
ジョン・ハイズマンのバンド、コロシアムによってカヴァーされた「Rope Ladder To The Moon」は、アルバムの中で最も知られているトラックとなっている。ジャック・ブルースのチェロ演奏は予想外であり完璧で、「The Ministry Of Bag」はイギリス最高のブルース・バンド、グラハム・ボンド・オーガニゼーションにいた頃のジャック・ブルースを思い出させる。
アコースティック・ギターが溢れる「He The Richmond」は、キャット・スティーヴンスが作ったと言ってもおかしくないトラックだが、シェークスピアを参照するこのトラックの方がよりダークに仕上がっている。「Richmond」や「Boston Ball Game, 1967」も同じく優れたジャック・ブルース・ソングになっている。
トールキンの地球の中央にある架空の要塞について歌う「To Isengard」は、アルバムの他の曲とは全く違うトラックで、美しく繊細であり、ブラウンの詩のようなリリックに合わせて素晴らしいメロディを作るジャック・ブルースがその才能を発揮している。相応しいタイトルがつけられた「Clearout」でアルバムは締めくくられ、異なる曲ではあるが、クリームが作りそうなサウンドになっている。
この作品が興味深いのは、ジャック・ブルースがクリームとして活躍した時代を利用したり、甘んじることを拒んだことだ。彼はアーティストとして成長することを望んだ。結果として思ったよりも売り上げは少なかったが、それでも1969年の10月の最終週にはUKアルバム・チャートで6位にランクインされた。それはアメリカで最高55位にランクインされたのと同じ週であった。しかしチャートに惑わされてはいけない。この作品に不可能はなかった。1960年代の終わりにイギリスが生んだ傑作アルバムであることは間違いない。
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