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テイラー・スウィフト「Picture To Burn」解説:パワフルな一人の女性としての姿が投影された1曲

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Taylor Swift Photo: Gary Miller/FilmMagic

テイラー・スウィフトは常に世間のトレンドの何歩も先を行くアーティストだ。近年になって大きな広がりをみせている#MeToo運動はその好例だろう。(真っ先に頭に思い浮かぶものから思いも寄らないものまで) あらゆる状況における性被害や、女性の狙われやすさなどについての世論を劇的に変化させた社会運動である。

一方、女性への不当な扱いや社会での男性優位などに関する議論において、以前からテイラーは明確な主張を貫いていた。その一つの証拠が、2008年に彼女がシングルとしてリリースした「Picture To Burn」である。

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Taylor Swift – Picture To Burn

 

痛切なまでの率直さ

過去の恋愛 (噂では当時のクラスメイトとの関係を基にしたといわれている) について歌った同曲の歌詞には、一部の男性による女性への振る舞いに対する彼女のフラストレーションが十二分に表れている。今のテイラーならこうした状況に対して違った反応を示すかもしれないが、彼女の苛立った態度には痛烈なほどの率直さが感じられる。現在でも、同じような状況に置かれうる多くの若い女性がこの想いに共感できることだろう。

カントリー・ロック調に仕上げられた同曲の作曲には、テイラーの初期の曲作りを支えたリズ・ローズも参加。愛車のトラックを運転させてくれない田舎者の彼氏への苛立ちを通して、くだらない男らしさを誇示することの愚かさを以下のように見事に描き出している。

I hate that stupid old pickup truck
You never let me drive
You’re a redneck heartbreak
Who’s really bad at lying
So watch me strike a match
On all my wasted time
As far as I’m concerned you’re
Just another picture to burn
あの古いトラックは大嫌いだった
私に運転させてもくれなかった
あなたは傷つきやすいレッドネック
嘘をつくのも本当に下手クソ
マッチを擦るのをちゃんと見てて
私の無駄だった時間に火をつけるから
あなたっていう存在は
燃やすべき写真の一枚でしかないから

ここでの曲のように、物語の鍵となるシンプルな要素は名曲に付き物だが、それに加え、「Picture To Burn」の特筆すべきポイントを三つ紹介していきたい。

 

エネルギッシュな一人の女性

第一に、この曲には聴く者の感情に訴えかける力がある。「Picture To Burn」はセルフ・タイトルのデビュー・アルバム収録曲として2006年に陽の目を見ていたが、当初は特に注目を集めてはいなかった。しかし、ライヴで演奏されるようになると、同曲はファンの熱狂的な支持を得るようになる。そうした大きな反響を受け、2008年にテイラーがラスカル・フラッツとツアーを行った際にはオープニング・ナンバーに選出。そして、新たなシングル曲を決めることになったときには、この曲が最有力候補の一つとして急浮上したのであった。

第二のポイントは、テイラーが正統派のカントリー歌手としてのイメージから脱却していく兆しが明確にみられたのはこの曲が初めてだった。「Picture To Burn」はカントリー・ナンバーではあるものの、そのサウンドには力強さがあり、ビデオではテイラー自身もより現代風の衣装に身を包んでいる。そうした点からも、同曲は彼女が当初の主戦場であるカントリー界から羽ばたいていく可能性を初めて感じさせた1曲だった。

この曲のビデオには“二人のテイラー”が登場する。一人は、頭は良いがか弱い一面もある10代の少女、もう一人は、気難しそうな未来のポップ・スターである。後者はギターを威勢よく振り回しているが、彼女が楽器を“武器”のように扱い始めたのもこの曲が最初だとすれば、若手カントリー・シンガーの1stアルバム収録曲としては少々向こう見ずな行動だったかもしれない。

いつでも信頼の置けるトレイ・ファンジョイが監督を務めた同ビデオは、2008年2月3日にシングルとしてリリースされた同曲の成功を後押しした。テイラーは花火の使用に慎重だともいわれているが、この曲ではそれが華やかな印象に繋がっており、パフォーマンス・シーンのエネルギーを高める効果を生んでいる。このビデオの助けもあって「Picture To Burn」は全米シングルチャートを着実に上昇していき、最終的にはトップ30圏内に食い込んだ。他方、カントリー・チャートではテイラーのトップ10入り記録をさらに伸ばし、最高で3位をマークしている。

そして「Picture To Burn」の特筆すべき第三のポイントとして、テイラーはのちに彼女のイメージとして定着することになる女性像をこの曲ですでに打ち出している。つまり、一見してどんなにか弱く思えたとしても (それはただの誤解にすぎず) 、決して誰かの言いなりにはならない“ごく普通の女性”の姿である。その目線は世の女性に寄り添ったものだからこそ、リスナーからの共感を呼ぶ。

一方で、中にはマドンナなどのように、戦うために立ち上がることを女性たちに呼びかけるアーティストもいる。確かに“ガール・パワー”は大きな影響力を持った標語だが、大袈裟な言葉で闘争を助長していた面も否めない。それに比べるとテイラーのメッセージは挑発的でこそないが、「Picture To Burn」の歌詞はより現実的で地に足のついた内容になっている。当時のテイラーはパワフルな一人の女性として花開こうとしていたのだ。

 

稀有な才能

現在、「Picture To Burn」は「Tim McGraw」、「Teardrops On My Guitar」や「Our Song」などのヒット曲と並んで、11曲入りのデビュー・アルバム『Taylor Swift』のハイライトの一つとして認識されている。

一般論として、デビュー・アルバムというものは時が経ってから改めて評価するのは難しいことがある。フレッシュで纏まりのある楽曲からアーティストの未完成な才能が感じられるものもあれば、今後大成することを予感させるものもあるのだ。テイラーのデビュー作にはそのどちらの要素もあるが、少なくとも「Picture To Burn」は、彼女が本当に特別な才能を持っていることを示していた。

テイラーは人類全員に特別な才能があると信じている。だがこの曲に登場する元カレのあまりに醜い行動のような出来事によって、そのせっかくの才能は台無しになってしまう。そうした愚行をこの世からなくすのは社会全体の責任なのだ。70年代には、女性たちはブラを焼き払うよう奨励されていた。今世紀を迎えるまでにその呼びかけの意味合いは変わってきたが、それならば写真を焼き払ってはいけない理由がどこにあるというのだろう?彼女のメッセージの裏にある想いは、いまの時代だからこそ心に響くものになっている。

Written By Mark Elliott


テイラー・スウィフト『Taylor Swift』
2006年10月24日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

最新アルバム
テイラー・スウィフト『Midnights』

2022年10月21日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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