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リルハディがデビューアルバムを語る:ポップ・パンク・リバイバル代表アーティストの過去と未来
2020年10月、ラッパーとして活動していたマシン・ガン・ケリーが自身初のポップ・パンク・アルバム『Tickets to My Downfall』を発売すると、ロックでのカテゴリーとしては約1年1か月ぶりに全米アルバムチャート1位を獲得した。
これがきっかけとなったかのように、2021年は新人オリヴィア・ロドリゴのポップ・パンク曲「good 4 u」が大ヒットを記録、ウィル・スミスを父に持つウィローも音楽性をポップ・パンクに転向したアルバム『lately I Feel Everything』を発売、ベテラン・バンドのオール・タイム・ローの「Monsters」が過去最大のヒットを記録するなど、アメリカでは確実にポップ・パンク・リバイバルの波が起きている。
そんな中、今年10月に米Billboardが発表した「21 Under 21(21歳以下の注目の21人)」という特集に前述のオリヴィアやウィローとともに選出されたのが現在19歳のリルハディ(LILHUDDY)だ。
もともとは口パクアプリ「Musical.ly」、そして「TikTok」のユーザーとして人気が出て、2019年にはインフルエンサー集団「ハイプハウス」のメンバーとして注目を集めた。現在のTikTokのフォロワー数は3200万人、いいねの数は17億を記録している彼の夢は、SNSインフルエンサーではなく、ミュージシャンになることだった。
リルハディは、2020年にメジャー契約を獲得。2021年1月にデビュー・シングル「21st Century Vampire」を発売。9月にはデビュー・アルバムとなる『Teenage Heartbreak』をリリースした。ブリンク182のトラヴィス・バーカーが参加したアルバムは、Z世代だからこそ表現できる楽曲が収録され、注目を浴びている。そんなリル・ハディの日本オフィシャル・インタビューを掲載。アルバムのことや影響を受けたものなどを語ってくれている。
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デビュー・アルバムについて
―― デビュー・アルバム『Teenage Heartbreak』のリリースおめでとうございます。初めてのアルバムを完成させた感想などをお聞かせください
このアルバムは1年半かけて取り組んだんだけど、僕のすべてを注ぎ込むのは大変でした。アルバムで何をしたいのかを見つけるのもすごい時間がかかった。こういうときは思い切ったことをしなきゃいけないと思うんだけど、今回は本当に思い切って最高な作品が仕上がったし、それをみんなに届けることが出来て良かったです。ファンのみんなに、僕がどんな人なのか、どんな経験をしてきたのかをもっと理解してもらえて、辛いことは誰もが経験することだから大丈夫だよって伝えられる作品になったと思う。自分の良いイントロダクションになった。うまくいったと思っているし、どんな反応が返ってくるかすごい楽しみですね。
―― リスナーにはアルバムから何を感じ取ってもらいたいと思いますか?
聴いている人には、共感とかどんな小さな部分でも自分に語りかけていると思うものを感じて欲しいですね。歌を通して人間関係について気づかされることがあると思いますからね。自分の恋愛で本当はどう感じているかとか。例えば、初めてオリヴィア・ロドリゴのアルバムを聴いた時、多くの人が「確かに!私も元カレが大嫌い!」って思うような感じ。「この曲のおかげでそれに気づいた!」みたいな。
音楽は人を泣かせたり、感情的にさせたりすることができるけど、このアルバムの中にも、あらゆる複雑な感情を抱かせる曲が入っていると思うんです。『Teenage Heartbreak』では、そういう色々な感情を感じてもらいたい。だって、失恋ってすごい複雑な感情が入り混じるような経験ですよね? いっぱい泣いたり、幸せだったことを思い出したり、たくさんの素敵な感性がある。だから、それぞれの曲で、そのプロセスで感じる色々な感情を表現したかったんです。
―― 最新シングル「Partycrasher」はとても楽しくて、若々しく、エネルギッシュですね。今回のアルバムで伝えたいこととして、様々な感情を語っていましたが、この曲やミュージック・ビデオでは、どのような面を見せたかったのでしょうか?
この曲では、僕の楽しくて愛に満ちた面を見せたかった。僕は時々、真面目になりすぎてしまうことがあるから、僕だって「ヘーイ、みんな!」みたいに楽しい時もあるんだよって伝えたかったんです。愛もあるし、無邪気な子供でいることが好きなんです。ふざけながら楽しんで曲を作るのも好きだし、エモーショナルな曲が多い中で、恋愛の楽しい部分を表現してそれを感じ取ってもらいたかった。ハニームーンみたいな楽しい時間をね。そういう曲ですね。
―― 今回のアルバム全体を通して、常に意識していたことなど、何かこだわりはありましたか?
自分のメッセージがちゃんと伝わっていることかな。曲の全ての部分でストーリーを語れるように、ここでフックを引き立てたいならここで細かく描写しなきゃいけないとか、ブリッジは感情的にしたいとか、ここで強めにいくのが良いか優しめにしてから強く戻るのが良いかとか、自分の頭の中でステップを緻密に考えなきゃいけないことがたくさんありましたね。自分にとって精神的な挑戦だったと思います。
―― アルバムは1年半ほど前から制作していたとのことですが、コロナ禍中での曲作りは孤独な経験でしたか?それとも、逆に楽しかったですか?
少し孤独な経験だったかな、人とずっと会わないっていうのは。その直前は、友達とどっか行ったり、ショッピングモール行ったり、それこそファンに会ったり、コンサートに行って人に会ったり、いろいろなことができていたのに、(コロナ禍では)ずっと閉じ込められていた気分でした。長い間、旅行もできず、何もできなくって、全部が変な感じだった。
でもその中ですごい人の多い場所に引っ越したから、1人なのに家の外にはパパラッチがいて、「今どういう状況?」みたいな感じでしたね。すごい混乱して、精神的にも変な影響を受ける場所だった。あと、最初に住んでいた家では、孤独な時間を過ごしていたけど、徐々に状況がよくなってきたかな、最初は本当に「スーパーに行けない」「家から出られない」みたいな感じで、「あーーー」って何もかもが嫌になってました。
―― その間、たくさん曲作りは進められましたか?
本当に曲作りを始めたのは、実はちょうどその頃ですね。そういう話はしていたんだけど、生活があまりにもゴタゴタしていて、目の前のことに精一杯だったから、週に1、2回程度しかできなかったんですよね。でも夏にはもっと時間に余裕ができて、他に特に何も起こってなかったから、毎日スタジオに行き始めた。サウンドを追求するために何度もトライして、それがうまくいった後は、どんどん曲を書いてましたね。
コラボしたいアーティスト
―― 「Don’t Freak Out」では、ポップ・パンク界のレジェンドとのコラボを果たしましたね。トラヴィス・バーカーとタイソン・リッター。他にコラボレーションしてみたいアーティストはいますか?
実は100人くらいのコラボしたい人のリストがあるんですよ。
―― いくつか教えてください。
いくつか…ね(笑)特別に少しだけ紹介しますね。本当は人には言いたくないリストですよ、バレちゃうから(笑)。まずスラッシュと一緒に仕事がしたい。スラッシュは素晴らしい人だと思うし、彼のギターワークもすごい好きだから。彼は最高。
あと一緒にやりたいのは…方向性は全く違ってくるけど、ドン・トリヴァーとコラボしたい。あと、マイ・ケミカル・ロマンスとのコラボも最高だと思う。いくつかのインタビューでも言ったと思うけど、お気に入りのバンドの1つなんです。今紹介できるのは、それだけ。リスト見えちゃった?見せちゃったかもしれないけど、大丈夫!彼らが見つけてくれるかもしれないし(笑)。
過去の自分とSNSスターの自分
―― あなたの曲には2000年代ポップ・パンクを彷彿させるサウンドがありますが、そのジャンルに興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?
すごい小さい頃に興味を持ったのがはじまりかな。姉が高校生のとき、家から学校までの車の中でそういう音楽をかけていた影響だと思います。姉は小1から高3まで一貫の学校に通っていたから高校までずっと一緒で、そのとき僕は小学2年生で。姉の友達と一緒に彼女たちの音楽を聴いていて、「かっこいい、ポップ・パンク、最高」って思ったんです。8歳の僕は「ギターイケてる」とか言って、弾けないけど、かっこいいって思ってた。
その後、中学とか高校に進学してから、もっと興味を持つようになりました。18歳になってからは曲を書き始めて、真剣に取り組むようになりましたね。曲を書いて人前で披露したいとずっと思ってたけど、きっかけが無くて自信も足りなかった。だから自力でイベントを探して、「よし、やってみよう」って意気込んだんです。
―― 今年の1月にデビュー・シングル「21st Century Vampire」をリリースしてから、人生が大きく変わったと思います。TikTokやSNSで有名になってから今の生活は、どのように変わりましたか?
正直、人生が180度変わった気分。ベッドルームで動画を作っていたのが、今ではミュージック・ビデオを作って、かっこいい写真撮影をしてもらって、音楽作って、たくさんの人に会って、実際にもっとクールなことをしてるし、やっていることに夢中になってる。前よりパッションがあるように感じます。こんなに生きているって感じるのは久しぶり。音楽は僕を生き生きとさせてくれるから、心の内を明かした自分の曲は僕の子供のようなものですね。だから彼らを解放した感じ。もう“みんなのもの”になっていいよってね。
―― ずっと音楽を作りたいと思っていた中で自信が足りなかったと言ってましたが、過去の自分、例えば3年前の自分には何と言いたいですか?
「下向かないで、頭をあげて」「希望を持って、あきらめないで」って伝えるかな。何度も諦めそうになりましたからね。自分を理解してくれる人たちに出会えるし、この人生をより理解してくれる人たちにも出会い始めるからって。右も左も分からない状態でこの業界に足を踏み入れたし、地元に理解してくれる人もいなかった。だから相談できる人が少なかったんだけど、実際 LAにきて、「いやいや、大丈夫だよ」「これが普通だよ」「こうするべきだよ」「ストレスに感じなくていいよ」って言ってくれる人たちに出会ってからは、もっと安心できるようになったんです。
―― TikTokなどのSNSで多くのフォロワーを抱えていますが、SNSでの活動の何が好きですか?また、何に苦労していますか?
みんなの溢れる愛が好き。自分をサポートしてくれる人や、他の人をサポートしている人たち、すべてが最高ですね。自分のために一生懸命になってくれる人とか、自分のすることを常にサポートしてくれる人たちのコミュニティがあって、そんな人とコミュニケーションをとれるのも素敵だと思う。実生活での知り合いとはまた違って、自分の音楽とか、投稿とか、世界に向けて発信したものを通してつながっているように感じる。ここ数年間で、彼らとのいろいろなつながりを深めてきてきたし、これからもっと深まると思うんです。あんなに温かい気持ちになれるものは他にないんじゃないかな…
―― 逆に、SNSで影響力のある存在になったことで苦労することはありますか?
いつも、自信を持つことに苦労してますね。頭の中で考えすぎちゃう。なんだか不器用になった気がする。この生活にどう対応すればいいのか正確にはわからないから、一歩一歩「やってみよう」っていう気持ちでいるけど、それが難しいこともある。自分の生まれ育った場所は全く違う環境だから、今やってることに調整するのがしんどい時もありますね。
―― たくさんに人に勇気を与えていると思いますよ。あなたはその大きなロールモデルになっているし、本当に素晴らしいです。
ありがとうございます!
―― エッジの効いたスタイルをお持ちで、ネイルラインもあるとのことですが、あなたにとってファッションとは何ですか?
ファッションは僕にとってすべてだと思う。ファッションカルチャーに目を向けると、いつも刺激をもらうんです。例えば、最近のVMAやメット・ガラでの独創的な服装を見て、インスピレーションを得たり、かっこいいブランドとか服を探す場所を見つけたり、スカーフやトレンチコート、ブーツなんかのアイテムを見つけたりすることができて、本当に魅了される。でも、僕はショッピング中毒だから、やめなきゃいけないと思っています(笑)
―― アーティストにとって最大のステップとも言えるデビュー・アルバムをリリースし、さらにマシン・ガン・ケリーのミュージカル作品『Downfalls High』で俳優としても活動されましたね。ここからどのように成長していきたいですか?何をしていきたいですか?音楽的にも、個人的にも。
モデルとしても活動していきたい。俳優活動も少ししたいかな。音楽を作るのは大好きだから、今後10年間ぐらいはそれをメインにしていくと思いますが、ビジネスに関わるのもいいですね。デジタルアートみたいなクールなものに投資している人たちを見ていると、本当にいいなと思う。色々幅広くやってみたら新しい景色が見えてくるし、世界には僕を魅了するものがたくさんあるから、とにかく挑戦したいと思っています。
日本について
―― 日本に来たことはありますか?
海外は2カ国しか行ったことがなくて。バハマには、何度か行ったかな。その後、イタリアのミラノに行ったけど、それだけ。仕事で行ったんだけど、街を観光することもできなかったから、もう一回行きたいですね。
―― 日本の文化や日本について知っていることはありますか?
まず第1に、昔からずっとポケモンの大ファンなんです。だからポケモンGOが大好きになったんだけど、ポケモンGOの聖地が日本だよね。日本に行く人たちをよく動画で見てました。あと、日本のファッション文化にもすごい興味がある。LAの古着屋さんではよく着物が売られてて、めっちゃクールなんです。
もう1つ好きなのは… なんだっけ、盆栽?日本のものかわからないけど、日本庭園で、樹齢500年ぐらいの盆栽がたくさんあるのを見たんです。動物園の中だったよ。確か、動物のレスキューセンターみたいな場所で、盆栽の世話をすることが出来なくなった人が、そこの盆栽ガーデンに寄付するシステムで、素晴らしかったよ。日本庭園はすごい美しいと思うんです。ここ数年いろいろな面白いものを見てきたけど、その多くはポケモンGOのYouTuberの動画で見たものだったかな(笑)。
―― 日本の食べ物で試してみたいものはありますか?
名前はあまり分からないんだけど、ラーメンは大好き。お寿司も好き。どっちも日本で食べた方が10倍は美味しいだろうね。でも、なんか寿司バーみたいな、こう横から動いてくるやつ・・・
―― 回転式のもの?
そうそう!あれすごい美味しそうなんですよ。食べてみたい。バーみたいな感じ?巨大な円か何かで回ってるんですか?
―― そうそう、巨大な円です。私たちにとってはファストフードみたいな感じ。
そうなの??
―― はい、一皿が1ドルか2ドルくらいです。お皿が回ってきて、取って、食べて、お皿の枚数を数えてくれるんです。お皿の数に応じてお支払いするんですよ。
最高ですね。
―― 日本に来たら、是非試してみてください。きっといい経験になると思います。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
皆さん、こんにちは!いつか世界を旅するのが待ち遠しい。皆さんに会える日が待ち遠しいです。日本にいるファンのみんな、初めましてのみんな、こんにちは。僕の名前はチェイス・ハドソン、アーティスト名はリルハディです。みんなに会うのが待ちきれないし、日本に行くのも待ちきれない。行ったときは、派手にやろうね。日本では派手にやるから! みんな愛してます。
Written By uDiscover Team
リルハディ『Teenage Heartbreak』
2021年9月17日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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