News
デビュー40周年、R.E.M.のピーター・バックが語る『New Adventures In Hi- Fi』と過去の名作
アメリカ南部ジョージア州の大学町アセンズから登場し、1981年にインディ・デビュー。80年代カレッジ・シーンでの地盤固めから、90年代メジャー・フィールドでの大躍進、00年代には世界的なロック・バンドとして、ファンはもちろん、ミュージシャン仲間やメディアからも信頼を得て、安定した活動ぶりをみせていたR.E.M.。
メジャー5作目にしてオリジナル・メンバー4人で制作した最後のアルバム『New Adventures In Hi- Fi』の25周年記念エディションが発表される今年は、同時に、デビューから40年、そして、バンドが活動を止めてから10年という節目が重なった。この機に、メンバー最年長で音楽リーダー的存在のピーター・バック(guitar)が取材に応じてくれた。
<関連記事>
・R.E.M.『New Adventures In Hi Fi』25周年記念盤発売。メンバーコメント掲載
・新型コロナ蔓延でR.E.M.「It’s The End Of The World」がチャート再登場
『New Adventures In Hi-Fi』25周年について
── 確か『New Adventures In Hi-Fi』は、R.E.M.作品の中でもあなたのお気に入り上位に位置していたと思うのですが、25周年記念エディションの企画が持ち上がる以前にも、あのアルバムを聴き返すことはありましたか?
「ないよ。作り終えたら、自分たちの作品を聴き返すことは一度もない。今回リマスタリングの承諾をしなくてはならないので、ここ3〜4ヵ月は聴いていた。でもその前はというと、25年間聴いてなかったよ」
── 『New Adventures In Hi-Fi』以前の作品も、各々25周年記念盤がリリースされていますが、その都度あなたの中にはどんな感情がわき、どんなことが思い出されたのでしょうか?
「自分たちの作品に対しては、どれも誇りを持っている。最初に頭に浮かぶのは、そういう感情かな。あとは、自分がうんと年をとってしまったみたいに思う」
── (笑)
「だって、ファースト・アルバムからもう40年近いからね。でも僕らの作ってきた音楽のことは心から大好きだし、基本的に、どれも良いアルバムだったと今も誇りに感じているよ」
スコット・リットとの4作品について
── 日本ではデビュー40周年を記念して『New Adventures In Hi-Fi』25周年記念エディションと共に、メジャー移籍後のスコット・リット(プロデューサー)との4作品に関してハイレゾ盤がリリースされるので、それぞれ、R.E.M.というバンドの歴史の中でどのような作品であったか振り返っていただけますか? まずは、『Green』。
「『Green』は、それまでR.E.M.が作ってきたものより、大きな音のアルバムだった。さっきも言ったとおり、かつての作品について何年も考えたことがなかったんだけど… ワーナー・ブラザーズとの初めてのアルバム。全員が多少それまでと違う方向に自分たちを推し進めた、そんなアルバムだった。全世界的にいわゆるヒットした初めてのアルバムだったと思う」
── 『Out Of Time』。
「1年に及ぶ『Green』のツアーで、何千人何万人というオーディエンスを前に演奏するビッグなロック・バンドになっていた自分たちから、ちょっと違うことをしようというのが考えだった。基本的には一種のアコースティック・アルバムなんだけど、過去に僕らがやってきたものとは違う、ストリングスとかを使った少し凝ったサウンドになった。“成功からの脱却”を目指したところが、結果的には最も成功したレコードになった、という、そんなアルバムさ」
── 『Automatic For The People』。
「あれを僕らのベスト・アルバムだと考える人が多いのかな。どうだろう。たくさんの感情を伴うアルバムだよ。あのアルバムのための曲作り、レコーディング、アルバム作りのことは今もよく覚えている。すべてのアルバムがそうだというわけじゃないんだけどね。アルバムが完成してもツアーはしなかったし、何を期待していいのか、わからなかった。アメリカ中の新しい街をドライヴしながら作ったアルバム、という感じかな」
── 『Monster』。
「『Monster』は、アップ・テンポではないアルバムが2枚続いたので、エレクトリック・ギターをかき鳴らすロックなレコードにしようと思って作ったアルバムだ。そして完成後には、1年間世界中をツアーした。あの時、自分たちの周りで起きていたことの影響が少なからず入ったアルバムだ。シアトルのシーン、ソニック・ユースのようなバンド…….そういったことすべてが、少しずつあのアルバムには影響していると思う」
── 『Monster』のツアー中、あなた以外のメンバー3人が次々に倒れ、それでもツアーは続き、そのツアー中に制作を進めたものが『New Adventures In Hi-Fi』になりました。そしてこの作品は、ビル・ベリー(Ds)在籍時最後のアルバムでもあります。あなたは今、このアルバムをどのように捉えていますか?
「あれはR.E.M.のようなバンドが作るべきアルバムだった、と思える点で意義があると思っているんだ。僕らはわずか4〜5年という期間で2500〜3000万枚近いセールスをあげた(筆者註:実際には3000万枚以上)。そんな僕らが、ああいうアルバムを作るのは決して楽なことではなかったし、安全策ではなかった。それでも、ほとんど誰もやったことがないようなことをやろうと決めて取りかかったんだ。ツアーをしながら曲を書き、レコーディングした。それはチャレンジだったけど、僕らの立場でやるべきチャレンジだったんだと思う」
R.E.M.の再結成?解散しているのか?
── R.E.M.後のあなたは、マイク・ミルズ(B)や、スコット・マッコウイー(G:ヤング・フレッシュ・フェロウズ。長きにわたりR.E.M.のサポートを務め、現在もベースボール・プロジェクトなどでピーターと活動することが多い)らと時間を共にする機会も多いわけですが、彼らとR.E.M.の頃の話をすることもありますか?
「たまたまそうなることはあるよ。誰かにR.E.M.のことを質問されて、僕とマイクとスコットで答える、というのがほとんどだけどね。決して“古き良き時代”というわけではないんだ。他にはないような、興味深い、おもしろい日々だったというだけさ。友人が家にきて、ディナーをしながら、その頃の話をするということはあるよ。僕は結構、記憶力がいい方なんでね」
── 10日ほど前(10月初旬)、マイケル・スタイプ(Vo)は、改めてR.E.M.の再結成を否定しました。実は、生前のビル・リーフリン(ビル脱退後サポート・ドラマーとしてR.E.M.と活動を共にし、その後もピーターとプロジェクトを共にしたり、キング・クリムゾンの一員としても活躍。2020年3月病死)に、「R.E.M.がまたやることはあると思う?」と聞いたことがあります。答えは「ないだろうね」でした。あなたも同じですか?
「僕もやはり『ないだろうね』と答えるよ。もし当時、活動を停止することを疑う気持ちが少しでも僕らにあったなら、5年〜6年のオフを取っていたはずだ。でも『物語は終わった』と感じられたんだ。そしてその終わり方に満足していた。今も僕らは友達だし、みんなでディナーを食べたりするし、僕はビル・ベリーやマイク・ミルズと音楽を作っている。マイケルとも時折会っている。でも、だからと言ってまたバンドを始めるとは思わないな。それをしたところで、僕らにとっては意味を成さないんだよ」
── それでもR.E.M.は解散していないと、思っているんですよね。
「解散してないよ。今もこうして、僕は僕らがやってきたことのプロモーションをしている。みんなで力を合わせて作り上げたアルバムだ。ただ、僕らの物語はあの時点で終わった。それだけのこと。先に進むべき時期に差し掛かっていたということさ」
Written By Mika Akao
R.E.M.『New Adventures In Hi-Fi』
2021年10月29日発売
CD&Analog / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
日本盤のみ:解説・歌詞対訳付/2SHM-CD仕様
- R.E.M. アーティストページ
- MV監督が語る25周年を迎えたR.E.M.の『Automatic For The People』
- 新型コロナ蔓延を受け、R.E.M.「It’s The End Of The World」がチャートに再登場
- 90年代オルタナティブ・ソング・ベスト100選
- R.E.M.『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』25周年記念盤が発売
- R.E.Mとポール・スミスによる『Automatic For The People』コラボ商品が限定発売
- R.E.M. – 『Automatic For The People』
- R.E.M.アルバム制作秘話
- R.E.M. の20曲
- R.E.M 関連記事