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Classical Features

水野蒼生、ピアニスト角野隼斗と新作について語る最新インタビュー公開

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水野蒼生の3作目は、『VOICE -An Awakening At The Opera-』というタイトルが示すように“声”をフィーチャーした作品だ。具体的には彼と親交のある小田朋美、CHAILDのLouis Perrie、ROTH BART BARONの三船雅也、君島大空、chamiの5名が参加。

いずれもポップ系シンガーだけれど、<誰も寝てはならぬ>などオペラやクラシックの名曲を歌っている。その背景にあるのは「現代的なアップデート」という狙いだ。今回、それらの作詞にも挑戦している。

また、彼自身が作曲したオリジナル楽曲も2曲あり、そのうちの1曲で、会う前から「きっとウマがあるだろう」と思っていたピアニストの角野隼斗が参加している。94年生まれの水野と、95年生まれの角野、ともにクラシックの本流とは違うところを歩んできたアウトローである。そんな2人の共通点は、愛するがうえに抱えている「クラシックがもはや歴史上の遺産のような方向へ進んで行っている」という危機感だ。

新作について、また、クラシックの現在と未来について、いろいろ語り合ってもらった。

―角野さんがアルバムを聴いた第一印象は?
角野:サウンドのヴァリエーションがヤバいというか、進化がすごいなと思って。それと僕が参加した曲と同じように、他の曲も室内楽的な編成にヴォーカルがのるのかなと思っていたので、1曲目を聴いた時の衝撃は、すごかったです。

―進化は、意識していることですか。
水野:そうですね、クラシックを現代的に拡張させたらどうなるんだろうか、というのがある意味でライフワークになっています。そのなかで原曲を知っている人には新しい驚きとか、僕のクラシックへのリスペクトがちゃんと伝えるということも意識しています。

角野:それが出来るのも蒼生君がクラシックを学んでいるからこそ。新しいことをやるには過去を学んでいなくてはできないと思うし、学んでいるからこその説得力が蒼生君の作品にはあると思います。

―話を進める前に2人の接点を教えてもらえますか。

角野 隼斗/ラヴェル:水の戯れ(2018PTNA特級セミファイナル)Ravel – Jeux d'eau

角野:僕が蒼生君を知ったのは2019年のラ・フォル・ジュルネでパフォーマンスを観たのが最初でした。でも、すぐに接点はなく、初めて話したのは半年前くらいですね。

水野:去年のオンライン・イベントの時に初めて会ったのかな。僕もYouTubeで隼斗君のパフォーマンスを観て知っていました。まず視聴回数がめちゃくちゃ多くて、こんなに大きなファンダムを築き上げていることに希望を感じさせてもらいました。

それからつなぎ目を一切見せずにどんどん違う曲を弾いていく演奏のすごさ。時にはラヴェルの<水の戯れ>の右手のモチーフをいろんな調で展開させて、それをインタルードみたいに使っている。正直「負けたわ」って思いました(笑)。共通点を感じたし、きっとウマが合うだろうなとも思いましたね。

―共にクラシックの本流ではない、ある意味でアウトロー的なところがあるじゃないですか。そのことはどう思っていますか。

角野:僕は、2018年のピティナ・ピアノコンペティションでグランプリを獲ったのをきっかけに、急に音楽の世界で活動するようになり、クラシックのコンサートの機会をいただけるようになった一方で、YouTubeではポップスのカヴァーのようなことを自由にやっていました。

その両者は相容れないものなのだろうかと思った時に、クラシックだって昔は過去の遺産のような存在ではなかったはず。リストのように即興もする、アレンジもする、作曲もするというピアニストはいた。だから、リストのようなことをやる人間がいてもいいんじゃないかと思うようになりました。

水野:僕は、デビュー作の時から絶対に叩かれるだろうと思ってきたけれど、大御所の評論家から褒められたりして。クラシックの愛好家が聴いているようなNHK FMの番組『かけるクラシック』にゲスト出演したり、MCの代打を務めることもあったり。

それらを通して感じるのは、クラシック界の人達も何か現状を変えないといけないと思っていること。僕ら以外にも反田恭平さんとか、石若駿さんとか、直接つながってはいないけれど、若手で活躍している人が点在している。そこに希望を感じていますね。

―さて、水野さん、今回のアルバムで“声”をフィーチャーしようと思った理由は?
水野:去年のコロナ禍で、ツアーなどのスケジュールがほぼキャンセルされて、精神的にきつかった時に、人の声、歌声にこそ一番の癒しがあるとあらためて思ったんですね。癒しを求めていろんな音楽を聴くなかで、クラシック=癒しのような宣伝文句が嫌いだったのに、癒されている自分がいて、それで自然と気持ちが“歌”に向くようになりましたね。

―<誰も寝てはならぬ>をはじめ、オペラやクラシックの名曲ばかりなのに、クラシック出身のシンガーは参加せずに、いずれもポップ系シンガーですよね。この人選は意図的なものですか?
水野:クラシックの発声法というのはマイクがなかった時代に生み出されたもの。でも、マイクがある21世紀に、特にレコーディングの現場であの発声法に必然性はないと思っています。実際にクラシックを聴かない人の中にはあの発声に抵抗がある人もいます。だから、ポップカルチャーに身を置き、なおかつオルタナティブな人達に声を掛けました。全員が僕の大好きなシンガーです。

―声を掛けた人達の反応は? クラシックの楽曲を歌ってくださいと言って。
水野:みなさんに快諾をいただきました。なかにはROTH BART BARONの三船雅也さんのように「イタリア語で歌いたい」と、パヴァロッティの動画を観ながら勉強して、<誰も寝てはならぬ>を歌って下さった方もいます。結果として、原曲と同じイタリア語にしたことで、楽曲の強度が増したと思っています。

それから<誰も寝てはならぬ>は、オペラというひとつの作品からの抜粋じゃないですか。それを単体で取り出した時に楽曲の強度として弱くなると思ったので、『トゥーランドット』の1幕のフィナーレにあったフレーズを間奏に入れ込んだりしています。

これは、僕自身の思いですが、オペラにはエンターテイメント性があり、現代で言うと、映画の感覚で人々はオペラ座に行っていたと思うんですね。なので、<誰も寝てはならぬ>は、映画音楽を意識して作りました。ハンス・ジマーの影響を結構受けていますね。

角野:僕は、<誰も寝てはならぬ>の終盤に押し寄せてくるエクスタシーというか、ただならぬ幸福感を感じましたね。

―他に角野さんが気になっている曲はありますか?
角野:<献呈>とかってどんなイメージで?

水野:この曲を歌ってくれた君島大空君の音楽を僕は大好きで。彼の音楽ってシューマン的なところがあるんですよね。文学的で、抒情的で、精神的なもろさを孕みつつ、ハードロックのギターが鳴り響いたりする。シューマンにもそういった側面があったと思います。そこに共通点があると思って、彼に<献呈>を歌って欲しいとお願いしました。

歌詞は、僕が日本語で書いたので、日本語のリズムがより生かされるようなビートを作りました。さらに<献呈>という曲は、リストが編曲したものも有名なので、それをアウトロに入れ込んで、当時だってこういうものがあったというメッセージを伝えようと思いました。

―では、角野さんがゲスト参加した<VOICE Op.1>という曲について教えてください。
水野:僕が作曲した曲なので、2020年に生まれた音楽です。一番古い曲は、シューベルトになるかな。だから、1800年代の音楽から2020年生まれの音楽までが収録されていることになります。そのなかでクラシックの楽曲は、ポップ系シンガーに歌ってもらい、反対にオリジナルは、弦楽器とピアノでレコーディングすることで、クラシックを知らない人は、クラシックの楽曲だと思うかもしれない。

そういう認識の錯覚みたいなものを暗に伝えたいと思ったところもあります。これまでずっとクラシックを広めたいと言ってきたけれど、この新作ではクラシックというものがわからなくなって欲しいという思いで作りました。

―角野さんは、この曲を聴いてどう思われましたか?

水野蒼生 feat. 角野隼斗「VOICE Op.1」Teaser

角野:聴いたことがないハーモニーがずっと続く感じがあったので、彼に聞いたら、敢えて音楽理論を壊すように作ったと言ったので、これはおもしろいと思ったし、演奏しても楽しかったですね。

水野:レコーディングのやり方も全然クラシカルじゃなかった。弦楽器の人達の譜面はあったけれど、ピアノは簡単なものしか作らず、彼の家に行ったときに軽くセッションをして、こんな感じと説明しただけでした。当日スタジオで「もう少しここの音数を少なくして」とか、「逆にここはもう少し膨らませて」とか言いながら、即興のフリーセッションのようなレコーディングをしました。

僕は、レコーディングブースのなかで弦楽器の指揮をしていたのですが、ヘッドフォンから流れてくる隼斗君のピアノが毎回違っていて。何が出てくるのかわからない楽しさがありました。今度は、こう来たか、みたいな(笑)。

角野:レコーディングの楽しさは、そういうところにあると思うんですよね。相手が次に何をやってくれるんだろう、という期待感の中で一緒に作り上げていく喜び。楽譜に書かれていない部分を俯瞰して、解釈をして、自分なりに弾く。クラシックもやっているから、楽譜の大切さをわかっているけれど、ジャズのような音楽も知っている。そういう意味で<VOICE Op.1>は、その中間のような感覚がありましたね。

―ところで、この曲で歌っているのはどなたですか?
水野:実は僕です。「もし、あなたの声になれたら、どんな気分だろう」といった歌詞ですが、まさに自分のことで、物心ついた頃から声にコンプレックスがあったんですよね。でも、今回は自分で歌わなければ、意味がないと思って歌いました。

―最後に今回初めて2人でやったことで、欲が出てくるというか、一緒にやりたいことが見えてきたのではないですか。
水野:あります。たとえば、僕がDJ、隼斗君がピアノで、曲をバトンでつないでいくようなことをやってもおもしろそうだと思いますね。でも、その前にというか、1回でいいので、隼斗君を含めて、アルバムに参加してくれた人全員とライヴをやりたいですね。やっぱりライヴで見せたいという気持ちが強くあります。

Interviewed & Written By 服部のり子(音楽ライター)


■リリース情報

2021年3月31日発売
『VOICE – An Awakening At The Opera -』
水野蒼生
CD / iTunes / Apple Music Spotify (ft.小田朋美) / Spotify (ft.角野隼人) /Amazon Music



 

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