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「Sing」や「Yesterday Once More」を収録したカーペンターズのアルバム『Now & Then』の秘密
今となっては、懐古趣味が商売として成立していなかった時代のことなどなかなか想像しにくい。しかし1970年代初期までは、音楽界に限らず、あらゆる芸術の分野で、過去を振り返るというアプローチはまだ商業的には盛んではなかった。しかしカーペンターズは、変わりゆくポップ・ミュージックの世界の流れに常に通じており、過ぎ去った日々へのノスタルジーを表現した最初期のアーティストとなったのだった。彼らの5枚目のアルバム『Now & Then』は過去と現在を見事なかたちで結びつけた作品となり、1973年6月2日に全米アルバム・チャートで初登場81位を記録している。
言うまでもなく、カレン・カーペンターとリチャード・カーペンターは実にクリエイティヴな兄妹だった。それゆえふたりは、単に昔の曲をカヴァーするだけでなく、自らの新曲でノスタルジーの世界を作り出した。その代表例がリチャードとジョン・ベティスの共作曲「Yesterday Once More」である。これはアルバムと同時にシングルでも発売された。この曲では、若いころにラジオで楽しんでいた曲が「ずっと会えなかった友達のように戻ってきた」と歌われている。
「Yesterday Once More」はポップ・チャートで最高2位まで上がり、イージー・リスニング・チャートでは4年間で8度目となる1位を獲得。さらに世界各国でヒットし、イギリスのシングル・チャートでも最高2位を記録している。
アルバム『Now & Then』はA面が「Now(現在)」、B面が「Then(過去)」という構成になっており、B面にはカーペンターズが若いころに聴いていた曲のカヴァーがズラリと並んでいた。「Yesterday Once More」は新曲ながらそのB面の冒頭にピッタリの内容だった。
一方「Now」のA面は「Sing」で幕を開ける。これはテレビ番組『Sesame Street』のために番組の音楽担当であるジョー・ラポゾが作った曲で、1970年代から1980年代にかけて、多くのカヴァー・ヴァージョンを生むことになる。同じようにレオン・ラッセルの作品「This Masquerade」もたくさんカヴァーされている曲だが、数あるカヴァー・ヴァージョンの中でもカーペンターズのヴァージョンはとりわけファンの多いものの一つとなっている。
その次の「Heather」は、ジョニー・ピアソン(英BBCの人気音楽番組『Top Of The Pops』のオーケストラ・リーダーとしてイギリスで有名な作曲家)が作ったインストゥルメンタル・ナンバー。このA面は「Now」と銘打たれてはいたが、ハンク・ウィリアムズの懐かしの名曲「Jambalaya (On The Bayou)」も登場している。そして最後は、当時頭角を現しつつあったニュージャージー出身の作曲家ランディ・エデルマンの「I Can’t Make Music」で締めくくられている。
アルバムB面では、冒頭の「Yesterday Once More」に続いて、ポップスやカントリーの懐かしのヒット曲が次々に演奏され、聴く側はカーペンターズの子供時代に連れ戻される。ここでカヴァーされたのは、スキーター・デイヴィスの1962年のバラード「The End Of The World(邦題:この世の果てまで)」、その翌年にクリスタルズが出した「Da Doo Ron Ron」、さらには「The Night Has A Thousand Eyes(邦題:燃ゆる瞳)」や「Our Day Will Come」といった不朽の名曲の数々。さらに、ここではビーチ・ボーイズの「Fun, Fun, Fun」やジャン&ディーンの「Dead Man’s Curve」(こちらにもブライアン・ウィルソンが曲作りに参加している)といったサーフィン・ブームのヒット曲も採り上げられている。
『Now & Then』は、アメリカ、イギリス、カナダ、オランダのチャートでいずれも最高2位まで到達。アメリカでは200万枚、日本でも50万枚を売り上げた。こうしてカーペンターズは、「現在と過去のポップスを両方巧みにこなせるデュオ」という評価を不動のものにしていったのである。
Written By Paul Sexton
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