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クリーム解散コンサート
1968年の段階で、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールは既にザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ボブ・ディランらのコンサート会場として使われていた。それでも世間一般の人は、ここはイギリスのクラシック音楽の殿堂だと考えていた。そんなロイヤル・アルバート・ホールで、1968年11月26日に強烈なロック・コンサートが開かれることになった。それは、ここで過去に行われたどのロック・コンサートよりもはるかに重要な意味を持つコンサートだった。その日は、ロック・トリオ、クリームの最後ライブで、これでクリームは正式に解散することになっていたのだ。
それまでの2年間で、このバンドはとてつもなく派手な活動を繰り広げてきた。アメリカを制覇し、メンバー同士で仲たがいしつつも、ブルースをベースとしたロック・トリオの可能性を飛躍的に広げたのである。このあとに登場した同じような編成のグループで、クリームに影響を受けていないグループというのは一組もない。クリームはヘヴィ・メタルのお手本ともなった。またクリームはブルースに深く傾倒したグループではあったけれど、メンバーの中に素晴らしい作曲能力の持ち主ジャック・ブルースがいたため、ライバル・バンドに大きく差を付けていた。
クリームはアメリカの19都市をまわる過酷なツアーを終えてから、1968年の11月25日と26日にロイヤル・アルバート・ホールでの二夜連続のステージに臨んだ。オープニング・アクトに選ばれたバンドのひとつ、イエスは当時まだレコード・デビュー前だった(彼らの見事なデビュー・アルバムが発売されるのはまだ8カ月先のこと)。この前座のステージでは、レナード・バーンスタインの『ウエスト・サイド物語』の挿入歌「Something Coming(邦題:何か起こりそう)」のカヴァーがハイライトだった。またもうひとつの前座バンド、ロリー・ギャラガー率いるテイストはクリームと同じくトリオ編成で、やはりブルースにどっぷり浸かったグループだった。
このコンサートでクリームが演奏した演目には、ブルースの名曲がいくつか並んでいた。たとえばスキップ・ジェイムスの「I’m So Glad」、ミシシッピ・シークスの「Sitting on Top of the World」、ロバート・ジョンソンの「Cross Roads」、メンフィス・スリムの「Steppin’ Out」、ハウリン・ウルフの「Spoonful」といった具合だ。またバンドのオリジナル曲は、「White Room」、「Politician(邦題:政治家)」、「Toad(邦題:いやな奴)」、ジンジャー・ベイカーの長大なドラム・ソロ、そして「Sunshine of Your Love」という選曲になっていた。「Sunshine of Your Love」は、クリームがアメリカで大成功するきっかけになった曲でもあった。
この解散コンサートの模様はトニー・パーマーによって撮影され、翌年には興味深いドキュメンタリー作品としてまとめられた。これはBBCで放映され、絶賛されている。また、このコンサートはもともと2枚組ライヴ・アルバムとして発売される計画だったが、最終的にその計画は白紙になった。その代わりとして1969年2月に発表されたアルバム『Goodbye(邦題:グッバイ・クリーム)』には、数曲のライヴ音源と1968年10月にロンドンのIBCスタジオで録音された3曲の新曲が収められた。そのライヴ音源は、1968年10月のLAフォーラム公演の音源が採用されている。
避けられないことだったかもしれないが、この解散コンサートはクリームのベストの演奏ではなかった。とはいえ、このバンドの歴史の中でも、またロック界全体においても、重要なコンサートだったことは否定できない。ひとつのバンドがたった2年ほどのあいだにこれほどの大成功を収めて、しかも解散してしまうなんて信じられるだろうか? しかもクリームは、グループの離合集散の新たなパターンも作り出そうとしていた。つまり70年代に一世を風靡するスーパーグループである。1969年初め、クリーム解散後のエリック・クラプトンとジンジャー・ベイカーは、スティーヴ・ウィンウッドやリック・グレッチと組んでブラインド・フェイスを結成。これはスーパーグループ・ブームの先駆けとなった。
Written by Richard Havers
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クリーム『Goodbye』