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デミ・ロヴァート「Sorry Not Sorry」:彼女の代表曲となった反抗のアンセム
数々の賞にノミネートされ、ラジオでもひっきりなしに流れ、現在ゆっくりとポップ・カルチャーに浸透しつつあることを考えれば、デミ・ロヴァート(Demi Lovato)のキャリアはまだ上昇の過程にあると思われるだろう。それゆえにまた、彼女のキャリアを決定付けた楽曲について論じるにはまだ少し早すぎると思われるかもしれない。
だが「Sorry Not Sorry」はそれだけの意味を持つ楽曲だったのだ。例えばジョージ・マイケルの「Faith」、リアーナの「Umbrella」、あるいはライト・セッド・フレッドの「I’m Too Sexy」を思い浮かべてみてほしい。これらは全てクイズ番組の問題になるような普遍性を持った曲だ。デミ・ロヴァートの「Sorry Not Sorry」もそんな楽曲のひとつだ。
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聴き手に届けたいという思い
デミが共同作曲者に迎えたのは、マドンナやリアム・ペイン、リゾに楽曲提供してきたヒットメイカーのショーン・ダグラスだった。「Sorry Not Sorry」のポテンシャルは明白で、デミの6作目のスタジオ・アルバム『Tell Me You Love Me』からの最初のシングルにも選ばれた。
加えてトレヴァー・ブラウンとウィリアム・ザイル・シモンズの名もクレジットされており、総勢4人でこの反抗のアンセムが形作られた。それは自らに降りかかる全てをただ受け入れることにこれ以上甘んじない現代の女性たちに向けたものだった。
ポップ/R&Bのプロデューサー、オーク・フェルダーが大胆かつ都会的に仕上げたことで、同曲は様々なジャンルのプレイリストに入り得る楽曲になった。その結果すぐにラジオで大ヒットし、リリースから間もなく全米シングルチャートを駆け上がった。シンセサイザーの音はロヴァートの力強いヴォーカルを飲み込む勢いだが、その歌声はかき消されない。そのサウンドは同曲をひとつではなくさまざまな視点から聴いて欲しいという彼女の想いが表れているかのようだ。
もちろんロヴァートについて語る上で、その派手な私生活が重要な部分を占めてきたのは事実だ。だがパブリック・イメージの管理に敏感で息も詰まるような時代にそうした問題を自ら発信する彼女の温かさや誠実さ(それに事実としての勇敢さ)は、彼女の経験に裏打ちされている。自身の経験が良い面に活きている。
反抗の意思表示
2017年の7月11日にリリースされた「Sorry Not Sorry」は、間違いなく新たな道を切り開いた。『Tell Me You Love Me』のファースト・シングルとしてプロモーションの中心になった同曲だけに、ロヴァートは数々の印象深いパフォーマンスを披露している。「Good Morning America」に出演した際のものもその一例で、2017年の「American Music Awards」におけるパフォーマンスでは喝采を受けている。そこでは居合わせた著名人たちもファンさながらの様子でロヴァートと一緒に「Sorry Not Sorry」を歌っており、この曲が既に大きな話題となっていたことを印象付けた。
ハンナ・ラックス・デイヴィスが監督を務めた「Sorry Not Sorry」のプロモーション・ビデオは、「寄せ集めの模倣作品」と紙一重の仕上がりだった。だがそれが逆に、多くの人々が共感出来る一人の若い女性としてのロヴァートのイメージを強めた。
ここでの彼女のスタイリングや言葉は、ごく普通の女性像を基調としており、それまでの彼女にあった繊細なポップの女王というイメージからはかけ離れている。デミ・ロヴァートは反抗の表現として舌を突き出さず、舌はほとんど頬の内側にしまわれたままだ。
うまく分別のついたパリス・ヒルトンとウィズ・カリファのカメオ出演もビデオを損ねていないし、彼女の親友で俳優のマシュー・スコット・モンゴメリーも出演している。すべてにおいて申し分のない采配だったといえよう。
しかし、ビデオの仕上がりがどれほど素晴らしいとしても、本当に重要なのは楽曲そのものの魅力である。「Sorry Not Sorry」は、『Tell Me You Love Me』のリリースにあたってその方向性に悩んでいたデミが、クリエイティヴな一歩を踏み出したことを象徴するものだった。
もしアルバムからのファースト・シングルがポップすぎたら、彼女が進歩せず後退しているように見えただろう。だが難解な音楽性に進むのも大きなリスクになる。その点「Sorry Not Sorry」は完璧だった。同曲には明確な主張があり、ソウルとダンス・ミュージックがスマートに融合されている。それに加えて反抗の意思表示が高らかに歌い上げられている。シンプルだが効果的な素晴らしいコンビネーションだ。
カルチャーに与えた影響
音楽賞の時期も当然「Sorry Not Sorry」には無関係ではなかった。MTV Video Music Awardsには2部門でノミネートされ、年末に発表されるその年のベスト・ソングのさまざまなリストにもランクインした。さらに重要なことには海外でのセールスも好調で、デミ・ロヴァートの世界的アーティストとしての地位も確立された。海の向こうのUKやニュージーランドの新曲トップ10にもランクインしたことで、『Tell Me You Love Me』の売れ行きにも弾みがついた。
また2020年1月にロヴァートが人気シットコム『ふたりは友達?ウィル&グレイス』の準レギュラーとしてデビューしたことを記念して、シリーズのキャストたちが「Sorry Not Sorry」の数フレーズを歌っている様子が撮影された。これこそがまさに、この曲がポップ・カルチャーに爪痕を残したことを示す証拠といえるだろう。
今後10年間でデミ・ロヴァートが作品を発表し続ければ、代表曲候補となる新曲が生まれることに疑いはない。だが今のところは、「Sorry Not Sorry」がリスナーの真っ先に思い浮かべる彼女の楽曲だ。
中にはこういった類のヒット曲を毛嫌いし、常に前進を続けて過去を顧みないように努めるアーティストもいる。だがロヴァートは、そうした点ではあまりにも誠実すぎるほどだ。この曲が示しているように、彼女は何も忘れ去ろうとはせず、むしろ過去から学ぼうとしている。
そもそも彼女は一体何を謝らなければならないのだろう? これほどの力を持った楽曲は、類稀なる才能の賜物なのだ。彼女は同曲から得られる大切なものすべて享受し、さらにすばらしいものを作ろうと励んでいる。
Written By Mark Elliott
デミ・ロヴァート『Tell Me You Love Me』
2017年9月29日発売
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