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誕生60周年「フライングV」の誕生秘話と惚れこんだミュージシャン達
「最初は20本しか製造されなかったんだ。‘Memphis’で弾いていたあの一本は今でも使っているよ」。これは米チャートでトップ5を記録したあのヒット作「Memphis」のリリースから5年後の1968年のロニー・マックの言葉だ。「Memphis」は、1958年1月6日にギブソン社から発売された超個性的なギター、フライングVの知名度の向上にも一役買っている。
最初に製造されたのは98本だったという説もあるが、いずれにしても希少品には変わりなく、1958年から59年にかけて製造されたモデルは現在20万ドルから25万ドル(2,262万~2,828万円)の価値があるという。インディアナのブルース・マン、ロニー・マックは、世界に数あるギターの中でもとりわけ強烈なルックスを持ったこのギターを最も早い時期に手にした一人だった。
ロニー・マックは自分のギターを「セブン」と名付けていたが、それは彼のギターが7本目に製造されたものだと言われていたからだ。彼と同期のギタリストであるアルバート・キングもフライングVが少数ながら出回り始めていた時期に入手していた。彼は、B.B.キングが自分の愛機に「ルシール」という愛称をつけていたことにあやかって、自らのギターを「ルーシー」と呼んでいた。
それらの初期ロット分はマホガニー材ではなく、より軽量のコリーナが使われており、ギブソン社長であったテッド・マッカーティーのデザインによるルックスはあえて未来的なものを狙ったものだった。当初は人気を得られなかったが、記念すべきヒット曲「Memphis」およびその他のロニー・マックの作品達のおかげで、新しい世代の若者達はフライングVに関心を向けるようになったのだった。
フライングVがサウンド的にもルックス的にもアピール力を持っていることに気がついたミュージシャンには、キンクスのデイヴ・デイヴィス、ラヴのアーサー・リー、そしてジミ・ヘンドリックスなどもいた。チャンスを見るのに敏感なギブソンは1967年、今度はマホガニー・ボディーに改良して再びフライングVを売り出した。同じ年にアルバート・キングが愛機ルーシーを使ってレコーディングした「Born Under A Bad Sign」は、スティーヴィー・レイ・ヴォーンを始め未来のスター達を夢中にした。アルバート・キングは、まるで人気テレビ番組から拝借したかのようなタイトルの「(I Love) Lucy」という曲もリリースしたが、もちろんこれは自身のフライングVの愛称から採ったものだ。
ウィッシュボーン・アッシュのアンディ・パウエルもフライングVのファンの一人だ。1974年のギター・プレイヤー誌とのインタビューで、彼は次のように語っている。「ロンドンまで電車で出かけてはガラス越しに楽器屋を覗いていたよ。フライングVを手に入れた自分をよく想像していたものさ。最近、コンディションの良いのをもう1本手に入れたんだ。嬉しいね」。
このギターは、70年代初頭から中頃にかけてのグラム・ロックの、派手で押し出しの強いバンドにぴったりのルックスとサウンドを持っていた。マーク・ボランやKISSのポール・スタンレーはまさにそんなイメージだったし、モントローズのロニー・モントローズやチープ・トリックのリック・ニールセンの2名も58年モデルを70年代に手に入れている。
トム・ペティはこのギターの長年の大ファンで、ハートブレーカーズのロゴで描かれた心臓にはフライングVが突き刺さっている。1989年のQ誌でのインタビューではこう語っている。「ゲインズヴィルでキンクスがテレビに出ているのを見た時にデイヴ・デイヴィスが弾いているのを目にして以来、フライングVが最高だといつも思ってたよ。最高にクールじゃないかとね、最初に買ったのがあれだったわけさ」。
フライングVがやがてクワイエット・ライオットのようなヘアメタル系のバンドにもてはやされるようになるにつれてトム・ペティのフライングV熱は冷めていったようだが、スコーピオンズも80年代にフライングVにハマっていたことがあるし、より最近のグループではハスカー・ドゥもこの楽器を使用していた。1990年代のアーティストでは、フライングVを手にジミ・ヘンドリックスを彷彿させるプレイを披露するレニー・クラヴィッツが思い浮かぶ。
1970年代後期にはフライングV2が登場し、その後もリヴァース・フライングVやVベースとヴァリエーションを広げ、現在に至っているが、ギブソンとエピフォンが目下製造しているものは1958年モデルのデザインになっている。
Written by Paul Sexton
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