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『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』レビュー:時代を変えた掟破りのコンサートフィルム

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Taylor Swift - Photo: Hector Vivas/TAS23/Getty Images for TAS Rights Management

2024年2月に東京ドームでの来日公演が決定しているテイラー・スウィフト(Taylor Swift)。

そんな彼女が今年3月17日からスタートしたツアー「The Eras Tour」についてのコンサートフィルム『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』が、全米と同じく日本でも10月13日から公開となった(11月5日までの限定上映)。

アメリカでは公開3日間で9,280万ドル(約139億円)を稼ぎ興行収入1位を獲得するだけではなく、コンサート映画のジャンルで史上最高のオープニング成績を獲得した。この作品について、テイラー・スウィフトの過去の国内盤CDでライナーノーツを担当してきたライターの服部のり子さんのレビューを掲載。

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半端ない没入感と臨場感の100%コンサートフィルム

テイラー・スウィフトの『The Eras Tour』が3月17日にスタートした。パンデミックを経て約5年ぶりとなる全米ツアーは、始まる前からチケットマスターがアクセス不能となり、それが議会で取り上げられるなど、社会現象化していた。そして、初日は7万人を超える観客を集めて、女性アーティストとしての記録を塗り替えた。その全米ツアーの最終地、ロサンゼルスでのコンサートが観られる映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』が日本でも公開となった。

まず先にお伝えしたいのは、この映画はドキュメンタリーではない。本人のインタビューも、バックステージの映像も、演出家の証言もない、100%コンサートフィルム。でも、ツアーは11月の南米を皮切りに再開されて、2024年には日本、オーストラリア、シンガポール、ヨーロッパへと続き、最終地は再びの全米だ。そのライヴ映像をなぜ早くも公開してしまう? その意図はどこにある? そんな疑問を持って映画館に足を運んだのだが、その全てが吹っ飛んだ。オープニングから半端ない没入感があって、映像の臨場感も、コンサートのスケール感もとんでもないものを観ているという高揚感に襲われる。

そして、あの興奮の会場にいても目に出来なかったことを映画が見せてくれる。その一例がアリーナに長く張り出したスラストステージの床面に映し出される映像。スタンド席からは見えるだろうけれど、アリーナの観客は、おそらく映画を見て、初めてこうなっていたのかと思うはずだ。そのなかには息をのむ一瞬もある。このあたりは観てのお楽しみだけれど、この映画に限ってはネタバレの心配はないというか、そんなものを超越した世界が待ち構えている。

 

全ての“時代”が対象のコンサート

テイラーのこれまでのツアーは、最新アルバムがそのままタイトルになっていた。でも、前回の『reputation』でのツアー以降、『Lover』『folklore』『evermore』『Midnights』と4枚のアルバムを発表していることもあって、考え出されたのが全ての「Era」、直訳すると「時代」となるけれど、それは彼女にとって「作品」を意味するわけで、全アルバムを対象とするコンサートをやろう、という発想になったようだ。これまでの音楽業界の常識ではこういう場合は、オールタイム・ヒットという編成で、ヒット曲、代表曲を次々に演奏することになる。

でも、テイラーは違った。『Lover』から始まり、作品ごとに衣装もステージセットも演出も全て変えて、その時代のテイラーを表現するのだ。それも彼女のキャリアを紐解くのが目的ではないので、時間軸で並べることなく、『Lover』時代のあとは、『Fearless』時代になるなど、観てみないと、次にどの時代になるのかわからない。

そのなかでダンサー、バックヴォーカル、バンドを交えてメインステージからスラストステージまで動き回ってパフォーマンスする。ご存じだと思うが、テイラーは、有名振付師のもとでキレキレのダンスをするタイプではない。ダンサーの中にはポッチャリ系もいて、多様性を尊重した布陣になっているけれど、それを強調する演出はなく、ただただみんなが笑顔でとても楽しそうなのだ。

映画では衣装チェンジの時間をカットしているので、目まぐるしくステージが変化していく。そのなかであらためて強く感じるのが17年にも及ぶキャリアのなかで、テイラーが一度も音楽界のトレンドに迎合したことがないこと。その時どきに歌いたい歌を書き、着たい衣装を選び、インスピレーションを自分の世界として具現化してきたことだ。

ファンであれば、全作品が好きだと思うけれど、観客はとりわけ贔屓の「時代」を選び、その衣装を着て会場に行っているという。その現象を受けて、あるラジオ番組の企画で「あなたならどの時代の衣装を着ていくか」と聞かれて、私は初来日公演でも着ていたフリンジのミニワンピがいいと答えたが、そのライヴ中盤にフリンジのミニワンピを着たテイラーが頭を振り回して髪をなびかせ、その場でクルクルと回転した。今では考えられないことだけれど、ZEPP TOKYOでの初来日公演で、アコギを抱えながら何度もクルクルするテイラーを不思議に見た感覚が映画館でも鮮明に蘇ってきた。それは感動的だった。

規模の大小を問わずコンサートで多いのは、中盤にアコースティックコーナーを挟み、緩急を組み合わせる構成だ。その方がセットチェンジも簡単だし、アーティストの負担も少ない。テイラーも今まではそうだったが、今回はその常識を覆すもの。映画の上映時間は、2時間49分だけれど、それは衣装チェンジの時間をカットし、一部曲数を減らしたからで、コンサートは3時間超え。それをツアーでやっているのだから、並外れた体力とモチベーションに驚かざるを得ない。

しかも細部に至るまで全てが完璧。そこに気圧された後、エンディングロールでNGシーンが流れて、こんな失敗もあったかとホッとするも、それを見せるところがまたすごいと感嘆してしまった。このあたりがプロデューサーとしても天才と言われる所以だろう。時代を変えるコンサートであり、掟破りの映画公開である。

Written By 服部のり子


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