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音楽業界究極のプロデューサー、リック・ルービンの歴史:アメリカン・レコーディングスとその仕事
もしもあなたが、リック・ルービン(Rick Rubin)がこれまでアメリカン・レコーディングスでプロデューサーとして手掛けてリリースしてきた全ての作品を理解し、好きになって愛聴しているとすれば、それはきっとあなたが優れた耳と人並外れて寛容なセンスを持ち、音楽ジャンルの壁に対して一切こだわりを持たない人物であるということだろう。言い換えるなら、あなたとリック・ルービンには多くの共通点があるのだ。
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ラップ・ロックのゴッドファーザー
リック・ルービンが長年にわたって手掛けてきたのと同じくらい広大なジャンルを網羅しているプロデューサーはまず存在しない。彼は80年代に大いなる機知に富んだヒップホップ・プロデューサーとして名を挙げ、サンプリングを使えばロックとラップを結びつけることが出来るという可能性に最も早く気付いた1人だった。
その一方で、彼はRUN-DMCのファンに強力なギター・リックの魅力を教え(リック・ルービンはRUN-DMCによるエアロスミス との「Walk This Way」でを、最も初期の偉大なクロスオーヴァー作品のひとつに仕立てた張本人である)、また、ビースティー・ボーイズの『Licensed to To Ill』を、ラップなんて大嫌いだと思っていた偏狭な若者たちの寝室の定番に送り込んだ。
リック・ルービンがロック・バンドのプロデュースを始めた当初、彼が選んだ2つのバンドはほぼ対局的な存在だった。一つのスレイヤーの『Reign In Blood』はスラッシュ・メタルの頂点であり、もう一方ザ・カルトの『Electric』は誇り高き70年代レトロだった。だが彼のプロダクション哲学はどちらに対してもほぼ同じだった。
プロデューサーは少し引いたところにいて、バンドが 思いの丈を吐き出すのを見守り、ただしヴォーカルの絶叫も荒れ狂うギターも、ひとつ残らず余すところなくテープに落としておくということだけは忘れない、というやり方だ。
アメリカン・レコーディングスの誕生
スレイヤーのアルバム『Reign In Blood』は、リック・ルービンがデフ・ジャムから独り立ちをする決心をした後起ち上げたアメリカン・レコーディングス・レーベルにとって、記念すべき最初のリリースである。
当時のリック・ルービンは物議を醸すことに夢中だった。アメリカン・レコーディングスの初期のリリースの中には、アンドリュー・ダイス・クレイ(彼の喜劇的なスタイルは、良くも悪くも当時より現代のメインストリームに適応している)や、当時ラップの力で描き出せる最も強烈なストリートのイメージを提供していたゲットー・ボーイズなどがいた。
しかしながら、レーベルで最初にブレイクを果たしたグループ、ザ・ブラック・クロウズについては、それとはまた別の目論見が進行しつつあった。ここに至ってレーベル側の野望と、バンド側のそれとが完全なる一致を見たのである。ザ・ブラック・クロウズは単なる先祖返りのサザン・ロック・バンド止まりで満足する気はなかった、彼らは純粋にアメリカ屈指の偉大なロックン・ロール・バンドになりたかったのだ。
そして1990年リリースの 『Shake Your Money Maker』を皮切りに、アメリカン・レコーディング在籍時の4枚余りのアルバムで、彼らはまさしくその願いを叶えた。面白いことに、リック・ルービンは彼らのプロデューサーを務めたことは一度もない。最初の2枚のアルバムは、彼の弟子、ジョージ・ドラクリアスによるもので、余分なものをすべて削ぎ落とし、バンドとリスナーとの間を隔てる空間を限りなく排除するというリック・ルービン式のやり方を見事に踏襲している。
ジョニー・キャッシュとの出会い
勿論、ジョニー・キャッシュに出逢ってから、リック・ルービンのキャリアは劇的に変化した。だがそのずっと前に、リック・ルービンのカタログの中では(そこから4枚ものヒット・シングルが生まれたにも拘わらず)あまり注目を浴びることはなかったものの、ロック、60年代フォーク・ロック、サイケデリア、スラッシュ、アリーナ・ロックにヒップホップというそれぞれの基盤を包括し、彼が観ている音楽世界を明確に示した作品が存在するのだ。 それは1987年にデフ・ジャムからリリースされた、映画『レス・ザン・ゼロ』のサウンドトラックである。
アルバムに収録されているのは全曲カヴァーで、オリジナルはそれぞれ違う時代に属しており、様々な世界が交錯している。ザ・バングルズによるサイモン&ガーファンクルのカバー「Hazy Shade Of Winter」が大ヒットした一方、エアロスミスによるヒューイ・”ピアノ”・スミスの50年代の楽曲「Rockin’ Pneumonia And The Boogie Woogie Flu」はさして話題にもならなかったが、どちらも2つのバンドが80年代にリリースしたトラックの中で、最も尖ったサウンドに仕上がっていた。
彼はスレイヤーにはアイアン・バタフライの「In-a-Gadda-Da-Vida」をカヴァーさせたが、何をおいても際立っていたのは、ロイ・オービソンにダンジグの 「Life Fades Away」を当てるというチョイスである。音楽界のレジェンドが、明らかにキャラとミスマッチな現代の曲をカバーする?いかにもそそられるではないか。
ジョニー・キャッシュと一緒に仕事をすることになったリック・ルービンが、1994年の『American Recordings』――レーベルの名前をアルバムにそのまま冠するまたとない機会――で採用した戦術には、そうした手法も含まれていた。ジョニーの歌とギターだけをフィーチュアした本作は、80年代の彼の作品の質を落とすことに繋がっていたヘヴィなプロダクションや出来のよくない曲を容赦なく剥ぎ取って、ジョニー・キャッシュという人物の本来の姿を人々に思い出させるアルバムとなった。
両者が組んだこの第一作で、リスナーが思わず眉を上げたであろうオープニング曲は、荒涼たる殺人者のバラード「Delia’s Gone」だが、実はキャッシュはこの曲を60年代に既に一度レコーディングしているのだ(そして驚くなかれ、あのパット・ブーンも)。
リック・ルービンはジョニー・キャッシュが本質的にはスレイヤーやゲットー・ボーイズと変わらないアウトローであることを既に熟知しており、 必要なのはそれを明確にする、余計な飾りを取り去ったアルバムであることも分かっていた。
それから足掛け9年以上、ジョニー・キャッシュとリック・ルービンは驚くほど幅広いマテリアルをレコーディングし、彼らのコラボレーションはジョニー・キャッシュの人生最後の時間における人間的な葛藤と音楽的な大勝利の物語を網羅するまでになった。
ベテランミュージシャンとの仕事
リック・ルービンはジョニー・キャッシュとの仕事で実践した哲学を他のプロジェクトにも応用し、自らの敬愛する音楽界のベテラン大物アーティストたちを見つけてきては、彼らの本質をむき出しにした。
その中でひとつ、その定義に当てはまるかが微妙なために見過ごされてしまいがちなのがドノヴァンの『Sutras』だ。残念ながらこのスコットランド人ポピュラー歌手のかつての商業的成功を再興するには至らなかったが、初期のドノヴァンのアルバムを宝物のように愛聴し続けている人々にとって、これは待ちに待った天からの贈り物となった。
これまでのところ、彼のこの種の仕事の中でより成功したと言えるのは、ニール・ダイヤモンドとトム・ペティとの仕事だろう。
後者では、リック・ルービンの簡潔なプロダクションが、トム・ペティの近年のジェフ・リンとのスタジオ技術を駆使した仕事の仕方には解毒剤的に作用した印象があった。だがトム・ペティはその後この2つの世界を結び付け、ジェフ・リンとレコーディングした『Highway Companion』をアメリカン・レコーディングからレコーディングするという離れ業を演じてみせた。
アメリカン・レコーディングスの埋もれた宝の中には、アメリカ産でないものも含まれている。レーベルがリリースした中でも断トツに採算度外視のアルバムは、英国のエキセントリックな2組のアーティスト、ジュリアン・コープ『Autogeddon』 とラヴ・アンド・ロケッツ『Hot Trip To Heaven』の作品だった。
音楽界屈指のアウトサイダー・アーティスト、ウェスリー・ウィリスとの仕事も、レーベルとしては殆どヒットが狙えるようなものではない。彼らは他にもサンフランシスコ出身の愉快なネオ・サイケ・バンド、ザ・マザー・ヒップスのアルバムも数枚出している。
現在、アメリカン・レコーディングスのラインアップはアメリカーナで固められている。リック・ルービンは専売特許である仕立て直しをZZトップに施し、彼らが何十年も前から約束していた原点回帰のアルバム『La Futura』を具現化させた。
そして目下、現在のシーンで最も称賛されているアメリカーナ・アーティストの2組、バンド・オブ・ホーセズとジ・エイヴェット・ブラザーズと契約を交わし、ルービンは後者のプロデュースも手掛けている。リック・ルービンは間違いなく預言者だが、同時に考えようによっては彼はアメリカーナ・ミュージックの保安官とも言えるかも知れない。皆を生き返らせるのは彼の手腕にかかっているのである。
Written By Brett Milano
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