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【お勧めの5枚】ソウル/ファンク 定番・裏名盤・入手困難盤 70年代~打ち込み前夜編
2022年6月22日に世界初CD化作品(5タイトル)、世界初・単独CD化(1タイトル)、日本初CD化作品(22タイトル)、そして現在配信されていないCDを含む全48タイトルの国内盤CDが『ソウル/ファンク 定番・裏名盤・入手困難盤 70年代~打ち込み前夜編』として発売される(詳細はこちら)。
この全48タイトルの中から、おすすめを音楽ライターの林 剛さんに選盤いただき、それぞれを解説いただきました。
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1. エドウィン・スター『Edwin Starr』
エドウィン・スターといえば全米ポップ・チャート1位を記録した1970年の「War」を代表曲とする声が多い。ノーマン・ホイットフィールドとバレット・ストロングが書いた反戦歌だ。ブラック・シネマのサントラ『Hell Up In Harlem』(1974年)に提供した「Easy In’」がサンプリング・ソースの定番として話題になることもある。
これらはモータウン時代の曲だが、その後、別レーベルからのアルバムを挟んで1977年に発表したのが、このたび世界初CD化となる『Edwin Starr』だ。ただし、主にロンドンで録音された本作は、UKではGTOから『Afternoon Sunshine』というタイトルで発売。一方、米国およびUK以外の国ではセルフ・タイトルにされ、ジャケットも変更してリリースされた。今回は米盤仕様でのリイシューとなる。
プロデュースは本人とマーク・ヴァーノンで、アレンジがピップ・ウィリアムスという、英国ブルース・ロック人脈と組んだアルバム。エドウィンは後に英国在住となるが、これはそのキッカケのひとつとなった作品と言えるかもしれない。ファンキーで豪快だったモータウン時代のイメージからはやや脱却し、哀感の滲む雄大なオーケストラ・ソウルの表題曲を筆頭に、70年代後半の洗練とUKらしいポップネスが感じられる曲が並ぶ。
とはいえ、「I Just Wanna Do My Thing」は、イントロや間奏のドラムブレイクがブギー・ダウン・プロダクションズ「Word From Our Sponsor」やブロンクス・ドッグス「Tribute To Jazzy Jay」で引用されたように、ポップながらもファンク色の強いアップでエドウィンらしさ全開だ。「Everybody Needs Love」などでの荒々しく力強いヴォーカルも彼ならでは。ピート・ウィングフィールドと共作したシタール入りのスウィート・ソウル「Not Having You」も聴き逃せない。
2. ロバータ・フラック『Bustin’ Loose』
2022年2月、ロバータ・フラック85歳の誕生日を祝してデジタル(配信)リイシューされた『Bustin’ Loose』は、彼女のキャリアにおいて異色なアルバムだ。
ロバータは、1969年のレコード・デビュー以来、90年代半ばまでアトランティックのアーティストとして活躍。ところがその間、MCAから出したアルバムがあった。1981年にリリースした本作である。オズ・スコットが監督した同名映画のサウンドトラック。映画は、コメディアンのリチャード・プライヤーが主演した、70sブラックスプロテイーションの流れを汲むロード・コメディで、劇伴をマーク・デイヴィスが手掛け、ロバータがサントラのために曲を提供した。歌ものとインストが並ぶのは、いかにもサントラらしい。
ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイの共演盤に関わったエリック・マーキュリー(今年3月に他界)との共作曲もあり、当時のNYサウンド、およびその人脈によって制作されたアルバムとしても評価が高い。冒頭のラヴ・バラード「Just When I Needed You」ではルーサー・ヴァンドロスがバックで歌い、ルーサーはミディアム・テンポのメロウ・ソウル「You Stopped Loving Me」でもペンをとった。後者はルーサーが同年に発表したソロ・デビュー・アルバム『Never Too Much』に本人ヴァージョンが収録された。
そのルーサーとの共同作業でも知られるマーカス・ミラーがエリックと書いたのが「Lovin’ You (Is Such An Easy Thang To Do)」。マーカスが自身のソロ・デビュー作『Suddenly』(1983年)で披露した曲としてもお馴染みだろう。これと「Rollin’ On」は、バチバチと鳴るスラップ・ベースも含めトム・ブラウンの「Funkin’ For Jamaica (N.Y.)」に通じるNYクイーンズ・ジャマイカ流儀のフュージョン・ファンクと言えそうだ。
他にも、クイーカやホイッスルが賑やかなブラジリアン・ディスコ風のアップなどもあるが、「Ballad For D」も忘れ難い。ロバータとの共演盤を本作の前後に出したピーボ・ブライソンが精魂込めて歌うバラード。 “Dに捧げるバラード”ということで、これは1979年1月に急逝したダニー・ハサウェイへの追悼も兼ねたものだろう。曲調もピーボの歌もダニーを彷彿させる。待望のCD化だ。
3. スモーク『Smoke』
1976年、ふたつのグループがスモークという名前でアルバムを出した。ひとつはカンザス・シティの4人組ヴォーカル・グループによる『Risin’』、もうひとつがLAはコンプトン出身のヴォーカル&インストゥルメンタル・グループが出したセルフ・タイトル作。今回世界初CD化となったのは後者だ。
アルバムはカサブランカ系列のチョコレート・シティから出され、ファースト・プレスはスモーク名義で出されるも、同名グループの存在を知って改名し、以後のプレスからはブラックスモーク名義でリリースされている。
グループ唯一のアルバムで、プロデュースはクルセイダーズのウェイン・ヘンダーソンが主宰したアット・ホーム・プロダクションズ。同時期にサイド・エフェクトやオールスパイスといったグループもアット・ホーム・プロダクションズのバックアップで作品を出したが、スモークもホーンを全面的にフィーチャーしたスピード感のあるファンクを聴かせる。
特に彼らのアルバムは、冒頭の「Gotta Bad Feeling」のような力強くエネルギッシュなファンクがメインで、クラヴィネットやオルガン、ワウ・ギターなどを鳴らしたアーシーな質感の曲が目立つ。手数の多いドラムを中心としたタイトなリズムは、同じ人種混成のファンク・バンドであるタワー・オブ・パワーにも近く、パーカッシヴな「There It Is」もその路線だろう。
ただし、レア・グルーヴなどで再評価されたのは、アルバム後半に登場するスマートなファンク「What Goes Around Comes Around」やストリングスを纏ったフィリー・ソウル風の「Sunshine Roses and Rainbows」のほう。また、リード・シンガーがエモーショナルに歌い上げる哀愁系のバラード「You Needn’t Worry Now」は、ヒップホップ作品でのリサイクル例が多い。アット・ホーム・プロダクションらしさに出会えるのはラストの「Freedom Of The Mind」。これは洒脱なブリージン・ソウルだ。
4. マーヴィン・ゲイ『What’s Going On: Original Detroit Mix』
米ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム500選」(2020年改訂版)で1位に輝いたマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』(1971年)。このアルバムが、ヴェトナム戦争に駆り出された弟フランキーの体験談や故郷ワシントンDCでの反戦デモなどを受けて作られたコンセプト作であることは、今では多くの人が知るところだ。スパイク・リー監督の映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)が本作をモチーフにしていたことも記憶に新しい。
その『What’s Going On』には、実は2種類のミックスが存在する。ひとつは1971年5月21日の発売当時から親しまれてきたLAミックス。同年5月6日にLAのモータウン・スタジオ(Hitsville West)でローレンス・マイルスがミックスした、いわば通常ヴァージョン。もうひとつが、LAミックスより前の同年4月5日にデトロイトのウッドワード・アヴェニューにあるモータウン・ミックス・ルームでスティーヴ・スミスがミックスしたもの。通称オリジナル・デトロイト・ミックス。こちらが最初のミックスだったが、マーヴィンのお気に召さなかったようで、LAで再度ミックスが行われた。
当時、「What’s Going On」と「God Is Love」のシングルはデトロイト・ミックスで発売されていた。が、アルバム丸ごとデトロイト・ミックスが公開されたのはリリースから30年を経た2001年、『What’s Going On』のデラックス・エディション(2枚組)においてだった。その後、デトロイト・ミックスはアナログ化もされたが、CDでの単体リリースは今回が世界初となる。
慣れ親しんだLAミックスと比べてデトロイト・ミックスは印象がかなり異なる。全体的にコンガやボンゴ、ピアノの音が前面に出て、ジェームス・ジェマーソンのベースラインが際立っていたりするが、逆にジェマーソンのベースが奥まって聴こえる曲もある。わかりやすいのは表題曲「What’s Going On」で、LAミックスでは冒頭に登場するガヤが、デトロイト・ミックスではエンディングに登場する。それを受けて、デトロイト・ミックスでは続く「What’s Happening Brother」のバックでもガヤが流れている(LAミックスにはガヤが入らない)。
「God Is Love」から「Mercy Mercy Me (The Ecology)」への繋ぎも、シームレスながら強引なLAミックスに対し、デトロイト・ミックスではマーヴィンの「Oh,yeah!」という声で一呼吸置いて切り替わるといった具合だ。LAミックスで出されたA面の流れるような展開が、どこにメスを入れて完成したかを知る上でもデトロイト・ミックスを聴く価値は十分にある。
5. メイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー『Live In New Orleans』
シルキーでソウルフルなヴォーカルとメロウでレイドバックしたサウンド、人間愛や人生訓を織り込んだリリックで、本国のブラック・コミュニティでは絶対的な存在となっているメイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー。1993年以来オリジナル・アルバムは30年近く出していないが、現在もライヴ・バンドとしてツアーを続けている。
そんなメイズの代表作と言えるのが『Live In New Orleans』。初のライヴ・アルバムで、スタジオ録音の新曲4曲も含めて、1981年にLP2枚組で発表された。1987年に本国でリリースされた旧規格のCDでは、オリジナルLPにあった冒頭のMCを含め数曲がオミットされていたが、日本初CD化となる今回は2枚組での完全復刻となる。
1980年11月にニューオーリンズのダウンタウンにあるセンガー・シアターで行われたライヴ。1980年7月にアルバム『Joy And Pain』を発表したこともあり、セットリストは同アルバムの曲を中心に組まれている。当時のメンバーは8名。ギターやキーボードを弾きながら歌うフランキー・ビヴァリーをはじめ、パーカッションでグルーヴを生み出すマッキンリー“バグ”ウィリアムス(2011年に他界)とロナルド“ローム”ロウリー、フェンダー・ローズやオーバーハイムのシンセを弾き倒すフィリップ・ウーらがメイズのソウル・ワールドへと誘う。
特に「Joy And Pain」や多幸感溢れる「Happy Feelin’s」は、USでシングル・ヒットしていないにもかかわらず本ライヴ(盤)での披露を機に人気が上昇し、以降のライヴでも定番となった。1995年からニューオーリンズで行われている全米最大のR&Bフェス〈Essence Music Festival〉で、初回から2009年までの15年間、メイズが大トリを務めたのも本盤と無関係ではない。
スタジオ録音の新曲も上々の出来で、とりわけミッド・ファンクの「Before I Let Go」はメイズの代表曲にしてブラック・コミュニティのアンセムとして語り継がれるクラシックだ。カヴァーやサンプリング使用を含め後進に与えた影響も大きく、近年も、ビヨンセが〈コーチェラ・フェスティヴァル〉で行ったライヴ(通称ビーチェラ)の実況盤『Homecoming : The Live Album』(2019年)のボーナス・トラックとして「Before I Let Go」のカヴァーを収録したことが話題になった。今回の再発シリーズでどれか一枚を選べと言われたら、筆者は迷いなくこのアルバムを薦める。
Written By 林 剛
『Throwback Soul ソウル/ファンク 定番・裏名盤・入手困難盤 70年代~打ち込み前夜編』
2022年6月22日発売
CD / Tower / HMV
【世界初CD化】
・エドウィン・スター『Edwin Starr』
・スモーク『Smoke』
・チャールズ・アーランド『Perceptions』
・ロバータ・フラック『Bustin’ Loose (Music From The Original Motion Picture Soundtrack) 』
・ワン・ウェイ『Shine On Me』
【世界初・単独CD化】
・マーヴィン・ゲイ『What’s Going On : Original Detroit Mix』
【日本初CD化】
・L.T.D.『Love To The World』
・オゾン『Glasses』
・オブライアン『Doin’ Alright』
・オリヴァー・チータム『Saturday Night +1』
・オリジナルズ『Down To Love Town +1』
・ギャップ・バンド『Gap Band IV +5』
・キンズマン・ダズ『Kinsman Dazz』
・クール&ザ・ギャング『Live At P.J.’s +1』
・シスターズ・ラヴ『With Love』
・ズーム『Saturday, Saturday Night』
・デイヴィッド・ラフィン『The Unreleased Album』
・フォー・トップス『Keeper Of The Castle』
・フローターズ『Float Into The Future』
・メイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー『Live In New Orleans』
・ラヴ・アンリミテッド『In Heat』
・リック・ジェームス『Garden Of Love +2』
・ロイ・エアーズ・ユビキティ『LifeLine +1』
・ロイ・エアーズ『Fever』
・ロイ・エアーズ『Love Fantasy』
・ロイ・エアーズ『Feeling Good』
・ローズ・ロイス『Car Wash (Original Soundtrack)』
・ロッキー・ロビンズ『You And Me』
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