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【祝80歳】ロッド・スチュワート:UKの国宝級シンガーの歴史をたどる

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Photo: Ron Howard/Redferns

2025年1月10日に80歳の誕生日を迎えた英国人シンガーのロッド・スチュワート(Rod Stewart)。バンドでのリードシンガーからソロへと転向し、今もなお歌い続け2024年3月には来日公演も果たした国宝級シンガーの歴史をたどります。

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路上からの大スター

ロッド・スチュワートは音楽ビジネスの最前線で数々の功績を上げ、大成功を収めてきた。そうした業績を書き連ねていけば、本の1冊どころか4冊くらいは軽く埋まってしまうだろう。それも特に驚くには当たらない。何しろ彼は、ハーモニカとアコースティック・ギターを携え、ビートニクの帽子をかぶり英国各地の路上でパフォーマンスを始めてから、60年以上に渡ってショービジネスと芸能の世界に身を置いてきたのだから。

彼は明らかに大成功を収める運命にあり、ジェフ・ベック・グループやフェイセズといったグループでリード・ヴォーカリスト兼ソングライターとして大活躍してきた。とはいえ、今回の記事で注目するのは、そうしたグループ活動と並行して行われた彼のソロ活動である。そのことに誰も異論はないだろう。

彼は世界中で1億5千万から2億枚ものアルバムを売り上げている。ナンバーワンヒットをいくつも出し、シングル・チャートを制覇し、アリーナ・コンサート・ツアーの主役となった。「ロッド・ザ・モッド」というあだ名で知られるようになった彼はある種のスタイルの創始者であると共に、生まれつきのセレブリティでもある。労働者階級の出身でありながら今や上流階級の一員でもある彼の音楽は、その元気いっぱいのキャラクターを反映している。

彼はストーリーテラーであり、時には大ボラを吹かすこともある。その一方で実に見事なカヴァー曲の歌い手であり、難解さよりも庶民感覚を打ち出したエレクトリック・フォーク・ブルースやロックの開拓者でもある。それでいて、居心地のいい安全地帯の外へも恐れることなく足を踏み出すことがある。マーキュリーからリリースされた初期のアルバムはどれも必聴の代表作であり、『Every Picture Tells a Story』や大ヒット曲「Maggie May」は氷山の一角にすぎない。

Rod Stewart – Maggie May (from It Had To Be You)

その後のロッドは賢く年を取り、20世紀アメリカのスタンダード曲を探求していった。とはいえ彼のルーツは今もその歌から感じ取れるし、あの有名なパイナップルヘアにもしっかり表れている。 (あのヘアスタイルはある世代の若者たちに大きく影響を与え、そのおかげでロッドは英雄視され、ファッション・アイコンとして崇め奉られていた)。また、ロッドはその功績が認められてCBE勲章を授与されている。

彼はアメリカではロックの殿堂入りを果たし、ハリウッド・ウォークにも名前が刻まれている。さらにはグラミー賞とブリット・アワードも受賞。とはいえ、ロッドはこれらの賞よりも、レコードの売り上げや印税、そしていつも忠実なファン層のほうを重視しているのだろう。彼がこれほどの人気を集めている理由は、おそらく皆さん既にご承知のはず。もしご存知でないという方には、ここからの記事をお読みいただきたい――。

 

バンドのヴォーカリストへ

1945年にノース・ロンドンで生まれたロッドは、10代のころ、さまざまな仕事を転々とした後、スキッフルとロックンロールに挑戦した。駆け出しのころに参加したバンド、ザ・レイダースではジョー・ミークとレコーディング・セッションを行うところまで行ったが、それ以上の展開はなかった。

やがてボヘミアン的なライフスタイルと反核運動への参加がきっかけとなり、ロッドは国中を飛び回っていく。のちにキンクスとなるバンドのミュージシャンたちと付き合ったあと、彼は非常に早い段階からモッズの信奉者となった。つんつんと髪を逆立てた雄鶏のようなヘアスタイルになった1964年には、ブリティッシュ・フォークから外れてアメリカのソウルやR&Bに傾倒していった。

オーティス・レディングとサム・クックを発見したロッドは、いつも実入りのいい仕事があふれていたロンドンのクラブ・シーンでパフォーマンスを始めた。さまざまなバンドを渡り歩いた後は、ロング・ジョン・ボールドリーのグループに参加。デッカ・レコード向けにデモを作り、やがてスティームパケットのヴォーカリストとなった。これは素晴らしいバンドで、その後の活動でも一緒になるドラマーのミッキー・’ザ・ウォロップ’・ウォーラー、ブライアン・オーガー、ジュリー・ドリスコルがメンバーに名を連ねていた。

その次のバンド、ショットガン・エクスプレスではミック・フリートウッドやピーター・グリーンと組み、そしてついにヤードバーズ脱退後のジェフ・ベックのグループに参加。名盤『Truth』と『Beck-Ola』を華々しいヴォーカルで飾った。

Shapes of Things (2005 Remaster)

ベックとの仕事付き合いは良好だったにもかかわらず、ロッドはソロ活動に挑戦する必要性を感じていた。そうしてデビュー作を1968年にレコーディングするが、これは1年間お蔵入りとなった。そのあいだに彼はフェイセズにリード・ヴォーカリストとして加入した。このバンドではベック・グループ時代の旧友ロン・ウッドがベースからリード・ギターに転向し、ケニー・ジョーンズ、イアン・マクレガン、ロニー・レインと並んでバックを務めていた。彼らは全員、ロッドのソロ・アルバムでも名録音の数々に参加することになる。

Faces – Stay With Me (Live on Sounds For Saturday, BBC, 4/1/72)

 

ソロ活動のスタート

初のソロ名義アルバム『An Old Raincoat Won’t Ever Let You Down』 (アメリカでは『The Rod Stewart Album』となり、現在ではその題名で流通している) は、ためらいがちに暗闇へと足を進めた第一歩だった。ロッドのトレードマークであるしゃがれ声と派手な歌い回しは最初から全開であり、ローリング・ストーンズの「Street Fighting Man」は素晴らしいカヴァー・ヴァージョンに仕上がっている。

Street Fighting Man

彼はマイク・ダボの優しいバラード・フォーク「Handbags and Gladrags (ハンドバッグと外出着)」を自分のものにし、イアン・マッコールの「Dirty Old Town」の懐に入り込んでいた。また「Cindy’s Lament (シンディの嘆き)」と「I Wouldn’t Ever Change a Thing (君だけを)」では曲作りにも挑戦し、大きな成果を上げている。

腕を磨いた後の第2弾『Gasoline Alley』は、こうした冴えたアプローチで名ソングライターの楽曲を取り上げている (ボブ・ディラン、ボビー・ウーマック、エルトン・ジョン、そしてスティーブ・マリオット)。またこのアルバムには、「Jo’s Lament」や「Lady Day」のようなさらに自信を深めたロッドの珠玉の名曲も収められていた。

このアルバムでは、ロッドはアコースティック&エレクトリック・ギタリストのマーティン・クイッテントンを起用。この後もクイッテントンは創造性豊かなサポート役を務めていく。またここでは、フェイセズのメンバー全員に加えて、ドラムのウォーラーやピアニストのピート・シアーズもバックを担当していた。

Gasoline Alley

 

これらのソロ・アルバムは星5つに相当する大名盤であることは確かだったが、心配性で有名なスチュワートはこれで自分もおしまいかもしれないと不安になった。ガソリンが尽きてしまったのではないかと心配したのである。実のところ、それどころではなかった。次のアルバム『Every Picture Tells a Story』はイギリスとアメリカでチャートの1位に到達。このディスクのあらゆるところから、ヒットの匂いが漂っていたのである。

『Every Picture Tells a Story』はほぼ完璧と言っていい内容であり、絶好調のロッドはモーガン・スタジオで一流のエンジニアたちと飛び切り共感力にあふれたロンドンきってのミュージシャンたちに囲まれていた。ノース・ロンドンでクイッテントンと共作した「Maggie May」は、これまで作られたルーツ・ロックの曲としては最も有名な部類に入るはずだ。

Maggie May

またティム・ハーディンの「Reason to Believe」のカヴァー・ヴァージョンも極上の出来になっている。さらにボブ・ディランのアウトテイク曲「Tomorrow Is a Long Time」もあれば、エルヴィスのカヴァーもある。そして雄大なアルバム・タイトル曲や哀愁に満ちた「Mandolin Wind」には、ロッドならではの味わいがしみ渡っていた。これは諸手を上げておすすめできる名盤だ。どの曲にも多少のストーリー性があり、それが曲にさらなる深みを与えている。

Every Picture Tells A Story

続く『Never a Dull Moment』と『Smiler』も同じように魅力的だ。便利なことに、これらのアルバムは、素晴らしい3CDセット『Reason to Believe: The Complete Mercury Studio Recordings』で聞くことができる。このコレクションはリマスターされており、発売時点で入手可能だった全アルバムに加えてシングルや未発表音源も収録していた。ここには「Twistin’ The Night Away」のような荒々しい曲もあれば、「You Wear It Well」のような優しくて甘い曲もある。ロッドの楽曲に親しむにはまさにうってつけのボックス・セットだ。

ロッドはコンスタントにアルバムリリースを続け、そのほとんどが全英アルバムチャートTOP10入りを果たしたが、2013年のアルバム『Time』で37年ぶりにUK1位を記録。喜ばしいことに、ここでも彼は絶好調だ。特にジム・クリーガンとの共作曲「Brighton Beach」や、たびたび取り上げているトム・ウェイツの楽曲 (このアルバムの場合、「Picture in a Frame」) は素晴らしい仕上がりになっている。

Rod Stewart – Brighton Beach

現在、ロッドのコンピレーションやアンソロジーはたくさん発売されている。たとえば『The Best of Rod Stewart』、『The Best of Rod Stewart Vol.2』、『The Very Best of……』、『Gold』、『Angel – The Love Songs』、『The Seventies Collection』、パンチの効いた『Classic』、ブックレット形式の『You Wear It Well』、そして極上の『The Very Best Of Rod Stewart』といった具合だ。

そんな中で筆者個人がとりわけ気に入っているのは『Rarities』である。なぜならここには、フェイセズで録音した「Maggie May」や「Country Comfort」の別ヴァージョンやBBCセッションの音源、入手困難なシングルB面曲、さらにはキャリア後半のスタンダードやカントリー・ミュージック路線の先駆けとなるような音源が収録されているからだ。もちろん、それらすべてに彼ならではのひねりが加わっている。

このように選択肢は豊富にあるので、誰もが自分の好みや懐事情に合わせて選ぶことができるだろう。全音源をコンプリートすることもできるし、ロッド・スチュワートを一躍有名にした楽曲のいくつかを試しに聞くこともできる。最近のロッドは英国の国宝的な存在と言っていい。とはいえ私たちは、スーパースターへの長い旅路を歩み始めた駆け出し時代の彼の曲を聴くのが大好きだ。これを懐古趣味と呼びたければ、どうぞご自由に。さあ、また歌ってくれ、ロッド。

Rod Stewart – Sailing (Official Video)

Written By Max Bell



 

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