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13年の時を超えて再ブレイクしたNe-Yo「Because of You」:その理由と名曲の誕生背景を解説

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Ne-Yo「ビコーズ・オブ・ユー」

プロデューサー兼アーティストのNe-Yoが2007年に発売し全米チャート2位を記録した「Because of You」。当時の日本でも大ヒットとなったR&Bの名曲が13年の時を超え、TikTokをきっかけに再ブレイクし、2020年11月24日(イイニーヨの日)に日本テレビ系「スッキリ」で生出演&パフォーマンスが決定しました。

この曲のリバイバルヒットの理由や、楽曲誕生の背景について、音楽ライターの林 剛さんに解説頂きました。

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Ne-Yo – Because Of You (Official Music Video)

「ホイットニー・ヒューストン、セリーヌ・ディオン、メアリー・J.ブライジ、ビヨンセ、アッシャーに楽曲を提供した」というベイビーフェイスの紹介文は、そっくりそのままNe-Yoにも当てはまる。R&Bやポップスのソングライターとして、80年代から90年代に名曲を量産したのがベイビーフェイス(本名:ケネス・エドモンズ)なら、2000年代中期以降はNe-Yo(本名:シェイファー・スミス)というほど、彼が書いた曲は多くの人に愛されてきた。

男女の心の機微を巧みに描くストーリーテラーであり、センチメンタルな雰囲気を滲ませる甘くテンダーな歌い口のヴォーカリストである彼は、2012年から在籍するモータウンにて要職(A&R部門のシニア・バイス・プレジデント)に就いたことも踏まえると、かつてのスモーキー・ロビンソン的な存在であるとも言える。

今ではブルーノ・マーズやエド・シーランに先駆けたポップ・アイコンとして紹介したほうがよさそうだが、デビュー時から彼を追っているファンは、2000年代にR&Bの流れを変えた革命児として記憶しているだろう。その功績をざっくりと言えば、ゴスペルを基盤とする伝統的なR&Bの唱法にこだわらないライトなヴォーカリゼーションとポップな楽曲でR&Bのクロスオーヴァー化を推進したこと。“Ne-Yo以降”という言葉も生まれ、アジアを含めた世界各国から“美メロ王子”“セツナ系”などといった売り文句のもと多くのフォロワーが登場した。

ジャスティン・ビーバーも、まだ12歳だったデビュー前に地元のコンテストでNe-Yoの「So Sick」(2005年)を歌い、その動画を母親がYouTubeにアップしたことで注目を集めてデビューのきっかけを掴んだ。それくらいNe-Yoの影響力は大きかった。

Justin Singing So Sick by Ne-yo

 

TikTok経由のリバイバルヒット

もちろん今も現役のスターだが、今年は新曲が立て続けに発表される一方で、TikTok経由で2007年のヒット曲「Because Of You」が再び注目を集めている。TikTokは、2016年から中国のバイトダンス社が運営し、2018年頃から世界的に人気が急上昇した、ショート動画を作成/投稿するプラットフォーム(余談だが、Ne-Yoの祖父はチャイニーズ・アメリカンだ)。

ポップ・ミュージックと親和性が高く、BGMに合わせて口パクで歌うリップシンク動画、特に“踊ってみた”系のダンス・チャレンジ動画をハッシュタグ付きでシェアするのが主流で、ファンやインフルエンサーの投稿によって新人アーティストの曲がバズを起こしたり、昔の曲がリバイバルすることも少なくない。

「Because Of You」は後者のリバイバル・パターン。カップルや友達、家族、同僚などがペアとなり、お互いの背中をぶつけて喧嘩しそうになるも、すぐに仲直りして肘をつき合い、腕を回しながらステップを踏むダンスが「#BecauseofYouChallenge」というハッシュタグをつけて拡散され、2020年9月の時点で80万本以上投稿されたことが報じられた。

Ne-Yo – Because Of You Challenge

日本でも嵐の櫻井翔と二宮和也がチャレンジ動画をアップし、Twitter上でNe-Yo本人が反応するなど、著名人の投稿も後押しとなり、楽曲のストリーミング数、ダウンロード数も急激に伸びているという。

「Because Of You」といえば、2017年に、Ne-Yoがカメオ出演した映画『Girls Trip』のサウンドトラックにアダム・ブラックストーンが手掛けた〈Girls Trip Remix〉が収録されて一部で話題になったが、今回のTikTokをきっかけにしたリバイバルは規模が違う。世界中で何かと衝突が多い今、“仲直りのダンス”が人々の共感を呼んだ…のかどうかはわかりかねるが、コロナ禍でステイホームを強いられる中、気晴らしとしてチャレンジしてみたという側面はありそうだ。

 

「Because Of You」の誕生と内容

では、「Because Of You」は、そもそもどんな曲だったのか。リリースは2007年前半。全米ポップ・チャート1位となった「So Sick」と同曲を含むデフ・ジャムからのデビュー・アルバム『In My Own Words』(2006年)がグラミー賞にノミネートされるほど評判になった後、2作目(2年目)でダメになるソフォモア・ジンクスを恐れながら取り掛かったセカンド・アルバム『Because Of You』(2007年)の先行シングルとして発表された。

13年前の曲ということでは、次期米国副大統領の座を勝ち取ったカマラ・ハリスが勝利演説の入場曲に用いて再評価されているメアリー・J.ブライジの「Work That」と同じであり、アリシア・キーズの「No One」と同じ年の全米ヒット。そう言えば時代感がはっきりするかもしれない。

Ne-Yoの恋愛体験を反映したとされるこの曲は、本人によるオフィシャルのコメントによれば、「ある人のことが好きすぎて、のめり込んでしまうんだ。何度別れてもまた戻ってしまって、“キミのせい(Because of you)”で自分を抑えられないっていう歌」

「君に夢中で夢と現実を彷徨っているようだ。君をやめられない…」と歌われるこれは、前作からのシングル「Sexy Love」の続編的なニュアンスを含む曲だとも語っている。喧嘩して仲直りするTikTokのダンスもおそらく、「何度別れても、また戻ってしまう」という歌の内容に沿ったものなのだろう。素直に解釈すれば恋人に惚れ込んだ男の切なくもロマンティックな歌だが、しかし、実際はもう少し生々しい。

当時公開された複数のインタヴューを読むと、「体の相性が良かっただけで、その関係に未来はない。本当は一緒にいるべきではないのに、どうしても会うのをやめられないと苦悩しながらも会ってしまう」という歌で、そうなるとこれでウットリするのはちょっと憚られる。改めてリリックの背景を探ると、爽やかな四つ打ちのトラックは後ろめたい気持ちを拭い去りたい焦りを表現したようにも思えてくる。

曲をプロデュースしたのはNe-Yoとペンを交えたミッケル・S.エリクセンとトール・エリック・ヘルマンセンからなるノルウェー出身のプロデューサー/ソングライター・チーム、スターゲイト。80年代〜90年代の名プロデューサー・チームがジャム&ルイスやLA&ベイビーフェイスなら、2000年代はスターゲイトというくらいの存在だ。

ギター、ベース、クラップ音をあしらったスムーズなディスコ調のサウンドは当時R.ケリーがやっていたステッパーズにも近いが、ハープシコード風(キーボード)の美麗なリフは同じくスターゲートとのトライアングル体制で作った「So Sick」や「Sexy Love」でも用いていたハープの音色を思い出させ、それらを意識して作ったことがわかる。R&Bに縛られない万人受けする明快なメロディは、ブルーやミスティークといったUKのポップ/R&Bアイドルを手掛け、リアーナに関与して本格的にUS進出を果たしたスターゲイトの真骨頂。

Ne-Yo本人も認めているように「Because Of You」は、後の『Year Of The Gentleman』(2008年)や『Libra Scale』(2010年)で顕著になるマイケル・ジャクソンの雰囲気を取り込んだ曲で、センシティヴなヴォーカル、特にブリッジ部の多重コーラスはマイケルが乗り移ったかのようでもある。スターゲイトは、マイケルに憧れるNe-Yoをクインシー・ジョーンズのような気分で手掛けたのではないか。

全米シングル・チャートでは、ポップ・チャート2位、R&Bチャート7位を記録。ポップ・チャートの成績がR&Bチャートを上回ったのは「So Sick」(ポップ1位/R&B3位)と同じで、R&BにとどまらないNe-Yoとスターゲイトの全方位的なポップネスが証明された。

日本でも取り立ててR&Bとして意識されずに親しまれ、国内外でいくつかのカヴァーが登場する中、平井堅が『Ken’s Bar II』(2009年)にてアコースティック・カヴァーを披露。ビリー・ジョエルやスティーヴィー・ワンダーなどの名曲と一緒にカヴァーされたことによって、「Because Of You」が普遍的な魅力を持つ曲なのだと改めて気づかせてくれた。DOUBLEのTAKAKOがDJ Lilly a.k.a. DOUBLE名義のミックスCDシリーズ第2弾『Second Virgin Mix』(2009年)に収録したカヴァーも“誰もが知っているR&Bの名曲”としてのそれだったはずで、どれだけ広く浸透していたかの証である。

そして2020年。今回のリバイバルを受けてなのか、10月には「Because Of You」を含めた4曲入りのEP『This one is for you, u and you』がデジタル・リリースされた。他の3曲は、「Because Of You」のカニエ・ウェストを招いた既発リミックス、今年発表したジェレマイとの共演シングル「U 2 Luv」(エムトゥーメイ「Juicy Fruit」とザップ「Computer Love」を引用)、そして2012年作『R.E.D.』からスターゲイトが手掛けたEDM調の「Let Me Love You(Until You Learn To Love Yourself)」。

現在「U 2 Luv」もエレガントなダンスを踊る「#U2LuvChallenge」がバズを起こしており、それも含めてメジャー・デビューから15年を迎えたNe-Yoの過去と現在を伝える企画であり、新しいファンに向けたリリースでもある。

Ne-Yo, Jeremih – U 2 Luv

昨年は初のクリスマス・アルバム『Another Kind Of Christmas』を出したNe-Yo。今年も新曲のリリースが続き、最近クイーン・ナイジャとリル・ダークが加わったリミックス・ヴァージョンも登場した「U 2 Luv」のほか、O.T.ジェナシスを招いて自身の離婚について歌ったトラップ調の「Pinky Ring」を発表。チャーリー・ブラックのダンスホールR&Bとでも言うべき「Over Again」に客演もしている。

また、ブラック・ライヴズ・マター運動に同調したヴァーチャル・ライヴ〈Black Power Live〉では「U 2 Luv」を披露していたが、先日はR&Bやゴスペルのシンガーを中心とした総勢18組によるチャリティ・ソング「Change」に、ジャーメイン・デュプリ、ジョンテイ・オースティン、エリック・ベリンジャーらと参加していた。「Because Of You」のリバイバルを受けてリリースされるニュー・アルバムがどんな内容になるのか、今回はいつもと少し違う期待を抱いている。

Written by 林 剛


Ne-Yo「ビコーズ・オブ・ユー」
Ne-Yo『Because of You』
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music



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