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ベック、東京で初のアコースティック・ソロ・ライブの見どころと期待するもの
2024年4月6日に東京・EXシアター六本木にてベック(BECK)の来日公演が行われる(詳細)。
単独公演としては2017年10月以来、フェスを含めると2018年のSummer Sonicヘッドライナー以来となる今回の来日公演は、日本では初となるベックのアコースティック・ソロ・ライブとなり、16時オープン、19時オープンの1日2回公演となっている。
この貴重なライブへの見どころと期待するものについて、音楽ライターの粉川しのさんに解説いただきました。
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6年振りの来日公演
実に6年ぶりとなるベックの来日公演がいよいよ目前に迫ってきた。今回は貴重なアコースティック・セットを提げての来日だ。ベックにとっての「アコースティック」とは、彼の音楽の限りなくコアにしてピュアな部分を垣間見せるものであって、それをキャパ2,000人に満たない小規模な会場で目撃できるパフォーマンスが、これまでとは一味も二味も違うスペシャルな体験となるだろうことは言うまでもない。
今回のEX THEATER ROPPONGIでの1日2回公演は、ベックが2022年後半から2023年前半にかけてアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアで散発的に行なってきたアコースティック・ライヴに準じたものになると予想される。ベックによるギターとピアノ、ブルーハープでのソロ弾き語りをベースに、日によってはゲスト・プレイヤーが参加する場合もあったようだ。
各国共に会場はEX THEATER ROPPONGIと同様の規模感で、ファンが撮影した映像などを観ると、親密で和やかなムードと同時に、ベックの声の近さに、そして冴え冴えとした美しさを伴ってポロッと零れ落ちる高純度のリリシズムに、圧倒される一夜であったことが伝わってくる。
通常ツアーとの違い
通常のツアーとの差はセットリストにも明らかで、セットの中核を成すのは『Sea Change』や『Morning Phase』のナンバーで、そこにニール・ヤングの「Old Man」や、ダニエル・ジョンストンの「True Love Will Find You in the End」のカバーも数曲差し込まれるというレアな内容となっている。
ベックにとって『Odelay』や『Midnite Vultures』に代表されるファンキーなミクスチャーサウンドが「表」の顔だとしたら、『Sea Change』や『Morning Phase』に代表されるフォークやカントリーのピュアイズムは「裏」の顔だ。デビュー・アルバムの『One Foot in the Grave』が当時のトレンドとしてのローファイの皮を被ったフォークだったように、そもそも彼の原点は裏の顔のほうにあると言ってもいいだろう。
ベックの代名詞である変幻自在のクロスオーバーがギミックに終わらず、普遍的な価値を持ち得たのも、その根底にアコギ一本で芯を食う歌と詩情があるからなのだ。ちなみに、『Morning Phase』は『Odelay』ですら手が届かなかったグラミー賞の最優秀アルバム賞も受賞するなど、彼の裏の顔は常に高い評価を受けている。
今アコースティックをやる理由
ベックが今、再びのアコースティック・モードに入った直接の理由は、昨年、一昨年にリリースされた2曲のシングルにあるだろう。1曲は前述したニール・ヤングの「Old Man」のカバーで、もう1曲はオリジナルの新曲「Thinking About You」だ。「Thinking About You」はまさに『Sea Change』、『Morning Phase』路線のフォーキーな佳曲で、今回の来日公演でもテーマの中心を担うだろうナンバーだ。
現時点での最新アルバム『Hyperspace』が、コズミックかつサイケデリックなポップ・アルバムだったことを思えば大きな方向転換であり、『Midnite Vultures』の次のアルバムが『Sea Change』で驚かされたように、ベックは意識的にそうやって変化してきたアーティストでもある。
『Hyperspace』から既に5年が経っていることを思えば、そろそろニュー・アルバムの便りがあってもいい頃だし、となると「Thinking About You」が来る新作の方向性を示すシングルなのだろうか? ここで一つ思い出すのは、ベックが2013年にもリリース前の『Morning Phase』のお披露目を兼ねた小規模なアコースティック・ライヴを複数行なっていたことだ。それは結果的に彼のフォーク回帰の導火線となったわけで、今回のアコースティック・セットも同様に、重要な意味を持つことになる可能性がある。
なお、ベックの最新シングルはフェニックスとコラボした「Summer Odyssey」で、彼らは昨年夏からは“Summer Odyssey”と題したジョイント・ツアーも行なっている。「Summer Odyssey」は「Thinking About You」とは対照的に思いっきりハイパーなシンセポップ曲で、ジョイント・ツアーも「Devil’s Haircut」で幕を開けて「Where It’s At」で幕を閉じるという、これまたアコースティック・セットとは真逆のパーティ・セットを繰り広げているようだ。
相変わらず両極を行き来しているベックだが、いずれにしても、今回のアコースティック・セットが彼の本質を鳴らす場となるのは間違いないだろう。
Written By 粉川しの
ベック来日公演予習プレイリスト
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ベック「Thinking About You」
2023年2月10日
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