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2022年スーパーボウルのハーフタイムショー:史上初のヒップホップ・アクトへの期待と見どころ

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日本時間2022年2月14日に行われる第56回NFLスーパーボウルのハーフタイムショーに、ドクター・ドレー(Dr. Dre)、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)、メアリー・J. ブライジ(Mary J. Blige)、エミネム(Eminem)、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が出演する。

アメリカだけで毎年約1億人もの人々が見るというこのイベントでの今年のハーフタイムショーのラインナップについて、ライター/翻訳家である池城美菜子さんに寄稿いただきました。

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歴代のハーフタイム出演者

永遠に残る15分。アメリカン・フットボールの頂点、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の決勝戦、スーパーボウルが始まって56回目の2022年、史上初のヒップホップ・アクトがハーフタイムショーの主役を張る。いままでも2001年のエアロスミスとイン・シンクのセットで出たネリーや、2019年のマルーン5のときのビッグ・ボーイとトラヴィス・スコットなど出演したラッパーはいる。だが、あくまでもゲスト扱い。そのため、2021年9月30日にドクター・ドレーを中心に彼が発掘、売り出したスヌープ・ドッグ、エミネム、ケンドリック・ラマーと、クィーン・オブ・ヒップホップ・ソウルと称されるメアリー・J. ブライジの顔ぶれが発表された際、「とうとう来たか」という空気が世界中のヒップホップ・ファンのあいだで流れた。

スーパーボウルの視聴率は約40%を誇る。アメリカの総人口に照らし合わせると、1億人前後がリアルタイムでテレビの前に座る計算だ。筆者がニューヨークにいたとき、その時間帯に窓の外が見下ろしたところ通りががらんとして日本の元旦みたいだった。セカンド・クォーターの後のハーフタイムショーはアメフトに興味がない人まで巻き込むため、かなりの露出となる。この枠を任されるのは、アメリカのエンタメ史に永遠に名前を刻むことを意味し——まれにマイナスの歴史にもなり得るが——くり返し語られ、観られる永遠の15分となるのだ。

とはいえ、初めからこれほど大がかりだったわけではない。ハーフタイムショーにアリーナ級のアーティストが登場したのは90年代。それまではマーチング・バンドのパフォーマンスを中心にし伝統的なスポーツ・イベントの応援の延長だった。変化が訪れたのが1991年。ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックとディズニー・キャラクターが共演し、ぐっと華やかになった理由は、スポンサーがついたから。そして、1993年。アーティストひとりのもち曲で構成するミニ・コンサート形式が始まった。先頭を切ったのは、マイケル・ジャクソン。人種の融和をテーマに掲げたパフォーマンスはいまや伝説だ。

NFL/YouTube

NFL/YouTube

以来、ブルース・ブラザーズやモータウンのトリビュートといったショーケース型もあったが、ダイアナ・ロス、大雨だったプリンス、トム・ペティ&ハートブレーカーズ、ブルース・スプリングティーンなど大物の歌を楽しむ構成が増えた。南部アトランタのジョージア・ドームであればカントリー・シンガーを多く出すなど、開催地周辺のカルチャーに目配せしつつ、みんなが知っている曲を歌うアーティストが好まれた。ただし、パフォーマーはアメリカ人とはかぎらず、ザ・フー、ザ・ローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニーなど、イギリス勢も多く出演している。2002年は、世界同時多発テロ事件の犠牲者たちの追悼をテーマにU2がパフォーマンスした。

2010年代はさらに演出が派手になった。ブラック・アイド・ピーズ、ケイティ・ペリー、レディー・ガガ、マドンナ、ブルーノ・マーズといったチャートの人気者で、かつ大がかりな演出が得意なポップ・アーティストが選ばれるように。2013年、バンドとダンサーを全員女性で揃えてメッセージを明確に伝えたビヨンセも見事だった。

だが、露出が高いぶん、リスクも膨らむ。年代が前後するが、2004年にMTV主導の「投票登録をしよう」キャンペーンの一環で、ジャネット・ジャクソン、ジャスティン・ティンバーレイク、ネリー、P・ディディ、キッド・ロックがパフォームした際、ジャネットの衣装がずれて胸部が露わになった。放送したテレビ局はもちろん、ジャネットとジャスティンは激しく非難されてその後のキャリアに影を落としたため、ハーフタイムショーに出演するのはプラスばかりではないとの認識が広がった。

BLMとNFL

アメリカ最大のスポーツ・イベントとなると、どうしても社会的な影響を無視できない。2016年はその3年前から激化していたブラック・ライブズ・マター(BLM)運動がプロ・スポーツ界に広がった年である。ハーフタイムショーのコールドプレイのセットでブルーノ・マーズとともに助っ人として登場したビヨンセは、抗議のメッセージが強い「Formation」をパフォーマンスして賞賛と批判の両方を浴びた。その半年後、元サンフランシスコ・フォーティーナイナーズのコリン・キャパニック選手が国歌斉唱のあいだ起立を拒否、同様の行動をとる選手が増えた。トランプ元大統領はこの動きを激しく非難、協会も態度を硬化させて亀裂が生まれた。

BLMが激化した2020年はさらに亀裂が広がった。ハーフタイムショーも煽りを受け、リアーナ、ピンクら多くのアーティストがオファーを断ったと報じられた。結局、開催地マイアミの人口構成を反映させ、ラティーノ文化を代表するジェニファー・ロペスとシャキーラがステージに立った。じつは、これに先立ってNFLはロックネイションおよびジェイ・Zにプロダクションを依頼した。この動きは、選手の7割を黒人が占めるNFLが打ち出した苦肉の策だったらしい。ジェイ・Zは世相に配慮しながらハーフタイムショーを成立させる難題に取り組んだのだ。2021年、パンデミック禍で多くの制約に挑戦しながらやり遂げたのが、初のカナダ人アクトだったザ・ウィークエンドである。

2022年まで前振りが長くなったが、ドクター・ドレーのチームが抜擢された背景を伝えたかった。1月末、彼らがヒップホップ版アベンジャーズよろしく集合し、カリフォルニア州イングルウッドにあるソーファイ・スタジアムへと向かう姿を写したコマーシャルが公開された。黄金のチェス盤の上をポーンが動くカットとともに、エミネムが「Rap God」、スヌープ・ドッグは「The Next Episode」、メアリーは「Family Affair」、ラマーは「Humble」に合わせてそれぞれ出発する。「Still D.R.E.」でドクター・ドレーが登場、「California Love」で揃う映像でファンは狂喜した。このオファーはジェイ・Zから来たとドレーとスヌープがインタビューで語っており、背景にいる人たちを含めてヒップホップ・カルチャーのひとつの到達点となった。

The Call | Pepsi Super Bowl LVI Halftime Show OFFICIAL TRAILER

ヒップホップ・アベンジャーズの相互関係

「ヒップホップでもっとも偉大なプロデューサーは?」との質問に、多くの人がドクター・ドレーの名前を挙げるだろう。80年代半から活動を始め、N.W.A.の一員としてギャングスタ・ラップを広め、そのサブジャンル、Gファンクの型を作ったプロデューサーだ。

90年代頭にデス・ロウ・レコーズのもとでソロ作『Chronic』、スヌープ・ドギー・ドッグ(当時)『Doggystyle』というゲーム・チェンジャーとなったアルバムを放つ。この2枚のインパクトは、海を越えて日本まで届いた。その前後の流れは、N.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を見てほしい。ドレーのプロダクションの肝は、音数を絞り、とことんヘヴィーにしたドラムにある。また、元DJらしい広範囲な音楽的知識も強みで、「ファンク」を標榜するだけあり、ヘヴィーだけど聴きやすく、体ごと預けたくなる気持ちよさがある。

Dr. Dre – Still D.R.E. (Official Music Video) ft. Snoop Dogg

スヌープ・ドッグはもはやラッパーを超えたアメリカン・アイコンだ。映画、テレビ、スポーツ、そして料理までどこにでも顔を出し、どこでも歓迎される。そのあいだ、多くのレーベルと契約してずっと音楽を作り続けていてすごいが、広く聴かれているのはドクター・ドレーとの初期作品、ドレーのセカンド『2001』収録の「Still D.R.E.」や「The Next Episode」、ザ・ネプチューンズがプロデュースした「Drop It Like It’s Hot」や「Beautiful」あたりか。

優雅な身のこなしとユーモアたっぷりの毒舌、求められているものを瞬時に判断して予想以上に応えつつ、けっして自分を卑下する動きには与しない姿勢で、男女ともにファンが多い。なぜかレゲエに傾倒してスヌープ・ライオンを名乗った際、私は対面インタビューをした。ものすごく頭がきれ、ときおり見せる素顔が元ギャングを感じさせる、唯一無二の存在感をもつ人だった。その彼が、絶対的な忠誠心を見せる人がドクター・ドレーなのだ。

エミネムとドクター・ドレーの関係を端的に知るためには、「I Need A Doctor」のビデオとリリックを参照するのが手っとり早いだろう。2011年、プロデューサーとしてはコンスタントにヒットを作っていたドレーだが、ソロ作『Detox』の制作は長いこと行き詰まっていた。そこで、精神的な行き詰まりを表すかのようにビデオで車の事故と被せて瀕死となり、そこへ復活を望むエミネムが延々と語りかける内容で、実の親子以上の絆を見せつけるのだ。

Dr. Dre ft. Eminem, Skylar Grey – I Need A Doctor (Explicit) [Official Video]

エミネムは存在そのものがドレーの最高傑作であり、この曲のリリック通り、組んでは去っていくアーティストが多いなか1998年にドレーのアフターマス・レコーズと契約してから一度も離れたことがない。ヒット曲の大きさと多さを考えると、ハーフタイムショーをメインで張れるアーティストではある。だが、それ以上にドクター・ドレーと一緒に引き受けることに意義があるのだろう。

才能の発掘にかんするドクター・ドレーの手腕、慧眼を2010年代に証明したのが、ケンドリック・ラマーだ。ロサンゼルスのコンプトン地区と同じ地元である彼の潜在能力を見抜いたくだりは『バタフライ・エフェクト: ケンドリック・ラマー伝』(マーカス・J. ムーア著 / 塚田桂子訳)にくわしい。

ドレーは『Detox』にフィーチャーするつもりで声をかけ、結果的にケンドリックはアフターマス・レコーズを通じてインタースコープと契約した。ケンドリックに対しては、ドレーはエグゼクティヴ・プロデューサーと「メンター(世話役・指導係)」の役割を果たしており、今回のショーでひとりだけドクター・ドレーのプロデュースではない曲を披露する見通しだ。

Compton

ニューヨーク出身のメアリー・J. ブライジは、ドクター・ドレーとの関係がそれほど深くないように映るかもしれない。だが、彼女の最大ヒット「Family Affair」はドレーがプロデュースしている。ヒップホップ・アベンジャーズに女性が不可欠だった事情を踏まえても、再評価ブームの真っ只中にいるメアリー以上の適任はいない。

もともと、ドクター・ドレーのプロダクションはR&Bとも相性がよく、アリシア・キーズ「New Day」など隠れた名曲も多い。出演者のなかで唯一、2001年にエアロスミスらとハーフタイムショーをすでに経験しているのもメアリーだ。21年後の抜擢についてコメントを紹介しよう。「2001年に出たときは後ろに立っていただけだった。今回は仲間のドレー、スヌープ、エミネム、ケンドリックと一緒、クィーン・オブ・ヒップホップ・ソウルとして最前列に立つの」、そして「ヒップホップそのものが<ファミリー・アフェア>」と強調して、ファンを痺れさせた。

Mary J. Blige – Family Affair (Official Music Video)

音楽だけでなく、ドクター・ドレーはヘッドフォン・ブランドの「Beats by Dre」の売却で富をさら増やしたビジネスマンである。だが、2020年に24年連れ添った元妻、ニコルさんとの離婚訴訟が泥沼化したせいか、2021年の1月に脳動脈瘤で倒れて入院、「全米が心配した」状態になった。そこからの復帰を祝うためと、開催地イングルウッドの隣のエリアで生まれていることもあり、ドレーにスポットライトを当てる形になったのだ。パンデミックへの終わり(共存)がそろそろ見えてきたなか、プロダクションの司令官であるジェイ・Z、そして最強のヒップホップ・アクトであるドター・ドレーたちがどんなマジックを見せてくれるか楽しみだ。

Written By 池城美菜子



<ハーフタイムショー出演者の楽曲をあつめたプレイリスト>

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