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エアロスミスによる『アルマゲドン』主題歌:バンド初の全米1位になった曲の当時の反応を振り返る

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2023年3月17日(金)に日本テレビ系『金曜ロードショー』にて約10年ぶりに地上波テレビ放送される映画『アルマゲドン』。公開当時には、日本や世界の年間興行売り上げ1位を記録した大ヒット映画の主題歌で、エアロスミスが担当した「I Don’t Want to Miss a Thing(ミス・ア・シング)」について、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿頂きました。

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バンド初であり唯一の全米1位

エアロスミスの「I Don’t Want to Miss a Thing」といえば、1998年公開のアメリカ映画『アルマゲドン』の主題歌として広く浸透しているし、このバンドについて思い入れや知識をあまり持たない人たちの間でもよく知られているはずだ。

ただ、同映画のサウンドトラック盤は1998年の夏に発売されているものの、当初はこの曲がシングルとして公式リリースされる予定がなかったというのだから驚かずにはいられない。米国でのラジオ・オンエアが解禁になるや否や大反響となり、それに後押しされる形で広く世に放たれたこのシングルは、すぐさま全米シングル・チャート初登場1位という快挙を成し遂げている。

エアロスミスにとって同チャートでの首位獲得は、その時点でデビューから四半世紀を超えていた彼らの歴史において初のことであり、現時点においてはこれが彼らにとって唯一のNo.1シングルということになる。もしもこのシングルが当初の予定通りあくまでラジオ・プロモーション用のアイテムとしての配布のみにとどまっていたならば、エアロスミスは全米シングル・チャートにおいていまだ無冠のままだったかもしれないのだ。

Aerosmith – I Don't Want to Miss a Thing (Official HD Video)

 

当時のファンの反応

ただ、この曲の大ヒットが当時、エアロスミスのファン全般に好意的に受け入れられていたかといえば、そうとも言い切れないところがある。もちろん一聴しただけで印象に残る親しみやすい曲であることは誰にも否定のしようがないわけだが、古くからの支持層からは「エアロスミスにだけはそれをやって欲しくなかった」といった声も少なからず聞こえてきたものだ。

“それ”というのは要するに、外部ソングライターの手による話題性を伴ったバラードでヒットを放つこと。この曲は、当時すでにヒットメーカーとして名を馳せていたダイアン・ウォーレンの手によるもので、メンバーはその作詞・作曲に一切関わっていない。もちろんバンドの存在なしにあのアレンジにはなり得なかったはずだが、「べつにエアロスミスがこれをやらなくてもいいんじゃないの?」「セリーヌ・ディオンあたりが歌っていても良さそうな曲だよね?」といったやや否定的な声がファンの間からですら上がっていたことも間違いない。

そこで面白いのは、ウォーレン女史自身もこの曲をエアロスミス用に書いたわけではなく、すでに楽曲提供歴のあったセリーヌ・ディオンあたりが歌うことを想定していたらしいという話だ。しかも彼女には、それ以前からエアロスミスとの共作に臨みながら結果的に採用されぬまま終わっていたという過去があったのだという。そんな彼女の手によるバラードをエアロスミスが演奏することになった具体的な経緯については想像するしかないところがあるが、この映画のサウンドトラック盤にはかのジョン・カロドナーの名前がクレジットされているだけに、彼が動いたのではないかということが容易に推察できる。

 

ジョン・カロドナー=ジョン・カロドナー

カロドナーはいわゆるレコード会社のA&R担当としてキャリアを築きながら、その肩書や所属会社の枠に縛られない活動をしてきた人物で、当時はエアロスミスの発売元である米コロンビアに籍を置いていたが、80年代にエアロスミスがゲフィンに所属していた際には同社にいた。『Permanent Vacation』(1987年)からシングル・カットされた「Dude (Looks Like A Lady)」のビデオ・クリップに花嫁姿で登場する髭もじゃの男性が彼であり、その特徴的な容貌は他にもいくつかの楽曲のビデオや『Pump』(1989年)の制作過程を追ったドキュメンタリー映像の中にも見つけることができる。

彼の名前が作品上にクレジットされる際には、プロデューサーやスーパーヴァイザーといった肩書を伴わず、「ジョン・カロドナー=ジョン・カロドナー」と表記されることが常だが、それが意味するのは「ジョン・カロドナーはジョン・カロドナーの仕事をした」ということであり、彼の関与のあり方が定型的なものではないことを示唆している。

ラジオ・プロモーションを有効に展開しながらヒット曲を生むことに長けている彼は、その手腕を買われて起用されることが多く、アーティストと専業作曲家を引き合わせたり、楽曲の細かい部分に口を出したりすることもある。エアロスミス以外に彼が関わってきた人たちのリストを作ろうとするならば、フォリナー、ジャーニー、エイジアからボン・ジョヴィ、ホワイトスネイク、ホワイト・ゾンビに至るまでの名前が並ぶことになる。

 

エアロスミスのバラードヒット「Angel」

そうしたヒット請負人の存在がこのサウンドトラック盤の背景にもちらつくわけだが、古くからのファンの中から「I Don’t Want to Miss a Thing」について少なからず否定的な声が上がったのは、エアロスミスに対して「時流に沿った戦略的なマーケティングに則った作品づくりをするようなバンドであって欲しくない」という想いを抱く人が少なくなかったからだと思われる。

実際、エアロスミスは最初からシングル・ヒット狙いのバンドではなかった。70年代には「Dream On」と「Walk This Way」という2曲のトップ10ヒットが生まれているが、いずれも長い時間をかけながら支持を広げていった楽曲だ。ことに前者は1973年の発売当時は全米59位という結果に終わっていながら、バンドの認知度向上とともに再浮上し、1976年に最高6位に到達するという劇的展開を経ている。

Aerosmith – Dream On (Live At Capitol Center, Largo, MD / November 9, 1978)

70年代終盤以降のエアロスミスはジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードの相次ぐ脱退やドラッグにまつわる問題なども抱えながら低迷期へと落ち込んでいくが、両ギタリストの復帰を経て、それこそジョン・カロドナーをはじめとするブレーンの力も借りながら、80年代半ばから新たなサクセス・ストーリーを歩み始めることになる。

そうした成功劇を象徴しているのが『Permanent Vacation』から生まれた「Angel」のヒットだ。このバラードは同作からシングル・カットされ、全米3位を記録する大ヒットとなった。その数字はやはり同作から生まれた「Dude (Looks Like a Lady)」(全米14位)はおろか70年代の「Dream On」や「Walk This Way」を超えるものであり、その時点で「エアロスミス最大のヒット曲」という称号は「Angel」へと移ることになったのだった。

Aerosmith – Angel (Official Music Video)

実はその当時にも「I Don’t Want to Miss a Thing」がヒットした際と同じような声が聞かれたものだ。というのも、この曲はスティーヴン・タイラーとデズモンド・チャイルドの共作によるもので、ジョー・ペリーやブラッド・ウィットフォードの名前は作曲者としてクレジットされていない。チャイルドといえば、当時はボン・ジョヴィの共作者として世の注目を集めていた人物。彼らの出世作となった『Slippery When Wet』(1986年)からシングル・カットされた「You Give Love a Bad Name」と「Livin’ on a Prayer」は2曲連続で全米No.1となっているが、その双方にチャイルドが関わっている。

もちろん彼自身の楽曲提供や共作歴はその当時になって始まったものではなかったが、いわゆる“時の人”として世の注目を集めていた彼をエアロスミスが起用したことについて「ついにエアロスミスもヒット狙いをするようになったか」といった皮肉交じりの声が出てくるのは、ある意味、無理のないことでもあった。

しかも「Angel」はバラードである。おりしも時代は、ロック・バンドがコマーシャルな成功を収めるうえで、いわゆるパワー・バラードが不可欠だというのが定説になりつつあった頃。「反骨精神溢れるロック・バンドであるはずのエアロスミスが、簡単に80年代型のヒット・フォーマットに乗ってしまっていいのか?」という疑問が出てくるのはむしろ自然なことでもある。

加えて、当時のインタビューでスティーヴン・タイラーがこの「Angel」について「誰の書いた曲であれ、良く出来たバラードというものに俺は目がないし、そうした曲を歌えるのはシンガー冥利に尽きる」などと語っているのに対し、作曲に関与していないジョー・ペリーがやや冷めた発言をしていたこと、この曲を彼らがあまりライヴで演奏せずにいたことが、「やはりあの曲をやったのはバンドにとって不本意なことだったのではないか?」という疑念をファンに抱かせた部分も少なからずあったように思う。

 

「I Don’t Want to Miss a Thing」の反応

そうした70年代、80年代を経てきた世代のファンにとって、1998年、映画のサウンドトラックという新たなヒット・フォーマットに則りながら、しかもメンバー自身が作詞・作曲に関わっていない状態で作られた「I Don’t Want to Miss a Thing」の登場が、素直には歓迎しにくいものだったことは想像に難くない。ただ、それでもこの曲が絶大なる支持を集めたのは、楽曲自体があまりにも魅力的だったからだろう。確かにセリーヌ・ディオンが歌っていたとしても大ヒットになっていたに違いない。

ただ、作者のウォーレンはこの曲がまだシンプルなピアノ・バラードの状態にあり、初めてスティーヴン・タイラーがそこに声を乗せた時のことを振り返りながら「曲に生命が宿った瞬間だった」と語っている。乱暴な言い方にはなるが、それがエアロスミス用に書かれたものであろうとなかろうと、彼が歌えばエアロスミス然とした曲として歩み始めることになるのである。

しかも面白いのは、時間経過によってさまざまな“複雑な感情”は解決されるものだということ。それこそ「Angel」についても、ある程度の年数を経てからセットリストに組み込まれる頻度が高まったり、ジョー・ペリーが「ひさしぶりに演奏してみたら新鮮だった」などと発言したりしていた事実がある。正直なところ、「I Don’t Want to Miss a Thing」に取り組むにあたり、彼らの側に迷いや葛藤が一切なかったとは思わない。ただ、その際に彼らがネガティヴな匂いを漂わせるような言葉を発することがなかったのは、彼ら自身が80年代に「Angel」での経験を通じて何かを学んでいたからでもあるだろうし、それ以上に、この楽曲が文句無しに素晴らしかったからでもあるはずだ。

 

世界中での大ヒット

「I Don’t Want To Miss a Thing」は、エアロスミス初の全米No.ヒットになるのみならず、オーストラリア、ドイツ、イタリア、ギリシャ、アイルランド、ノルウェーといった世界各国のシングル・チャートで1位に輝き、イギリスでは首位獲得こそ叶わなかったものの100万枚を超えるセールスを記録している。もちろん、日本での認知度については説明するまでもないはずだ。同時にこの曲はたくさんの賞にも輝いているが、アカデミー賞のベスト・オリジナル・ソング部門、グラミー賞のソング・オブ・ザ・イヤー部門においては残念ながらノミネート止まりで受賞は叶わなかった。蛇足を承知で付け加えておくと、同じ年のグラミー賞でこの曲に競り勝ったのはセリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go on」だった。

この「I Don’t Want To Miss a Thing」はあくまで『アルマゲドン』のサウンドトラック用に録られたものだから、エアロスミスのオリジナル・アルバムには収録されていなくても当然なのだが、実は2001年に発売された『Just Push Play』の最後にこの曲が配置されている。意味合い的にはボーナス・トラックに近い位置付けといえるが、もしもこの名曲を入口としながら改めてエアロスミスの音楽を掘り下げてみたいという読者がいるならば、映画のサウンドトラック盤以上にこのアルバムを僕は薦めたい。

実際、エアロスミスの歴史において重要作とみられることはあまりなかったし、セールス面においても『Get A Grip』(1993年)や『Nine Lives』(1997年)には遠く及ばないが、80年代~90年代の流れを踏まえながら彼らが改めて自らの本質を再確認したのがこのアルバムだと僕自身は解釈している。そして、幾度もの危機を乗り越えながら一度も歴史にピリオドを打つことなく歩み続けてきたエアロスミスという存在を、世紀末の世界に改めて知らしめ、彼らを21世紀へと導いたのがこの名曲ということになるのだろう。

Aerosmith – I Don’t Want To Miss A Thing (Live From Mexico City, 2016)

Written By 増田 勇一



エアロスミス『I Don’t Want to Miss a Thing – EP』
1998年8月18日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



エアロスミス『Just Push Play』
2001年3月6日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

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