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2010年代のベスト・アルバム30:2010~2019年を象徴する名盤たちをランキング
そもそも、10年間というものをどのように振り返ればいいだろう?その最盛期と低迷期を見ればいいだろうか、あるいはどちらでもない平凡な時期を評価するのがいいだろうか?2010年代、音楽は文化そのものの変化を映し出す指標となった。
社会の劇的な変化、テクノロジーへの依存が高まることによる不安感、政治的な混乱や、物理的な隔たりの減少。そうしたすべてが音楽に反映されていたのだ。また、音楽との繋がりが薄らいでいると感じる人も増えてきた中で、クリエイティヴなアーティストたちはそこから挽回する方法を見出していった。2010年代に発表された傑作アルバムの数々は、その時代を定義しただけではなく、音楽に芸術性を取り戻したのである。
既成概念の打破
2010年代は、大きな転換点を迎えるとともに常識が覆された時代だった。ヒップホップがポップ・ミュージックになり、R&Bは新進気鋭のシンガーたちの手で新たに蘇った。ポップには個人的な想いを歌うものが増え、ロックはもはや定まったジャンルではなく、あらゆる好みに合わせて小さな流派に枝分かれしていった。EDMには流行りと廃りの両方が訪れ、ジャンルの新たな担い手たちが現れるとともに以前の人気者たちは再出発することになった。
2010年代の傑作アルバムを全てリストに加えようとすれば、軽く200枚は越えてしまうだろう。そこで我々は、真にこの時代を定義したアルバムを30枚に絞って紹介することにした。先駆者たち、常識を覆した者たち、あるいはポップ・カルチャーの先導者たちによる作品だ。
ここに載っていない2010年代の傑作があったら、是非下のコメント欄を通じお知らせいただきたい。
*このリストと併せて、私たちが作成したプレイリスト”2010s Hits“も是非お楽しみください
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30位 : ティエラ・ワック『Whack World』(2018年)
今ヒップホップ界で最もエキサイティングな新人は誰かと聞かれたら、誰もがティエラ・ワックの名前を挙げるだろう。2010年代には女性ラッパーたち(カーディ・B、ミーガン・ジー・スタリオン、ニッキー・ミナージュなど)の人気が復活したが、ワックは過剰にセクシーさを強調するシーンからは遠ざかり、異端児でいることを選んだ。
そんな彼女が作り上げたのが、きわめてコンパクトなトラックが並ぶこの実験的なデビュー・アルバムだ。各1分間のトラックが15曲という構成は、きわめてパンキッシュであるようにも思えるし、また単に効率的なだけとも取れる。是非あなた自身の耳で確かめ、判断してみてほしい。
– チェックすべきトラック : 「Whack World」
29位 : ケイティ・ペリー『Teenage Dream』(2010年)
『Teenage Dream』に溢れている手放しの楽観性には「私たちはこんな幸せをいつ忘れてしまったんだろう?」と思わせられる。
メジャー・レーベルからの2作目となる本作で、ケイティ・ペリーは世界的なポップ・スターとしての地位を確かなものにした。このアルバムに収録されている「Firework」や「Teenage Dream」、「Last Friday Night (TGIF)」といった真心のこもったアンセムには、若者たちの抱える無力感が巧みに表現されている。時を経ても色あせることのない紛れもない傑作である。
– チェックすべきトラック : 「Firework」
28位 : ロザリア『El Mal Querer』(2018年)
テクノロジーは、ポップ・ミュージックのグローバル化を推し進めただけではなく、今の世代と伝統的な民族音楽の架け橋にもなった。
ロザリアは、セカンド・アルバムに当たるこの『El Mal Querer』で、200年の歴史を誇るフラメンコとトラップR&Bの融合を実現してみせた。これはまさに21世紀の偉大な発明だった。2010年代にリリースされたアルバムにあっても、この『El Mal Querer』ほど華やかさと実験性に溢れたアルバムは数えるほどしかない。
– チェックすべきトラック : 「Malamente (Cap.1 : Augurio)」
27位 : グライムス『Visions』(2012年)
2010年代の音楽を聴く人なら誰でも、グライムスの「Oblivion」のシンセサイザーの音色が流れ始めただけで条件反射のように脳が反応してしまうはずだ。同曲とその収録アルバム『Visions』は、ベッドルーム・ミュージックの実験性が完璧な形で実を結んだ作品だ。燃料かのようにエナジー・ドリンクを飲み、パソコンをひらけばすぐ世界中の音楽を楽しめる ―― そんな新世代による音楽である。
IDMとポップとインダストリアルが見事に共存した本作で、グライムスことクレア・バウチャーは一躍ブレイク。音で作られる無限の層とループによって、リスナーは幻想的で高揚感のある夢のような世界へと誘われる。
– チェックすべきトラック : 「Oblivion」
26位 : ビリー・アイリッシュ『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(2019年)
音楽の流行は”1980年代”もしくは”2010年代”といった10年毎の区切りに合わせて移り変わる訳ではない。音楽の流行り廃りのサイクルは、次の10年に持ち越されることもある。おそらくビリー・アイリッシュは2010年代のポップ界最後の新星だが、そのデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は明らかに次の時代を見据えたものだった。
SoundCloudに特徴的なトラップ・サウンドと本格的なベッドルーム・ポップで世に出たアイリッシュは、若者文化を牽引する最先端のアーティストになった。だが、先人たちとは違って自分自身にしか従わないのが彼女の特別なところだ。
– チェックすべきトラック : 「bad guy」
25位 : ザ・ウィークエンド『House Of Balloons』(2011年)
2011年、突如シーンに現れたザ・ウィークエンドは謎に包まれていた。そのせいで彼の最初のミックステープ『House Of Balloons』はまるで”密売品”のように思えたほどだ。
ザ・ウィークエンドことエイベル・マッコネン・テスファイは、のちにドレイクらとのコラボレーションを通じ、その名前を知られていった。しかしながら、それ以前は、スージー・アンド・ザ・バンシーズのサンプリングに乗せたファルセットがクセになる、謎めいた存在でしかなかった。しかも彼が歌っていたのは、ドラッグや放蕩といった題材だった。浮世離れしたR&Bと力の抜けたサウンドという彼の独自のスタイルは、2010年代のR&Bを方向付けるものだった。
– チェックすべきトラック : 「What You Need」
24位 : レディー・ガガ『Born This Way』(2011年)
2000年代前半をロックが復活した時代だとすれば、2010年代はポップ・ミュージックの価値を高めようという動きの最盛期だ。批評家たちはポップをひとつの芸術として受け止めはじめ、アーティストたちも信念を持ってポップ・ミュージックの制作に取り組んだ。その代表例が、レディ・ガガのアルバム『Born This Way』である。
レトロな音楽をベースに、未来志向で制作するという、温故知新そのものを体現した同作は、2010年代を象徴する1作だったといえよう。すべての人を包み込むようなアンセムの数々に、ガガは臆することなく過剰な演出を施してみせた。ポップ・ミュージックの歴史に残る、紛れもない重要作である。
– チェックすべきトラック : 「Born This Way」
23位 : LCDサウンドシステム『This Is Happening』(2010年)
新たな時代の幕開けと同時に、一時代前のシーンを支えた重要グループが活動に幕を下ろした。エレクトロ・ダンス・パンクの代表格であるLCDサウンドシステムは、2010年代の始まりとともに、かつて繁栄したニューヨークのインディー・シーンとファンに別れを告げたのだ。それがこの”最後のアルバム”と、マディソン・スクエア・ガーデンで披露された歴史的なコンサートである。
本作『This Is Happening』は、別れの言葉(「Home」)や、名残を惜しむようなダンス・ポップ・ナンバー(「Dance Yrself Clean」)、失われゆくものへの郷愁(「I Can Change」)といったものがぎっしりと詰まったアルバムだ。
– チェックすべきトラック : 「Dance Yrself Clean」
22位 : ジェイムス・ブレイク『James Blake』(2011年)
2010年代には各ジャンルで大きな改革が起こった。そしてその一番の担い手を挙げるなら、ダブステップのDJからシンガー・ソングライターに転向した経歴をもつジェイムス・ブレイクになるだろう。
ブレイクは人の心に寄り添うトーチ・ソングとシンセが作る音世界を組み合わせ、哀感に満ちたポップ・ナンバーを制作。それはクラブに出入りするような若者から内向的な人々まで、誰の心にも響くものだった。
ブレイクは注目に値するEPを次々に発表した後、2011年にデビュー・アルバムに当たるこの『James Blake』をリリース。並外れた歌声を披露し、”エレクトロニカ・ソウル”ともいうべきブレイク特有のジャンルを確立した。
– チェックすべきトラック : 「Limit To Your Love」
第21位 : アデル『21』(2011年)
エイミー・ワインハウス亡き後、失恋を題材にしたトーチ・ソングの歌い手の座を受け継いだのがアデルだった。新たな時代に合ったスタイルを模索するポップ・スターが多くいた中で、彼女のブルー・アイド・ソウルは2010年代を語る上で欠かせないものとなった。
彼女が歌うのは、ダスティ・スプリングフィールドやペトゥラ・クラークといったイギリスの偉大な女性シンガーの系譜を受け継ぐ、伝統に忠実な王道ポップである。だが、失恋は世代を超えて誰もが経験するテーマでもある。だからこそ『21』は、今現在21世紀で最も売れたアルバムになっているのだろう。
– チェックすべきトラック : 「Someone Like You」
20位 : アーケイド・ファイア『The Suburbs』(2010年)
2008年の世界金融危機後に漂っていた不安感を鋭く捉えた作品が『The Suburbs』だ。”ポスト不況レコード”の代表作を挙げるなら本作だろう。だがそれに加えて同作は、不安に満ちた2010年代の時代性を予見したアルバムともいえる。不景気によって多くの人々が田舎の実家に戻ったが、郊外はいつも空しい場所だった。
それまでの作品では死をテーマにしてきた彼らだが、本作では郊外の倦怠感という人間の心理に目を向けた。「最初の爆弾が落とされた時、僕たちは既に退屈しきっていた (By the time the first bombs fell, we were already bored)」。まさにその通りだろう。
– チェックすべきトラック : 「The Suburbs」
19位 : ビーチ・ハウス『Teen Dream』(2010年)
ビーチ・ハウスがポップ・カルチャーに姿を現したのは、ローファイやチルウェイヴ・ロックが盛り上がりをみせた2000年代のことだった。しかし2010年にリリースされた『Teen Dream』こそが、このグループの代表作である。
凝ったアレンジと深みのあるヴィクトリア・ルグランのヴォーカルによって、ビーチ・ハウスはベッドルーム・ポップの域を越えて表舞台に躍り出たのである。
– チェックすべきトラック : 「Zebra」
18位 : ジェイ・Z『4:44』(2017年)
2016年には、ビヨンセとソランジュのノウルズ姉妹が揃って個人的な想いを題材にしたアルバムを発表。そうくれば、ジェイ・Zが心に秘めていた感情を作品にするのも時間の問題だった。ただ、ヒップ・ホップ界の重鎮であり、実業家としても大成功を収めた彼を、現役のラッパーとして考えている人は少なかった。そうした中でリリースされた『4:44』では、全盛期のようなビッグ・マウスが影を潜め、愛、後悔、懺悔といった極めて個人的なテーマが歌われている。
– チェックすべきトラック : 「4:44」
17位 : ケイシー・マスグレイヴス『Golden Hour』(2018年)
ポップのメインストリームに進出した女性カントリー・アーティストたちの系譜を受け継ぐケイシー・マスグレイヴス。ナッシュビル出身の彼女は、グラミー賞も受賞した型破りなアルバム『Golden Hour』で業界期待の新人として脚光を浴びた。
マスグレイヴスは、このアルバムで傑出したシンガーソングライターとしての手腕を遺憾なく発揮。ポップ、ロック、ディスコなどのジャンルを自在に行き来しながら、歌詞の繊細な描写が光るカントリー・アルバムをものにしている。
– チェックすべきトラック : 「Rainbow」
16位 : ラナ・デル・レイ『Born to Die』(2012年)
2012年に初めて世に姿を現したラナ・デル・レイは、モデルのような容姿と力の抜けたトーチ・ソング以外は何の情報もない謎めいた人物だった。そしてこのアルバム『Born to Die』には、数え切れないほどの論評が出された。
このデビュー・アルバムを巡って、ネット上では、彼女の実力や人柄、容姿に至るまで激論が交わされたが、彼女自身はポップ・ミュージックの未来を見越していたといえよう。魅惑的な歌声とノスタルジックなサウンドでアメリカーナを大胆に蘇らせた彼女のスタイルは、”サッド・ガール・ポップ (sad girl pop) “というサブジャンルまで生み出した。
彼女の最高傑作といえば2019年リリースの『Norman Fucking Rockwell!』ということになるのかもしれないが、『Born to Die』 (そして、その中でも傑出したトラック「Video Games」) こそがすべての始まりだったのである。
– チェックすべきトラック : 「Video Games」
15位 : テーム・インパラ『Lonerism』(2012年)
2010年代に入り、時が経つにつれて、本来は人々を繋ぐはずのテクノロジーが、人々のあいだに溝を作り始めた。それを誰よりも理解していたのが、今や”スタジオの魔術師”と呼ぶにふさわしい、テーム・インパラ(ケヴィン・パーカー)である。
彼は初期のギター主体のスタイルから一転、サイケデリックなシンセや、サンプリング、環境音などを新たな手札として使用。『Lonerism』では、現代を生きる者たちに向けた内省的なアンセムの数々を生み出した。
– チェックすべきトラック : 「Feels Like We Only Go Backwards」
14位 : ディアンジェロ&ザ・ヴァンガード『Black Messiah』(2014年)
ディアンジェロがネオ・ソウルの傑作『Voodoo』で世界中を魅了してからは実に15年近くが経っていたが、同作に続く一作としてリリースされた『Black Messiah』はそれだけ待った甲斐のあるアルバムだった。
『Voodoo』は官能的でルーズな作風だったが、『Black Messiah』はタイトなサウンドのアルバムに仕上がっている。バックを支えるザ・ヴァンガードの助けもあって、本作はグルーヴ感とR&Bフュージョンのお手本のような作品になっている。”ブラック・ライブズ・マター (Black Lives Matter) “の広がりの真っ只中にリリースされた本作は、時代精神と合致したことで、救いを求める人々に手を差し伸べる役割をも果たした。
– チェックすべきトラック : 「Sugah Daddy」
13位 : リアーナ『ANTI』(2016年)
リスクを厭わない大胆な姿勢において、リアーナは常にポップ界随一の存在だ。そして8枚目のスタジオ・アルバム『ANTI』では、巨大なポップ産業の枠からも脱却してみせた。もちろんダンスホールを沸かせるような楽曲(「Work」)も収録されているが、彼女はドゥー・ワップ(「Love On The Brain」)や1980年代風のチープなシンセ・サウンドで聴かせるロック・ナンバー(「Kiss It Better」)にも挑戦している。
「Consideration」の歌詞には「私のやり方でやるわ…… (I got to do things my own way, darling…) 」と宣言するくだりがあるが、『ANTI』は、まさしくそれを実践したアルバムだった。結果、この作品は200週に亘ってビルボード・チャートの200位圏内にランク・イン。これは黒人女性アーティストとしては前例のない快挙だった。
– チェックすべきトラック : 「Love On The Brain」
12位 : セイント・ヴィンセント『Strange Mercy』(2011年)
ロックは2000年代前半に復活を果たし、批評家たちも「ロックは終わった」という言葉を、こぞって否定するようになった。そんなとき、ロック・シーンの先頭に立った女性アーティストのひとりがセイント・ヴィンセントだった。
彼女は本作『Strange Mercy』で、そのギターの腕前と作曲能力の高さを見せ付けた。神秘的なヴォーカルと創造性に富んだアレンジはそれまでの作品にも見受けられたが、彼女はこのサード・アルバムでいよいよ本領を発揮したのである。
– チェックすべきトラック : 「Cruel」
11位 : デヴィッド・ボウイ『★ (Black Star) 』(2016年)
ロック界最初のカメレオン・シンガーは、彼のディスコグラフィの中でも特に大胆なアルバムを最後に残してくれた。1976年のあのアルバムと同じように、既成概念を揺るがす名作だ。
デヴィッド・ボウイがこの世を去る2日前にリリースされた同作『★』は、彼が最後まで冒険心を失っていなかったことを証明している。ロックというルーツを捨て、果敢にジャズ/フュージョンに挑んだこのアルバムは、歴史を書き換え続けた彼の50年の音楽人生にこれ以上ないかたちで別れを告げるアルバムになった。
– チェックすべきトラック : 「Lazurus」
10位 : ブラッド・オレンジ『Cupid Deluxe』(2013年)
ブラッド・オレンジという名義で活動を始めるずっと以前から、デヴ・ハインズのサウンドは2010年代の新しいポップ・シーンに溢れていた。深夜に聴きたくなるようなスマートな曲調を得意とするハインズは、ソランジュやスカイ・フェレイラといったアーティストのプロデュースや楽曲提供を次々に手がけていたのである。そして、そのサウンドの集大成となったのが本作『Cupid Deluxe』だ。
同作で彼は、80年代ニューヨークのクィア・ダンス・シーンにまつわる人々や場所、サウンドにオマージュを捧げている。また、ありとあらゆるアプローチを使ってディスコ、ソウルやR&Bの要素を見事に融合。この10年間の主流となるハイブリッドなポップ・サウンドを作り上げたのだった。
– チェックすべきトラック : 「Time Will Tell」
9位 : ロビン『Body Talk』(2010年)
かつてバブルガム・ポップで若者たちのアイコンとなったロビンは、2010年の『Body Talk』で自らのイメージを作り変えた。3部作のミニ・アルバムを発展させて制作したこの『Body Talk』で、彼女はダンス・ミュージックの価値を示した。
ダンスフロアに立つ人々の内面に焦点を当て、孤独や逃避願望といった感情を表現したのだ。優れたメロディ・センスが光るエレクトロ・ポップの名作であり、この後に次作のリリースまで実に8年を要したことも頷ける仕上がりである。
– チェックすべきトラック : 「Dancing On My Own」
8位 : テイラー・スウィフト『1989』(2014年)
正直なところ、テイラー・スウィフトのディスコグラフィのほとんどがこのリストにふさわしいと言っていい。ポップ・アルバムでありながらジャンルの垣根を越えたヒット作『Red』を2012年にリリースして以来、彼女は2010年代を通してウィットに富んだ作詞の腕を遺憾なく発揮し、ポップの名盤を次々に生み出してきた。
だがカントリー歌手のイメージから脱却して以降のスウィフトのアルバムの中で、最も完成度が高いのは『1989』だろう。同作で彼女はポップ界の王座を確かなものにしたのだ。
– チェックすべきトラック : 「Blank Space」
7位 : ビヨンセ『Lemonade』(2016年)
2010年代には、ポップ・スターたちが過去の栄光にすがるのをやめ、リスクを冒してでも個人的な想いを歌うようになった。そのきっかけを作ったのはビヨンセだ。その証拠に本作のリリース後は、個人的な題材を取り上げたポップ・アーティストのアルバムを総称して”レモネード (lemonade) “と呼ぶようになったほどだ。
革新的な”ビジュアル・アルバム”となった前作『Beyoncé』に続く『Lemonade』も、単に失恋を歌ったアルバムではない。このアルバムもまた65分のフィルム(あんなものを披露できるのはビヨンセしかいない)へと繋がる宣戦布告にすぎないのである。
– チェックすべきトラック : 「Formation」
6位 : ドレイク『Take Care』(2011年)
さまざまな点で、2010年代はドレイクが築き上げた10年間だったと言っていいだろう。『Thank Me Later』(2010年) に始まり『Scorpion』(2018年) に終わった彼の10年はまさに勝利の連続だったが、その中で本当のドレイクらしさが表れた1作がこの『Take Care』だ。
ドレイクの繊細なヒップホップ・スター像はこのアルバムで作り上げられた。メロディに乗せて歌を歌ったラッパーは彼が最初ではなかったが、ドレイクはあらゆるジャンルを吸収して”ラップ・ポップ・スター”になった。
– チェックすべきトラック : 「Marvins Room」
5位 : ロード『Melodrama』(2017年)
ビリー・アイリッシュが登場するまで、ロードは世界で最も有名なティーンエイジャーだった。ニュージーランド出身の彼女がデビュー・アルバム『Pure Heroine』で世界中を席巻したのは16歳のときのこと。
それから数年間のうちに彼女を真似たアーティストは多く現れたが、2作目となる本作『Melodrama』で彼女はそうした者たちすべてを圧倒した。大人として生きる喜びと辛さを詳細かつ鮮明に描いた本作は、新成人を迎えた彼女の記念碑的作品だ。
– チェックすべきトラック : 「Green Light」
4位 : ソランジュ『A Seat At The Table』(2016年)
2010年代は控え目に言っても激動の時代だった。だが、その政治的混乱を作品に反映させつつ、そこから希望を描き出すことに成功したアーティストはほんの一握りしかいない。ソランジュの『A Seat At The Table』は、カルチャーに変革を起こしただけでなく、社会運動にも火を付けた作品だ。
ソランジュは黒人女性としてのアイディンティティと黒人のエンパワーメントを称えて強い発言力を手に入れた。そして同時に、同じくそれを望む多くの人たちを勇気付けた。このように民族の重みを背負った本作だが、そのサウンドはこの上なく軽やかだ。
– チェックすべきトラック : 「Cranes In The Sky」
3位 : カニエ・ウェスト『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010年)
カニエのエゴは最大の長所であるとともに最大の短所でもあるが、彼の野心的な作品『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』ではそれが功を奏している。短い活動自粛の後、彼はリスクを承知で自らの嫌な部分を前面に押し出し、”やりすぎ”と”何でもあり”の精神を賛美する作品を制作した。
そんなカニエがアメリカと自分自身に批判の目を向け、「バカ野郎どもに乾杯 (a toast for the a__holes)」と歌う同作には、彼の仲間たちもゲストとして参加。ニッキー・ミナージュやプシャ・T、キッド・カディとレイクウォンといった大物たちが揃って参加したこのアルバムは、2010年代にヒップホップの名盤が数え切れないほど生み出されるきっかけとなった。
– チェックすべきトラック : 「Runaway」
2位 : ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)
メジャー・デビュー作『Good Kid, m.A.A.d City』でストーリーテラーとしての腕前を発揮したケンドリック・ラマーは、『To Pimp A Butterfly』で再び黒人特有の経験を深く掘り下げた。
同作は、サウンド面では、ジャズ、ファンク、ヒップホップやアフリカン・ミュージックが見事に融合した作品だった。2010年代に必要とされていた壮大なヴィジョンがまさしくここにある。
– チェックすべきトラック : 「Alright」
1位 : フランク・オーシャン『channel ORANGE』(2012年)
2010年代にはR&B界でこれまでにないほどの変革が起こった。ラジオの影響力が弱まり、細分化されていた派生ジャンルは”オルタナティヴR&B”と呼ばれるものに集約されていった。フランク・オーシャンはサウンドと歌詞の両面で、こうした急激な変化を推し進めた立役者のひとりだ。彼のヴォーカルはR&Bの王道を敢えて逸脱したものになっているが、そこには確かな情熱が感じられる。
そんな彼のデビュー作『channel ORANGE』は、ドラマティックな展開こそないものの、細部に至るまでこだわり抜かれた作品だ。ここでオーシャンは、さまざまなキャラクターの視点を借りて、彼ならではの斬新な意見を表明することで、R&Bというジャンルに流動性をもたらしている。ヒップホップ/R&Bの世界で誰よりも早くゲイであることを公表したオーシャンは、自身を赤裸々に歌ったポップ・ミュージックの流行の先駆けとなったのだった。
– チェックすべきトラック : 「Thinkin Bout You」
Written By uDiscover Team
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