Classical Features
宇宙にインスパイアされた最高のクラシック音楽
今回は、宇宙にまつわるクラシック音楽の世界を探索しよう。
1969年の初の月面着陸は、人類にとっては大きな飛躍だったかもしれないが、作曲家たちにとってはそうではなかった。彼らは、ニール・アームストロングがその不滅の言葉を口にする何世紀も前に、すでに月への第一歩を踏み出していた。作曲家たちには勿論、宇宙船という恩恵は与えられなかったが、彼らには想像力と球体の音楽を伝える音の力の恵みがあった──そしてこれは、ミスター・ホルスト、貴方と貴方が作曲したお馴染みの楽曲、≪惑星≫のことだけではないのだ。
下にスクロールして、ヴァンゲリスの≪ロゼッタ≫、ヘンデルの≪セメレ≫、ハイドンの≪月の世界≫など、過去300年を遡って、お馴染みの作品以外の宇宙にまつわるクラシック音楽の世界も探索してみよう。
ヴァンゲリスの≪ロゼッタ≫をApple MusicとSpotifyで試聴し、下にスクロールして私たちのオススメの宇宙にまつわるクラシック音楽を探索しよう。
ヴァンゲリス:≪ロゼッタ≫
ギリシャの作曲家ヴァンゲリスは、常に宇宙旅行に魅せられていた。彼の2016年のアルバム≪ロゼッタ≫は、ESA(欧州宇宙機関)の史上初の、彗星に探査機を送って着陸させるというミッションに触発されて制作したものだ。トレードマークである、スローなシンセによる幻覚体験のようなスタイルによるヴァンゲリスの≪ロゼッタ≫の音楽は、宇宙空間を浮遊するような幻覚的な感覚を創り出す。その音楽は、ESAの歴史的なミッションを実現させたすべての人に捧げられている。
ヴァンゲリスは、「神話、科学、そして宇宙探査は、幼い頃からずっと私を魅了してきたもの。そして、なぜかいつも私が書く音楽と繋がっていたものでした」と語っている。
ヴァンゲリス ― ヴァンゲリス:ロゼッタ・タイムライン(ロゼッタ)
マルカントワーヌ・シャルパンティエ:
「Tristes Déserts (寂しい荒野よ)」
シャルパンティエの物憂げな17世紀の小さな歌曲「Tristes Déserts (寂しい荒野よ)」(“憂鬱な砂漠”や“悲しみの平野”という意味もある)は、実際には宇宙旅行について歌われているのではなく、裏切られた恋人が傷心を嘆く曲なのだが、その果てしない悲しみの宇宙の表現方法に刺激を受けた、スイス出身の並外れたテノール、アウグスト・シュラムが、監督のステファニー・ウィンターと、クラシカル=シンセの衣装をてがけるオーストリアン・アパレルの力を借りて、宇宙探査をするロボットの、おかしくて美しい動画を制作した。
「Tristes Déserts (寂しい荒野よ)」―あるロボットの物語 アウグスト・シュラム・フィーチャリング・オーストリアン・アパレル
この動画のビジュアルは、すでに音楽に内在する奇妙な狂気の性質を見抜き、最も予想外な方法でそれに光を当てている。シュラムの狂乱のアプローチが好みであれば、ぜひ彼の、他の恐るべき動画もチェックしてほしい。その愉快でフェティッシュなビゼー:≪カルメン≫の「ハバネラ」を観るときには、顎がはずれないようにご注意を。
「フィフティ・シェイズ・オブ・カルメン(カルメンの50通りもの色調、人格の意味)」はいかが?
MeTube:アウグスト、ビゼー:≪カルメン≫「ハバネラ」を歌う
ヘンデル:≪セメレ≫
~「だが、聞け、天の球は回り続ける…さあ、不滅の合唱隊を整えよ」
ヘンデル作曲の≪セメレ≫のヒロインは、ユピテルに地球から喜んでさらわれ、愛人として天国に住むことになった。最初は幸せだったが、すぐにその他大勢の神々の中で、自分だけが単なる人間として存在することに、大いに不満を募らせる。ユピテルは、セメレの心配事から気をまぎらわせるため、彼女の妹のイノが訪ねてくるよう手配する。イノが到着すると、彼女はその宇宙の旅で経験した壮大なる自然について、「静寂は、今や溺れてしまった / 恍惚とした音の中で」と説明し、姉妹は情熱的な二重唱を歌う。クラシックの宇宙系の音楽で、これほどとろけるような美しさを響かせる曲はない。
ヘンデル:≪セメレ≫ HWV 58 第2幕~「だが、聞け、天の球は回り続ける」
ハイドン:≪月の世界≫序曲
ハイドンのオペラは、筋書の進行がゆっくりすぎる傾向があり、心理学的にいえば、登場人物たちもモーツァルトの主人公たちのように活気のあるアリアを歌うわけでもなく、際立つキャラクターがいないためか、近年上演されることが少なくなっている。
だがハイドンのオペラの音楽は常に豪華で、いくつかの素晴らしい瞬間を備えている。≪月の世界≫は、ボナフェーデという尊大で退屈な豪商が騙されて、月に連れていかれたと信じてしまうという物語だ。第2幕のすべてが月の世界での出来事とされるが、実際には偽装されたボナフェーデの庭での出来事だった。序曲は楽しげで古典的な宇宙的な作品で、ハイドンは自身の≪交響曲第63番≫の第一楽章にこの序曲を転用した。
ハイドン:≪月の世界≫ Hob.XXVIII:7 序曲・アレグロ
ワーグナー:≪パルジファル≫~場面転換の音楽
ワーグナーは作曲家の中でも最も哲学的であり、現在「時空連続体」と呼ばれているものの性質に魅了されていた。最後のオペラ≪パルジファル≫では、超越的で神秘的な美しいパッセージで、その魅力を音楽で表現している。老賢者のグルネマンツが純粋で愚か者であるパルジファルを、聖杯が開帳されるのを見に連れていき、「ここは時間が空間となる領域だ」と説く瞬間にこの一節が現れる。パルジファルはグルネマンツに、自分たちは歩いているのに、ほとんど動いていなように見えると言う。
ワーグナーは、この逆説的な動きと静止の融合(「時間と空間」の)を、ゆっくりとした鐘の音のような和音と儀式的な力を持つ音楽で捉えている。これは、最も恍惚とした意味における宇宙旅行なのだ。
ワーグナー:≪パルジファル≫ WWV111 / 第1幕 場面転換の音楽
ベンジャミン・ブリテン:≪ピーター・グライムズ≫
~「今、大熊座とプレアデス星団が」
有史以来、私たちは天を見上げ、自分たちの月下での生活についての洞察を得てきた。私たちは占星図を作る。雲の中に神の姿を想像する。運命が過酷だと感じれば、空に向かって拳を振るう。ブリテンは、この憧れと困惑の間の奇妙な感覚を、オペラ≪ピーター・グライムズ≫の美しいアリアで表現した。それは嵐の後にピーター・グライムズの隣人たちが、慰めを求めて居酒屋に集まった時に起こる。彼らは嵐だけではなく、ピーターが殺人犯の可能性があるのではないかと心配し、恐れているのだ。嵐が最高潮に達したとき、居酒屋の扉が音を立てて開く。そこへピーターが現れ、星が人間の人生に与える影響についての痛烈なアリアを歌う。「今、大熊座とプレアデス星団は地球が動くところに/人間の悲しみの雲を引き寄せる」
オリヴィエ・メシアン:≪峡谷から星たちへ…≫
~「恒星の呼び声」
メシアンの≪渓谷から星たちへ…≫は、アメリカ合衆国の独立宣言200周年を記念して作曲され、ユタ州の野生の風景に対するメシアンの印象が反映されている。それだけでなく、この曲には彼の宗教への信仰心や宇宙の神秘への好奇心も反映されているのだ。第6楽章「恒星の呼び声」は、無調のホルン独奏曲となっており、楽器の限界に挑戦している。音波が宇宙空間を疾走するような概念や、銀河系の他の生命体との音の交信の可能性を想起させる。
メシアン:≪渓谷から星たちへ…≫
Written By Warwick Thompson